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嘘吐きと二重人格

主人公と二重人格の出会いまで 未完です 7/29更新

外を出ると実にいい天気だった。

週の終わりも近い中、こういう小さなことに喜びを見出していかないと

週末まで体が持ちそうになかった。

鞄を背負い見慣れた通学路を歩いているといきなり背後から声が聞こえてきた。


「そういえば新聞見たかい?ココらへんで通り魔事件だって言うじゃないか」

「なにナチュラルに話しかけてきてるんですか?不審者として通報しますよ?」


持ちそうにない原因である「嘘吐き」と呼ばれる男だった。


「なぁに、よくあることさ」

「あったら困るんですよ。それよりもう一人は何処に?」


男は首を傾げた、どうやら理解していないようだった。

僕は仕方なくパーカーの女性と言う単語を付け加え聞き直した。


「ああ、収集癖(コレクター)か。彼女はこの街の情報を集めに行ってるよ」


口調から先程よりテンションが低くなったように感じた。

まあ正直僕にはそんなことどうでもよく、知りたいのは収集癖のことだった。


「情報収集が趣味だから収集癖なんですか?」

「ん…情報だけじゃないがね、物でもなんでも集めるのが好きなんだそうだ。それと…」

「それと?」

「敬語直ってないぞ」

「…………」


晴天の中、僕ら2人の上だけは雲がかかっているような気がした。




どうやら嘘吐きは学校に付いてくる様子だった。


「なんで付いてくるんです?」

「人を玩具のおまけのラムネみたいに言わないでほしいな、あれはあくまで食玩という形式…」

「そんな話はしてない」

「友達をつくるならまずは同じ学校の生徒からではないのか?」

「嘘吐きは目立つ」

「不満か?」

「僕が教師だったら警察呼んでるね」

「奇遇だな、私もだ」

「別に僕は嘘吐きと不毛な話をしたいわけじゃないんだ」

「私は君の声を聞いてるだけで満足なのだが」

「付いてくるなといっても付いてくるのはしょうがない、嘘吐きの協力的な姿勢の結果だからね」

「やけに寛容的ではないか」

「学校内で僕の意思を無視して話かけてきたら舌噛み切るから」

「…善処しよう」


自分が思ったよりこの手段はなかなか有効的なようだ。







*

「~で、あるからして作者が何を伝えたいのかは…」


現代国語の授業は個人的に好きな授業の一つだ。

強いて不満を上げるなら、先生が僕の好みでは無いことぐらいだろうか。

しかし今日はいい天気だ、日差しが強く感じる。

僕の席は皆が羨む窓際の席だが、こういった日差しの強いはなかなかにつらいものがある。

厚手のカーテンが間にあるとは言え梅雨明けの日差しはなかなかに攻撃的だった。


「…………」


カーテンに人影が見えた。


「…………」


人影は手を振っている。



終業のチャイムが鳴った。カーテンをめくり窓の外を見る。


「嘘吐き…」

「授業は退屈だろう、早速友達を探しに行こうではないか」

「HR終わるまで待っていてください」


注意する気力も沸かないこの状況で僕に出来る事といえば、ただ見たままの現状を受け入れることぐらいだった。



「放課後になりました」

「いったい誰に向かって説明してるのかね」

「気のせいです、ところで何か作戦とかあるんですか?」

「うむ、とりあえず手当たり次第に友だちになってくれと言えばいいのではないかね」

「旧日本軍的な作戦はやめてください」


地雷原に飛び込むベトコンになる気も毛頭ないが、片道分の燃料で飛びたくもない。


「もっと確実性があって現実味のある作戦はないんですか?」

「とりあえず図書室にでも行こうじゃないか、フラグなんて大抵そういうところにある」

「フラグって言わないでください」

「なんにせよ放課後に人が集まる場所なんぞ、大体は決まっているものだ」

「良いですけど、付いて来ないでくださいね」

「…そうはいかん」

「舌を…」

「今回は確実に少年の友達を作らねばいけない」


君の声を聞くためにも、と小声で付け加えたのは無視することにした。


「そうは言ってもその見た目じゃ…」


この暑い夏の日差しを受けても汗一つかかないこの男に疑問を抱かないわけではないが

まず指摘しなくてはいけないのは容姿だった。


