私の転機と脱出
私は今日もズズに言われるままに斜め上向かって穴を掘る。
指先が痛いが、慣れた痛みだ。
それに穴掘りに慣れたのか随分と土が柔らかく感じる、と思った時に私の手が『ぼこっ」と突き抜けた。
穴を大きくすると幾年ぶりの夜空が見えて、爽やかな風が頬を撫でた。
いつもように『スズ』の声が頭に響いた。
(やったっ! やったよ! 外に出れた! 脱出だよ! 私! 逃げるよ!)
スズは興奮したように私に言うが「逃げる」と言う言葉にあの子の顔が浮かんだ。
『スズ、あの子も一緒に行きたい』
スズがすぐに言葉を返してくれる。
(ああ、私に懐いている子?)
『そう。あの子』
『私』はみんなに「化け物」と呼ばれている。
スズが言うには幼少期に殴られたせいで『顔が変形している』らしく「醜い顔」だそうだ。
だが、唯一『私』に懐いてくれた男の子がいる。
『私』の何を気に入ったのかわからないが、初めて「人」の体の温かさを教えてくれた子供だ。
何年も地下に住んでいたが、今は『私』が最年長で、体が大きくなった子はどこかに連れて行かれて二度と戻ってこなかった。
(いいよ。私のステータスなら2人になっても何とか生きていける。でも静かに起こすんだよ? バレないようにね?)
『うん』
私は穴をゆっくりと降りて行き、地下の部屋に戻ると、私にくっついて寝ていた男の子をゆっくりと起こした。
目が覚めた男の子は朝が来たと思ったようで素直に起きてくれて、私が手を引くと壁に開いた穴に驚いたようだった。
「入って」
私が男の子を穴に入れるとお尻を押して斜め上に押し込んで、開いた壁の板を穴の中から静かに元に戻した。
動かない男の子の痩せたお尻をぽんぽんと上に押す。
「ゆっくりと、上に上がって。止まらないでね」
人に指示されるのに慣れた男の子は、ゆっくりと斜め上に動き出した。
私と男の子の2人の脱走だ。
(私もいるよ)
『スズを忘れないよ』
スズは少し寂しがり屋だ。
構ってあげないと。
2人でゆっくりと進んでいくと、初めに男の子が外に出て、次に私が外に出ると、夜明けが来たのか少し外が明るかった。
(私! 追っ手が来る前に外に逃げるよっ!)
私はスズに返事をしてから呆然としている男の子の手を取って繋いで歩き出した。
2人共、長年の粗食と体の衰弱で筋力が無かったが、スズが記憶していた道を歩いて『村』の外に出ると、左手の道に迷いなく進んだ。
スズ曰く「私は右の道から来た」らしく、反対方向に逃げて新天地を目指すのだ。
私がチラリと男の子を見ると、小さな体で一生懸命に歩いている。
繋いだ手をしっかりと握った。
◇◇◇
一生懸命に歩いているうちに日が完全に登っていて、スズが道の脇に身を隠すように指示して、草陰に男の子と座った。
(私のスキルで『水』を出せるか試してみて)
スズに言われるがままに私は意識して頭の中で「水水水水」と唱えると、目の前に水が出て、地面に落ちた。
勿体無い。
スズの的確な指示が飛ぶ。
(何でもいいから器に入ったまま水が出るように祈って!)
私は強く願った。
私の『スキル』に。
すると目の前に「変わった入れ物?」が出てきた。
その中には水が入っているようだが、取り出し方がわからない。
困った。
一緒に脱出した男の子も喉が渇いているのか身を乗り出している。
そう『無駄口は開かない』。
地下で蹴られないように学んだ事だ。
『スズ、どうやって水を飲めばいい?』
私の質問にスズはいつも答えてくれる。
(輪になった取ってがあるでしょう? そこを持って傾けると水がでるけど、反対の細い先にある丸いのが取れる?)
入れ物の先っぽについている丸い(シャワー)部分を私が力を入れて引っ張ると、すぽんっ! ととれた。
何とかスズに教えてもらい、1人では水が飲めないので、私が畑に水を撒くポーズで入れ物を持って、男の子の口の中にゆっくりと水を入れると、男の子はごくごくと水を飲み出した。
地下にいた頃は無駄な水を飲めなかったから、常に喉が渇いていた。
小さな男の子はお腹がいっぱいになるまで水を飲むと、ジョウロの先端から口をはなした。
少し男の子の胸元に水がかかったが、私は水を出すのをやめた。
次は私が水を飲めるように男の子に指導して、ジョウロを傾けてもらい、綺麗で雑味のない美味しい水をたんまりと飲んだ。
そこでスズに指示をされて、夜中に少しずつ確認したスキルを開いた。
スズ曰く、私のスキルはとても有用な『箱庭生産場』らしい。
文字が読めないのでスズ頼りだが、スズは私に嘘はつかない。
私が『箱庭』を開くとかわいらしい【毎日ログインボーナス!!】と画面が出てきて『プレゼント』を貰うと四角い畑が4つ出てきたので、スズに言われるままに手を動かして麦の植え付けをする。
スズ曰く「60秒で収穫できる」らしい。
待っていると、男の子が私に引っ付いて寝てしまった。
起きたのが早かったから仕方がないと静かにして、私はせっせと麦の収穫と植え付けを交互に行った。
◇◇◇
その頃の地下労働所では、子供が2人消えてしまった捜索をしていた。
安値で子供を買い取り、加工品の製造を行わせていたが、消えた2人は数年の労働経験があり、今、手放すには惜しい人材だった。
2人共真面目に働き、文句も言わずに大人並みの働きをしていたからだ。
子供の売り買いは法に違反するが、この国が腐っている為に人身売買は普通に行われていた。
捜索中に不審な穴を発見したが、小さな穴すぎて「動物が掘ったのだろう」と板で塞がれた。




