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第90話「束の間の誓い、宿命の夜」

清馬様の「その一週間で、何があったんだよ!?」という叫びが、サロンに響く。 清顕様は答えず、ただ、静かに薫子様へと視線を移した。 薫子様は、その視線を受けると、あの「蔵」での出来事を思い出すかのように、そっと目を伏せた。


(――彼女の沈黙が、再び、私たちをあの過去へといざなう――)


若き清顕が、屈辱に唇を噛み締めながら去っていった庭園。 残された清影は、薫子の手を強く握りしめたまま、震えていた。


「……清影……!あなたのせいよ!あんなこと言うから……!」


「(薫子の肩を掴み)……うるせえ!俺は本気だ!あんたを『処分』だなんて、絶対に言わせねえ!」


「(彼女の怯えた瞳を見て、我に返り)……悪ぃ。……怖かったか?」


「(涙目で首を振り)……あなたが、怒鳴るから、じゃない……。 あの人(清顕)の目が……。本気で、あなたを……殺そうとしてた……」


「だろうな。……だから、行くぞ。ここにいちゃ、あんたが危ねえ」


清影は、薫子を屋敷の者が誰も知らない、自分の隠れ部屋(古い蔵)にかくまった。 屋敷は、清顕の張り詰めた霊力によって監視され、息も詰まるようだった。


古い木の匂いと、微かな埃っぽさ。 外の凍えるような夜気とは違い、蔵の中は、不思議と静かで、二人の息遣いだけが響いていた。


「……兄貴が諦めるまで、ここにいろ。飯は俺が持ってくる」


「……でも!あなたは!?あなたこそ、兄(清顕)に何をされるか……!」


「俺の心配より、自分の心配しろよ。『毒』なんだろ、あんた」


「(彼の服を掴み)……嫌。……私、もう一人はいや。あなたまで、いなくなったら……私……!」


彼女は、初めて自分の「力」を肯定してくれた清影を失うことを、何よりも恐れていた。


「(彼女の必死な姿に、息を呑み)……薫子」


彼は、自分の荒々しい雷光とは違う、彼女の、ただひたすらに純粋な「恐怖」と「愛情」の眼差しに射抜かれた。


「(彼女を強く抱きしめ)……いなくならねえよ。……俺が、あんたを、絶対に守る」


「清影……!」


屋敷は、清顕の「ことわり」によって、冷たく静まり返っている。 だが、この古い蔵の中だけは、二人の「熱」が満ちていた。 清影は「兄に勝つため」ではなく、ただ「目の前の女を愛する」ため。 薫子もまた「毒として」ではなく、「一人の女」として、互いを求めた。


「……あんたの『毒』、全部、俺にくれよ。……俺の『雷』で、全部、受け止めてやる」


「……清影……!」


二人は、七日後に待つ「破滅」を予感しながらも、その夜、初めて、強く、深く結ばれた。


(――回想が途切れ、現在のサロンに戻る。薫子様は、その日のことを思い出すように、目を伏せ、頬を微かに赤らめていた――)


「……そうよ。あの一夜ひとよだけが、私の全てだった。 …そして、あの夜、私のお腹には……新しい命が、宿ったの」


「「……!」」


清継様と清馬様が、息を呑んで絶句する。


「……俺たちが……あの夜に……」


清顕様は、苦々しく目を閉じている。


「(涙をこらえ)……でも、私たちの『幸福』は、そこまでだった」


「……清影は、知ってしまったの。 ……私と結ばれたことで、私の『力(毒)』が、彼の『雷(力)』と混じり合い……。 彼の力を、さらに強大に……そして、彼自身にも、制御できないものに変えてしまったことを」


「そうだ。 ……そして奴は、その増大した力を、さらに制御するため……私に『勝つ』ため、……更に『力』を求めた」


清顕様の声が、憎悪に染まる。


「…近衛家が、代々、厳重に封印してきた、禁断の『力』に、手を出したのだ」


薫子様が、その言葉に「ああ……!」と、声にならない悲鳴を上げた。

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