「なあに、私は嘘吐きだぞ」

「関係あるんですか?」

「つまりはごまかせば良いわけだ」


僕は首を傾げた。

すると男は僕を静止するよう促した後、僕の視界から居なくなった。

詳しく言うと男は傍のトイレに駆け込んでいった。


「見た目に嘘を吐けばいいのだよ」


どこから拝借したかは知らないが、男は僕と同じ格好をしていた。

つまりはトイレで制服に着替えたということらしい。

男の手には鞄が握られており、恐らく先程まで来ていた服は中に入っているのだろう。


「泥棒は犯罪ですよ」

「この学校の制服はやはり地味だな」

「犯罪ですよ」

「どこからどう見てもこの学校の生徒にしか見えないだろう」

「そのシルクハットを外したら完璧なんじゃないですか」

「……」


男は黙って帽子を鞄の中に閉まった。


「そう言えば少年よ」

「なんですか?」

「いきなり初対面の生徒に話しかける行為には抵抗はないのかね?」

「今更何を言ってるんですか、普段と違うことをしないと効果がないわけですからそれくらいはしますよ」

「いや、そういう意味ではなくてな…」

「…?もったいぶらずに教えてください」

「私以外と問題なく話せるのか?と思ってな。私と初めてあった時も口から言葉が出てこなかったじゃないか」

「…あれは驚いたからで」

「まあ問題がないなら良い」

「……」







*

「誰もいないではないか」

「まぁ、いるのは図書委員ぐらいですね」


意気揚々と図書室に入っていった時の顔と打って変わって、男の顔は実に不満気であった。

僕としてみれば人が少ないほうがありがたいし、ああ言ったもののやはり初対面の人と話すのに抵抗が

ないわけじゃない。僕にとっては好都合だった。


見渡してみても僕達の他に利用している人は見当たらず、

当番であろう図書委員しか居なかった。

女性だった。


「ぼっちにはハードルが高いんじゃないのかい」

「挑発ですか?それより図書室では静かにしてください、委員に睨まれますよ」

「では頑張り給え少年」


結果的には男の挑発に乗ってしまった事に気が付き後悔した。



図書委員は僕達の会話を注意することもなく黙々と本を読んでいた。

顔は黒い長髪に隠れてよく見えないがページを捲る指先を見るに美人そうだった、根拠はないけど。

今までの経験から考えるに美人の友達なんて僕には無理そうだ。

これは決してネガティブな思想からたどり着いた結果ではなく、あくまで常識的にかつ客観的に考えた故での

結果だった。

後ろを見ると男は三三七拍子の動きをしていた、死ねばいいのに



「あ、あの…」

「…はい?貸し出しですか?」


思ったよりもか細い声だった。

髪をかき分けた図書委員の顔は僕個人での感想を述べると、綺麗な人だった。


「あ…いえ…その……」


相手の目が見えない、早く逃げ出したい。


「…?」

「あ、あのですね…」


今、図書委員はどんな顔をしているのだろうか、怒り顔になっていないだろうか。

うつむいている僕は確認することすら怖かった。

言おう、早く言ってこの場を切り抜けて男の前で舌を噛むんだ。


「僕と…友だちになってくださいっ」

「えっと…、いきなりどうされたんですか」

「その友達が欲しくて…ですね、すいません失礼しま」


そう言い放ち、図書室から退室しようとドアの方を振り向いた瞬間、

図書委員に袖を掴まれてしまった。


「またなんですね…?」

「え?」

「…またいじめられているんですね」


僕の知らないところで僕のことを知っている人がいるというのは、

必ず「いじめ」つながりなのだなと言うことをこの時再認識したのだった。


「わ、私…、貴方のことは噂で知ってたんです」

「はぁ…」


男のほうを見る、何やら不満そうな顔つきだ。死ねばいいのに

図書委員の方を見る、何やら涙目になっている。涙目なのは僕の方だと思う。


「き、今日はぼぼ僕が言うのもあ…あれですけど、突然過ぎたので」

「…はい」

「ごご後日っ、返事をくださひっ」


僕は逃げ出した。







*

「少年よ、あれでは告白ではないか。しかもフラれるパターンの」

「五月蝿い嘘吐き」


放課後の裏庭は夏場にしてはなかなか涼しかった。

が、今の僕の心のほうが確実に寒かった。


