第99話「届け、魂の声」
黄金の雷帝と黒き雷帝の激突は、ついに均衡を破った。 清顕様の消耗は限界を超え、鬼・清影の放った黒い雷撃を避けきれず、その身に受けてしまう。
「ぐ…はっ……!」
黄金のオーラが掻き消え、清顕様は血を吐きながら膝から崩れ落ちた。
「(勝利を確信し、歪んだ笑みで)終わりだ、兄上!まずは貴様からだァ!」
鬼・清影が、止めの一撃を放つべく、禍々しい雷光を爪先に集中させる。
「父上ーーーっ!!」
清顕様の指示も忘れ、清馬様が反射的に飛び出した。
「待て、清馬!父上の指示を!」
清継様が叫ぶが、清馬様は止まらない。
「うるせえ!あのままじゃ、父上が死んじまう!」
「清馬様!」
それでも彼は、私を守るという役割も忘れず、私の前に立ちはだかりながら、自らの雷光を父(清影)に向かって放った。
「うおおおおっ!テメェ(清影)の好きにはさせねえぞ!」
清馬様の放った雷光は、鬼・清影の黒いオーラに容易く弾かれた。
しかし、清影の動きが一瞬止まった。
「(清馬を見下ろし、初めて息子と真正面から向き合い) …ほう。俺の子が、俺に刃向かうか」
その声は、嘲りを含みながらも、どこか寂しげだった。
「(恐怖を押し殺し、睨みつけ)…当たり前だ!あんたは、俺たちの…敵だ!」
「…敵、か。…そうだな。 …だが、お前のその『熱』…悪くねえ。俺によく似てる」
「…っ!黙れ!俺は、あんたとは違う!」
「(嘲笑う)違わないさ。お前もいずれ、その熱に焼かれる。 …愛する者を守ろうとすればするほど、な」
清影の言葉が、清馬様の心の最も脆い部分を抉る。 彼の雷光が、一瞬揺らいだ。
その、一瞬の隙。 清継様は決断を下していた。
彼は崩れ落ちた清顕様に駆け寄る。
「…父上、お許しください。…これしか、道はありません」
「(荒い息の下で)…馬鹿なことを…!やめろ、清継…!」
清継様は、父の制止を振り切り、叫んだ。
「清馬!琴葉さん!今だ!」
清継様は印を結び、祭壇の中央に進み出る。
彼の全身から、これまでにないほどの強い霊力が放たれた。 それは清顕様の『雷帝纏』とは違う、精神的な輝きを帯びていた。
「古の血に連なる者として、魂魄に呼びかける…! 目覚めよ…!『鬼』に囚われし魂…!近衛清影よ!」
清継様が術を開始したのと同時に、後方にいた薫子様が静かに動き出した。
彼女は懐から取り出した一対の扇子を構え、あの黒い祭祀の装束で、神聖な舞を舞い始めた。
「(歌うような、祈るような声で) …天つ風よ、時の波よ…。 閉ざされた魂への道を、今こそ開きたまえ…」
彼女の舞と歌声に呼応するように、清らかな霊力が祭壇に満ちていく。 それは清継様の『呼びかけ』の術を補助し、鬼・清影の精神的な防御を揺さぶり始めた。
「(薫子様の舞を見て、初めて激しい動揺を見せる) …!その舞は…!やめろ…!やめろ、薫子ォ!」
鬼・清影が、苦しげに叫ぶ。
薫子様の舞が鬼の動揺を誘い、清継様の術が魂への道を開いた、その瞬間。
「琴葉さん!今です!」
「はいっ!」
私は両手を胸の前に合わせ、全身全霊の祈りを込めて『白金の光』を放った。
それは物理的な攻撃ではなく、清継様が開いた『道』を通って、鬼・清影の魂の奥底へと直接届く、温かく、慈愛に満ちた光だった。
(清影様…!聞こえますか…!)
私は心の中で、強く呼びかけた。
(あなたは、鬼なんかじゃない…! 薫子様を愛し、息子さんたちを想う…心を持った人のはずです…!)
(思い出してください…! 蔵で誓った、あの夜のことを…! 最後に薫子様に託した、あの言葉を…!)
清継様の『術』、薫子様の『舞』、そして私の『光』と『呼びかけ』。
三方向からの魂への干渉に、鬼・清影は激しく苦しみ始めた。
「(頭を抱え、咆哮する) ぐ…あああああああああっ!! やめろ…!やめろォォォ!! 俺は…俺は鬼だ…! 薫子…っ!…いや…!清影など、もう……!」
彼の体から迸る黒い雷光が乱れ、赤黒かった瞳に、一瞬だけ、かつての人間だった頃の、苦悩に満ちた色がよぎった。
その変化を、私たちは見逃さなかった。
崩れ落ちた清顕様も、歯を食いしばりながら顔を上げる。
(…清継…清馬…薫子…そして、巫女よ…。 あとは…託したぞ…!)
彼の瞳に、絶望ではなく、次世代への、不器用な父としての祈りが宿っていた。
絶望的な戦況の中に、初めて、微かな希望の光が見えた瞬間だった