「色々驚くことがありすぎて僕はもう疲れたよ…」

「私は君の多種多様な声が聞けて非常に満足だが」

「他人事みたいに言いますね…原因そのものが」

「強いて言うなら私は女性が嫌いなのだよ、あの時はあの図書委員一人しか居なかったわけだが」

「関係ないじゃないですか、性別なんて」

「今後告白まがいの行為は控えたほうがいいぞ、友達とはまず同性から入るものだ」

「性別選り好みしてる余裕なんてないんですよ」

「なら尚更だ、異性の知り合いができたら同性の知り合いは作りにくくなるぞ」

「嘘ですよね?」

「勿論」


ため息しかでなかった。


「僕はもう帰りますよ、大した収穫じゃないですか。僕のいじめがどれだけ認知されているか知ることが

 できたわけですし」

「…ふむ」

「あと、嘘吐きの使えなさも知ることができました」

「…気をつけて帰ることだな、道で誰かに襲われるかもしれないからな」

「はいはい」







*

あれからは特に何も起きず無事に帰宅することが出来た。

嘘吐きと出会ってからは帰宅しても何かすることもなくただ疲れを取るために休んでいた。


「でもたしかにあれじゃあ告白だよなぁ…」


誰に言うわけでもなく僕は呟いた、なにか吐き出さないような気がしたからかもしれない。

だからこそ決して


「どんな感じだったんだい?まあ大体は知ってるケド」

「不法侵入」

「気にしないで欲しいなぁ君とボクとの仲だろう?そりゃあ確かに君に内緒で部屋に上がり込んだのは

 悪いことだと思ってるよ?それでも君のことを思ってこういう手段をとったんだ、許して欲しいな」

「どんな理由があってもパーカー女がボクの部屋に無断で入っていいことにはならないと思うんですがね」

「君は嘘吐きみたいに物事をはっきり言うタイプなんだね」

「あれと一緒にしないでもらいたいですけどね、収集癖さん」


このパーカー女に聞かせるために呟いたわけではなかった。


「ボクの名前、覚えていてくれたんだね」

「まあそこまで記憶力が低いってわけでもないんで」

「覚えていてくれるに値しているって事実が嬉しいってことさ」


嘘吐きの影に隠れがちだがこの女もなかなかに変人だった。


「今日も両親は帰りが遅いんだろ?ちょうどいいじゃないか、ボクと話をする良い機会だと思うけどね」

「そこら辺に僕の意見は含まれているんですかね?」

「善処はしているつもりだよ」

「相変わらず日本は腐ってますね、まあ今さらですけど」


やけに密着してくるこの女は、クーラーがかかっているとはいえこの上なく暑苦しかった。

そもそも何故この暑い季節にパーカーなのか着ているのだろう?ある種のキャラ作りなのだろうか?

絡ませてくる収集癖の手を振りほどき早く話を進めるよう促した。

追い出すのは無駄なような気がしたからこそ、早く話を聞いた上で自発的に帰るのを待つしか無いと判断したのだ。



収集癖の話はこうだ。


「自己紹介がしたい」


以前の紹介では詳しく理解してもらえなかっただろうという話の上で、改めてしたいとの事だった。

一つ問題を上げるとするなら、僕がこの2人について深く知りたいとは思っていないことだった。


「ボクら2人は一応利害の一致の上で行動してる、これはわかるよね?」

「わかりません」

「減点1ね、まあ話を続けるけどボクは嘘吐きとある種の契約をしてるわけなんだ」

「結構重い話なんですね」

「嘘吐きはボクの声の為にボクの収集活動に協力してもらってるんだ」

「つまりは僕と一緒と」

「そうだね、だから互いに利用する関係で進んでるんだ。そもそも嘘吐きは女性嫌いだしね」

「随分軟派そうな感じですね」


収集癖はただ笑っているだけだった。


結局僕は期待していないだけなのかもしれない。

どう考えてもプラスになり得ないあの二人が一体どうやって僕に友達をつくるというのか。

僕はあの時、ただ逃げたい一心で協力することに納得してしまったのではないだろうか。

自分から「嘘吐き」と名乗る男を信用するほど僕は愚かなつもりはなかった。


「彼の声に関する執着心は君が思っている以上に強いものだ」


収集癖の目は笑っていなかった。


「君がその声で話している間は、嘘吐きの嘘を信用しても問題はないよ」

「嘘を信用する?」


一体どういう意味だ? 嘘吐きのことを信用するの間違いじゃないのか?


「嘘吐きが君に吐く嘘は十中八九、君のためを思ってのことだよ」

「面白い冗談ですね」

「それほどまでに君の声が好きなのさ」


「声」と言う部分をただ強調する収集癖は、話を続けた。


「自己紹介というには少し脱線してしまったかな、まあ君も趣味のネットラジオをしたいだろうし僕はそろそろ 

 帰ることにするよ」

「一々一言多い気がしますがお気をつけて、最近不審者が多いらしいですから」

「そうなんだ、気をつけるよ」

「…皮肉って知ってます?」


収集癖は手を振って窓から落ちていった。

僕は外を確認することもなく窓を閉め鍵をかけた。

とりあえず寝よう、とにかく今日は疲れた。







*

「今日もいい天気だな!」

「あ…うん、そうだね。いい天気なのは僕もわかってるから…手を引っ張るのはちょっとやめて欲しいかな」

「なんだよ、オレと手をつなぐのは嫌だってぇのか?」

「いや、そういうわけじゃないんだ。でもなんだ、これだと目立ってしまうから…」

「トモダチなんだから手をつなぐくらい当然だろ?変なこと言うなぁ」


僕は今、この活発ガールと通学中である。

どうしてこうなったのかを話すと長くなってしまうが、状況を説明するには一言で充分だった。

彼女は昨日の図書委員なのだ。


「昨日とは…随分印象が違いますね」

「そうか?まあ昨日のことなんてあまり憶えてないけど」

「…へぇ」







*

今朝、家のインターフォンが珍しく鳴った。

両親はもう仕事に出かけていたので、仕方なく僕が応対することにした。


「おっはよう!やっぱり家ここだったんだね!」

「…図書委員さん?」


何故疑問符が付くのかというと、見た目は間違いなく昨日の図書委員なのだがその仕草や発言が昨日とは別人だったからだ。


「図書委員さんは…」

「深山」

「え?」

「深山充希、オレの名前」

「みやまさん…ですね、わかりました」

「なんか他人行儀だけどまあいいや、早く学校行こうぜ」

「ちょっちょっと待ってて、荷物取ってくるから」


鞄を持った後、服を着替えてないことに気が付き慌てて部屋に戻ったりしながらも、

どうにか五分後には通学できる状態になっていた。


「結構朝は慌ただしいんだな」

「普段はそうでもないんですけどね」

「オレも準備に時間はかかるけど、ちゃんと余裕を持って起きてるからな」

「僕もそのはずなんですけど、生憎今日はいつもと違っていたもので」

「そうなのか、大変だな」


どいつもこいつも、僕の周りには皮肉が通じない奴ばかりだ。

「昨日はちょっと驚いちまったけど、こうして友達になれたんだからオレは嬉しいよ」


彼女は嬉しそうに笑った。

僕も友達が出来たことは非常に嬉しいことだ、でもそれ以上に彼女の変化が気になっていた。

彼女のこの積極性は一体どこからくるのか、僕はひとつの考えが頭に浮かんだ。


これは僕に対するいじめの下準備ではないのだろうか?


本などでよく見る話だ、近寄りがたい奴に近づいていい雰囲気になったところでネタばらし、

所謂ドッキリというやつだ。

ネガティブな発想かもしれないが、僕に友達ができるよりも確率は高いと思った。

逆にこれはドッキリなのだと考えれば大体のつじつまが合うような気がする。

僕の家を知ってるのも彼女のグループでの情報なのだろう、

こういうことをするくらいなのだから他に協力者が居てもおかしくない。

そしてドッキリだからこそ、ここまで積極的になれるのだろう。

僕は仮説に確信を持った。



「僕も嬉しいです、あんな拙い話で少し不安でしたけど」

「オレは気にしないけどなそういうの、まあちょっと聞き取りづらいところはあったけど」

「気にしてるじゃないですか」

「はははははは」


僕を握る手に力がこもった、少し痛い。


「お、そろそろ学校か、残念だけどクラスが違うから…、またお昼な」

「え?」

「なんだよ、お昼一緒に食べるだろ?」

「いや僕は学食だから、深山さんはお弁当でしょ?」


勝手な極め付けだが恐らく間違ってはいないだろう。

僕は彼女を学食でみたことがない。


「大丈夫だ、お弁当二人分作ってきたから」

「二人分も食べるんですか、結構食べるんですね」

「おい」

「冗談です」


眼が本気だった。



彼女は僕に約束の念を押した後、手を振りながら校舎へと入っていった。

後ろ姿だけ見ても、なかなかの美人だった。

汗ばんだ手をズボンで拭き、僕も校舎へ入ろうとした、その時だった。


「青春してるじゃないか」

「相変わらず制服が似合ってないですね


神出鬼没なのは嘘吐きの専売特許なのだろうか?

今更ながらの問いであることはわかっていた。


「彼女、思ったよりいい子みたいだな」

「そうですね」

「みた感じは良い関係を築けてなさそうだが?」

「見たまんまです」

「ふむ…、まあ今日の私は黙っていることにしよう」

「珍しいですね、会って間もないですが嘘吐きは常に話をしてないと死んでしまいそうな気がしますけど」

「少年は僕をマグロか何かと勘違いしてやいないかね?」

「よくわかりましたね」


嘘吐きは傷ついたようなリアクションをし、僕の目を見て言った。


「彼女、思った通りの娘では無かったな」

「そうですね」

「見た様子では少年が戸惑っているようだが?」

「見ての通りです」


僕の返答に頷き、嘘吐きは静かに一歩下がった。


「解離性同一性障害と言うものを知っているか?」

「知らないですね」

「まあ今知る必要は無いことだ、だから私は一度少年から離れよう」

「…?一体どういう意味で……」

「ではさらばだ少年、よい青春を」


まただ、また嘘吐きは僕の前から煙のように姿を消した。

…校舎に備え付けられた時計を見る、なかなか危ない時間だ。

僕は慌てて校舎に入っていった。







*

「…待ちましたか?」


昼休みのチャイムが鳴って数分立った後、見覚えのある姿がドアの傍で見えた。

それは昨日、僕が告白まがいの「友だちになってください宣言」を了承してくれた人で

今朝の嵐のような通学気分を経験させてくれた深山さんだった。

深山さんは僕の姿を見つけると手を振ってきた。


「いえ、と言うよりよくクラスわかりましたね」

「ちょっと探すのに手間取ってしまいましたけど…」


まあ僕の家の場所がわかるくらいなのだからそれくらいは容易いことなのだろう。

気持ち周りの視線が若干僕らに当たっているような気がするが、気のせいではないのだろう。

彼女は手に持った弁当箱を見て言った。


「今日は司書の先生が司書室を使う許可をくださったので、そこで食べませんか?」


朝の様子を見るに僕は断れないのだろう、素直に彼女の提案に従うことにした。



「司書の先生は?」

「お昼は職員室で食べてるらしいですよ」


つまりこの部屋には僕と彼女しかいないことになる。

…どこかにカメラでも仕掛けてあるんじゃないだろうか、

部屋に二人きりと言う空間は僕にとっては良い雰囲気も何もあったものじゃない。

普段の僕の暮らしからかけ離れた「非日常」なのだから。


「さあ、食べましょうか」

「あ、はい。…いただきます」


見たところおかずが腐っている様子もない、むしろ美味しそうだ。

とりあえずおかずを一品、箸でつまみ口元へと放り込んだ。


「お、美味しいですね」

「貴方にそう言ってもらえると、嬉しいですね」


…明らかに朝と様子が違うことは突っ込んだほうがいいのだろうか

低血圧な人間の逆みたいに朝だけはテンションが高い人間が居ても不思議ではないが、

それにしては随分極端な変わり様だった。

これは指摘するべきなのだろうか?


「深山さん、朝と随分雰囲気が違うんですね」

「…そうかしら?あまり朝のことは憶えてないんだけど…」


恐らく指摘してしまったことが間違いなのだろう、

深山さんは申し訳なさそうに僕を見てくるので、僕は自分の指摘が間違いだと言うことにして

深山さん自慢のお弁当を食べることに集中した。


「ご馳走様でした」

「お口にあってよかったです」

「こちらこそ美味しいお弁当ありがとうございます」


味以前に自分のお腹を心配していたとはまだ口が裂けても言えなかった。

だがこのお弁当も僕を油断させるための罠なのだろう、なかなか向こうも時間をかけているようだ。


「また明日も作ってきますね」

「…ありがとうございます」


…なかなか向こうも時間をかけているようだった。



「昨日は突然過ぎてびっくりしましたけど、私は嬉しかったんですよ」

「嬉しかった?」


今度は褒め殺す作戦なのだろうか?

深山さんは食べ終わった弁当を片付けながら呟いた。


「私もあまり友達がいないので、こういったきっかけは本当に嬉しいんですよ」

「…深山さんは詐欺とかに引っかかりそうな気がしなくも無いです」

「どういう意味かは分かるけど、分からないことにしておくね」


深山さんは笑顔で言った。

その笑顔は眩しいと言うよりは痛かった。




「私には貴方を守れないけど、友達にはなれると思ってる」

「…なんの話です?」

「私の話、お弁当が美味しいと言ってもらえたら、こう言おうと思ってたの」

「よくわからないですが、分かったことにしておきます」

「そういうのは口に出しちゃダメじゃない?」

「そうですかね?」

「…でも、今日はいっぱい話せて良かった。今週私図書当番だから一緒には帰れないけど…」

「いや、そこまで…」

「来週から一緒に帰ろうね」

「あ…はい……」


深山さんは終始笑顔だった。

まるで嘘吐きの嘘のようだなんて思う僕は間違っているのだろうか。


「じゃあ僕はこれで…」

「ええ、また明日」

「…はい」


明日にと言う言葉強調して深山さんは自分の教室へと戻っていった。

その後ろ姿を見送ると僕は残りの昼休みを満喫するために廊下へとでていった。


ちょうど、チャイムが鳴った。







*

退屈な時間とは思うもののこれが学生の本分だと言うことを考えると、

真面目に取り組まねばならないことなのだろう。

そう考えているうちに放課後を迎えたということは、

結局は頭の中になにも入らなかったということだ。

一応頭がわるいということは自覚している。


深山さんは図書委員で放課後は忙しいらしい。

まあ朝の件があるから一緒に帰りたいとは思わなかったし、

一人で帰ることに今更抵抗があるわけでもなかった。

僕は下駄箱で靴を履き替え、外へと向かっていった。


「少年、今日も1日勉学に励んでいたようだな。感心感心」

「嘘吐きに褒められてもなにもプラスになる気はしませんけどね」

「良い青春を送っているそうじゃないか、美味しかったかね?」

「……しばし離れるとか言ってませんでしたか?」

「収集癖からのアプローチを受け取ったまでだが?」

「もう帰りますんで」

「送って行こう」

「いいです」


結局付いてくるのは目に見えてるので、僕はただ無視することにした。

嘘吐きは僕に大して何か聞くわけでもなく、ただ僕の横に付いてくるだけだった。

単純に気持ち悪いということもあってか僕が歩くペースを早めようとした時、

嘘吐きは僕に声をかけてきた。


「解離性同一性障害と言うのは心的障害やストレスから発生した感情や記憶を切り離し

 精神的なダメージを回避しようとすることによって発生すると言われている」

「急に何ですか?」

「所謂「多重人格障害」と呼ばれるもので私が認識する悪癖の一つだ」

「……」


誰のこと言っているかはなんとなく理解した。それを踏まえて僕は嘘吐きに問いただした。


「深山さんがそうである…とでも言いたいんですか?」

「…そういうことでは無いかな」

「ではなんで急にそんな話を?」

「朝聞いたではないか、君は知っているかと?それで君は知らないと答えた。なら私が君に

 話をしても不思議ではあるまい?知らない知識がひとつ身についたのだからそのことに関しては素直に喜ぶべき

 だと思うがね少年よ」

「嘘吐きに対して好意的な反応を見せるのは負けだと思ってます」


つまりは「今必要な知識」と言うことだ。

嘘吐きは確かに朝、僕に対して言った「いま知る必要はないこと」

だから朝はそれ以上追求はしなかった。

ただ、今こうして僕に説明したということは…


「まあ私一人で充分だと言うことだ少年」

「全く意味がわかりません」


ヒントにすらなっていない嘘吐きの発言に期待することはない

つまりは「深山充希」と言う存在に対しての警告なのではなく、

「知識として知っておくこと」が嘘吐きの言い分であるとするなら

ただ聞いておくだけでいい、これ以上問いただす必要も無い。

歩くペースを早めた。


「そもそも多重人格と言うのもなかなかメジャーな精神病ではないかね?」

「…そうですか?」

「大抵の創作物には出てくるではないか、映画にしろ漫画にしろ…小説にしろ」

「そういう意味ですか、それなら確かにその通りかと」

「…少年は本当に敬語を治す気がないのだな」

「治したいんですけどね、癖みたいなものです」


言ってしまえば距離を置きたいという意味を込めての事だ。

敬語を抜きにしてしまうと落ち着かないという意味で癖と言うのであれば、僕の理屈は間違っていないだろう。


「まあいいだろう、それより一つ気になることがある」

「今度は何ですか」

「深山少女の事だ」

「…っ」


ここで名前が出ることに少し戸惑った僕はそのまま顔に出てしまったようだった。


「少年は正直者だな。まあ大したことじゃない、あれ程までに親密な関係を築きそうな彼女が下校は付き添わないのが

 私には疑問でね」

「ああ、そのことですか。深山さんは図書当番の関係で忙しいそうです」

「なるほど…、では」


嘘吐きは僕の背後に向かって声を出した。


「貴様は何者だ」








*

「オレのダーリンに何してやがる」

「ダーリンって…」

「ダーリンって…」


現状を簡潔に説明すると、

僕の背後に深山さんが居た。

それだけのことだがそれだけでじゃなかった。


「見知らぬ人と話すときは自分から名乗り出るべきだと思うが?」


嘘吐きは僕の前に立ち、深山さんに述べた。

深山さんは先程の話し方を聞くに朝の状態のようだった。


「あ?…そうだな、一応名乗ってやるよ。オレの名前は深山充希だ」

「ほう、格好良い名前だな」

「褒めても嫌悪感しか出ないぞ」

「どうも私は他人に好かれないらしいな、まあ分かりきっていることだが…。

 私の名前は嘘吐きと言う、本名はマイケルだ。気軽に嘘吐きと呼んでくれたまえ」

「お前の名前やお前が何者なのかもどうでもいい、肝心なのは「お前」が「オレの友達」と一緒にいると言うこの事実」


深山さんはよくわからないが殺気立っていた。

…よくわからないわけじゃない、恐らく嘘吐きと僕が一緒に下校しているのが気に入らないのだろう、

僕としてはとても信じたくないことだが、深山さんの発言を聞くにそれは間違いない様子だった。


「…どういう事だ少年」


嘘吐きは小声で話しかけてきた。


「よくわからないよ、彼女は僕にドッキリをさせるために僕と友達になっている筈なんだけど…」

「ドッキリ?またよくわからないことをしているのだな」

「僕じゃないよ」


少し声を荒げてしまったが、彼女には聞こえていないだろうか


「おい、なにヒソヒソと話してやがる」

「君には関係のないことだ深山少女よ」

「名前を呼ぶんじゃねぇ、気持ち悪い。それよりとっとと離れろ、離れないなら力づくでいかせてもらうぞ」

「ほう、面白い。この私から力づくでときたか」

「その燕尾服はなんだ?格好つけのつもりか?全然似合ってないぞ」

「女娘ともあろうともがその言葉遣い、キャラ付けのつもりか?全然合ってないがな」

「はっはっは!!」

「ははははは!!」



「「ぶっ殺す!!!!」」


あまりのボルテージの上がり具合に一瞬寒気を感じたが、こういった事態を望んではいない

僕は嘘吐きの脇腹をつつくと話を聞くよう促した。


「嘘吐き、さっきも言ったように彼女はドッキリで僕と友達付き合いをしてるんだ、無理に関わることはないよ」

「ほう、少年ともあろうものが私の心配をするとは」

「どちらかっていうと深山さんの心配だけどね」

「安心するがいい、嘘とは脆いものだ」

「…?何を言って」


そう言おうとした瞬間


「よそ見してんじゃねぇぞモヤシッ」






*

いつの間にか二人は戦っていた。

戦っていると言うよりは深山さんがただ暴れてるように見えた。


「ちょこまか避けやがって…っ」

「いやいや、避けなきゃ私が倒れてしまうではないか」


言いながらも嘘吐きは軽々と避けているように見えた。


「嘘と同じで私は脆いんだ、嘘吐きだからな」

「意味がわかんねぇよ!いいからくたばれって!!」


敵意をむき出しにした深山さんはまるで狂犬のように嘘吐きに蹴りかかった。

そんな中、ただ嘘吐きは不気味に笑みを浮かべながら避けて行くその動きには、

僕自身も違和感を感じた。


「私はこう見えて脆弱なのだよ深山少女、嘘とは必ずバレるものだ。そして私は君の攻撃を一回でも受けてしまったら

 倒れてしまうだろう。これは予測でも嘘でもなく確信だが…」

「だったら早く倒れちまえ!」

「なら私に攻撃を当ててみたまえ」


僕は理解した。嘘吐きは嘘をついている。

しかしそれは言葉ではなく、行動で示されていた。


「なんで当たんねぇんだ!」

「日頃の行いではないかね?」


牽制…いわゆるフェイントと呼ばれるそれは、今まさに嘘吐きがしていることそのものだった。

右に避けるようとして左に避けたり、右足に重心をかけてるように見せ実際は逆であるように、

嘘吐きらしいと言えばそう思えるような戦い方に僕はただ納得することしかできなかった。

嘘吐きは避け、深山さんは決着をつけるであろう一発を決める為に必死な様子を見ていると、

僕には嘘吐きが不利に見えた。

そう思った時、嘘吐きの蹴りが深山さんの首に当たっていた。






*

嘘吐きは意識の飛んだ深山さん壁に寄りかかせた。


「まあ強いて敗因を挙げるとしたら…、感情の思うがままに動いても所詮普段はただの女性であるということだ」

「凶暴性が増しても体はついて来られなかったってことですかね」

「そういう事だ、まあ私とて女性に暴力を上げることに戸惑いがあるわけではないが…、弱いのでね」


照れ隠しなのか帽子のつばを握る嘘吐きはいつもらしくなかった。

一体何に照れているのかを聞くこと自体が面倒くさいということもあり、

特に追及することはしないでおこう。

…そう思った矢先に嘘吐きが口を開いた。


「少年は弱い男にあまり好意を持たないだろう?」

「いやべつに、そこら辺はどうでもいいです」


また不気味に笑った嘘吐きを見て、僕は言葉の選択をまちがえたのだと自覚した。

…横に倒れかかっている深山さんに目を向ける。

嘘吐きの話だと加減する余裕はなかったとのことだった。

まあ嘘だろう。


「呼吸も整っている、起きる前に早く退散した方がいいと思うのだが…」

「とりあえず僕は起きるまで待ってます。嘘吐きは居ないほうがいいでしょうけど」

「一理ある。何かあったらあの夜空に浮かぶ星に声を…」

「早く逃げてください、嘘吐きは戦えないんでしょう?」

「……」


「嘘吐きは弱い」それが彼の持論であるなら、僕はそれを尊重するべきなのだろう。

駆けていく嘘吐きの姿は強くなかったが、それが彼らしくもあった。

僕が「あの」深山さんに勝てるという事はない、それどころか嘘吐きのように避けるまでもなく、

一瞬で倒されているだろう。

それでも、根拠のない自信と呼べるものは確かにあった。

…もう一度深山さんの顔を見る。




瞼は開いていた。




「おはよう、深山さん」

「…おはよう」


首を抑えながら立ち上がる深山さんは、制服にかかった砂を払いながら僕の顔をじっと見つめてきた。


「今の深山さんはどっちなんですか?」

「勿論オレだよ、学校でも家でもないからな」


悪いか?と言う口調で話しかけてくる彼女を今は刺激してはいけない。


「残念と言うわけでもないですけど、なんとなく予想が当たっていたので問題はないです」

「それよりさっきの男はなんなんだ?オレが知らないなんて…」

「あれは嘘吐きです、それ以上でもそれ以下でもないです。それよりも深山さんこそ一体何なんですか?」

「オレは深山充希、友達だろ?いきなり何を言ってるんだ」

「そういう意味じゃ…」

「まあよくよく考えたらありゃあ男みたいだし、ノーカンって事にしておいてやるよ」

「……」


あの時、嘘吐きは僕に必要なことを言った。


『解離性同一性障害と言うのは心的障害やストレスから発生した感情や記憶を切り離し

 精神的なダメージを回避しようとすることによって発生すると言われている』


「…それともなんだ?」


『所謂「多重人格障害」と呼ばれるもので私が認識する悪癖の一つだ』


「オレは二重人格だって言ったら納得でもするのか?」

「…納得はしないですけど理解はしますよ」

「一体何を言えば納得してくれるんだ?」

「深山みつきはいじめられていた、とだけ言ってもらえれば僕は納得しますよ。深山トウキさん」


僕にドッキリを仕掛ける計画が確実であるのなら、深山さんはいじめられている。

確実でなくとも人格障害になるレベルでのストレス的なものが発生した可能性がある以上、

僕はそれを確認する必要がある。



*

「つまりは…」

「深山さんが『中学の頃のいじめ』を克服する手段として使ったのが『人格障害』というわけですね」

「そういう事になると少年の考えは外れたことになるな」


そう、彼女は今はいじめられていないのだ。

そしていじめられてないとなると、僕の考察であった『ドッキリ』をする理由もなくなってしまう。

と言うより深山さん自身からドッキリではないという言葉を頂いているわけだけども…


「ポジティブな考えだろうとネガティブな考えだろうと…思い通りに行かないのが世の中と言うものだ」

「…わかってますよ」

「で、どうするんだね?」

「どうするって、何をですか?」

「これからの二重人格との関係をだよ」

「どうするも何も、友達としての関係を築いていくつもりですけど?」


ドッキリでもなんでもない事がわかった今、変に勘ぐる必要もなくなった僕が

深山さんを敵視する理由もない。

はじめの宣言通り、僕と深山さんは友達としての関係を築いていく事だろう。

一つ気がかりなのは…



*

「オレはお前が忘れていることを知っている」


と、深山さんは言った。

僕は彼女のいじめを知っていたということだ。

そして僕がいじめを忘れているということを知っていると言ったわけだけど、


「…どういうことです?」

「文字通りの意味だ、そしてその為にオレとみつきはお前を特別視している?」

「特別視?もし仮に僕が忘れているとしたなら普通は僕を恨むべきだ」

「それは違う、お前が忘れたのは僕を思ってのことだ」

「まあそんな事忘れないと思いますけど」

「お前は忘れた、それは間違いない」


深山みつきのいじめの話を僕が忘れていると言うのなら、

僕と深山さんは知り合いだったということになる。

しかし深山みつきさんは僕のことを初対面のように…

装ってはいなかった…?


「僕が深山さんのことを知っていたなら…」


本当に僕がそのことを忘れているとするなら…


「深山さんは僕の何なんだ?」


心臓の鼓動がはっきりと聞こえた。

この曖昧な質問に深山さんはどう答えるのか、

僕は不安よりも恐怖を、嘘吐きと初めて会った時以上の恐怖に怯えながら深山さんの返事を待った。

深山さんは少し寂しげな顔をしながら僕に向かって言った。


「友達だよ昔から、そしてこれからも」

「……」

「ただお前は他の友だちとは特別、なぜなら…」


一呼吸置いて深山さんは言った。


「オレを、私を、いじめから救ったのがお前であり貴方だから」

「僕が救った?」

「そしてお前であり貴方が忘れていることを私でありオレは教えることができない、それはお前であり貴方が言ったことだからだ」


つまり、今後僕の記憶に関する質問には答えられない、そういったところだろうか。

…今は焦らなくてもいつか聞き出せば良い、僕らしくない楽観的な考え方と言うよりは後回しにする普段の僕らしい考えに落ち着かせることにした。


「だからお前であり貴方は特別な友達、だからこそオレはお前の友達に「なりたい」と思える」

「僕も深山さんとは友達でありたいと思うよ

実際僕からの提案だし…」


発言が尻すぼみになってしまうのは、やはり不安によるものなのだろう、ただこの不安を取り除くためにも僕は深山さんから聞き出さなくてはいけない、その為の「友達」だ。



*

「君が嘘をつけない性格なのも私に嘘を吐けないこともわかっているつもりだが…」


僕の心を見透かすかのような物言いで話す嘘吐きは僕の気持ちを逆撫でされているような気分にさせられる。


「あくまで私の仮説だが、嘘と言うのは本人の感情における嘘と絶対的な嘘に分けられる。

その中で君の感情における嘘は無いと思っているが…」

「そうですね」

「本人がそれを真実だと思っているなら話は別だ少年」

「何が言いたいんですか?」

「君は真実を忘れ偽りの暮らしをしているのではないか?このまま友達を作ってもそれは偽りの友達と呼べるのではないか?」

「…それもいいじゃないですか、僕の求めてるのは大体そんなものです」


僕が思った以上に自分の声が冷たく感じた。

そんな僕を見ても嘘吐きはただ不気味に笑みを浮かべているだけだった。


「まあ私は、君の少年の声が聞ければ何ら問題はないのだがね」


友達 一人目 深山充希(みつき)

友達 二人目 深山充希(とうき)



嘘吐きと自他傷癖 に続きます

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