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第82話「父の告白と、血の呪い」

玄関ホールでの凍てつくような告白から一夜明けた、朝。 食卓は、昨日の「爆弾発言」を受け、息も詰まるような沈黙に包まれている。 薫子様は、珍しく、ただ静かに目を伏せていた。


食事を終えると、清顕様が静かに立ち上がった。


「……時間だ。来なさい」

「清継、清馬。……そして、琴葉。君にも、聞いてもらう必要がある」


「(息を呑み)……は、はい」


「……私も、参りますわ。あの日の、証人として」


薫子様が、静かに続いた。


清顕様は、私たちを連れ、屋敷の奥にある神棚の、さらに裏手にある隠し階段へと進む。


「こ、こんな場所に、階段が……」


清馬様の声が、緊張に震えている。 冷たく、カビ臭い空気が、私たちの頬を撫でた。


辿り着いたのは、巨大な注連縄しめなわが張られた、古く、厳かな扉の前だった。


「ここが……『開かずの祭壇』……」


「(鍵を取り出しながら)……近衛家が、目を背けてきた、我が家の『罪』そのものだ」



重い扉が開かれる。 中は、広大な、冷え切った石の間。 中央には、何かが折れたような、傷だらけの台座だけが残されていた。


「清継。お前が読んだ『事件記録』は、全て真実だ」


清顕様の、静かな告白が始まった。


「父上!じゃあ、本当に叔父上が……!? それに、母上が『庶民』って……!そんなの関係ねえだろ!誰がそんなこと決めたんだよ!」


清馬様が、激しく食ってかかる。


「(清馬を制し)……清馬、黙れ。父上、続けてください」


「(静かに頷き)……そうだ。私には、弟がいた。 ……名を、清影きよかげという」


「……!」


「私と清影きよかげは、お前たち二人と、よく似ていた。 私が『ことわり』の力、弟が『ねつ』の力を、それぞれ強く受け継いでいた」


「そして、我々の前に、一人の女が現れた。 ……(薫子様を見て)……それが、そこにいる、薫子だ」



「我々二人とも、彼女を...愛した。 だが、五摂家の掟は、庶民の血を『正室』として認めるものではなかった。 ……彼女が、琴葉とはまた違う、強大な『異能』を持っていたとしても、な」


「(息を呑む)……薫子様も、力を……?」


「清影は『愛』を選び、私と、家と、掟に反旗を翻した。 弟は、薫子を連れ、全てを捨てると言った」


「……いいじゃねえか、それの何が……!」


清馬様の叫びに、清顕様は厳しく首を振った。


「よく聞け。これこそが、近衛の血の『呪い』だ」


「我ら兄弟の力が、一人の女を巡って『対立』した時、互いの霊脈が共鳴し、暴走を始めた。 ……それこそが、あの『巫女の手記』の破滅と、全く同じ構図だ」


「私は、選ばねばならなかった。『家』か、『愛』か」


「私は……『家』を選んだ。 当主として、暴走する弟(清影)を、この手で討ち、鎮めねばならなかった。 ……この祭壇は、そのためにあった」


清顕様の視線が、あの傷だらけの台座に向けられる。


「だが……私は、清影きよかげを『封じる』ことができなかった。 禁術の果てに、清影は人の道を外れ……私は、清影を近衛家から『追放』するしかなかった」


「……では、なぜ、母上を妻に……?掟を、破ってまで」


清継様の、最もな問いが飛ぶ。


「……それこそが、私の『罪』だ」


清顕様は、目を伏せた。


「清影を追放した後、私は一族に『選択』を突きつけた。 この女(薫子)を、『力』の源泉として、近衛家に取り込むか。 それとも、私という『最強の力』を失うか、と。 ……一族は、前者を選んだ」


「薫子から『庶民』としての名を奪い、巴里パリで完璧な貴婦人に仕立て上げ、私の『妻』という名の『鳥籠』に、閉じ込めた。 ……弟(清影)への、当てつけでもあり、私自身への、罰でもあった」



「(初めて口を開く)……そうよ。私は、この人の『戦利品』。 そして、あの人(清影)の『忘れ形見』」 薫子様の、冷たい声が響く。


「どういう……ことだよ……?」


清馬様が、その言葉の意味を測りかねている。


「……話は、まだ終わらん」


清顕様が、告白を続けた。


「追放した清影きよかげは、力を失っていない。 清影は、憎しみを糧に、我らが知る『人』の道を外れた。 ……『鬼』となったのだ」


「!……(息を呑む)」

(あの『巫女の手記』の男と、同じ……!)


清継様が、戦慄する。


「そして、その『鬼』が、十数年の時を経て、今、この帝都に、戻ってきている」


清顕様は、私を真っ直ぐに見つめた。


「……分かるか、琴葉。 お前たちが『巫女の手記』の呪いを解き、『白金の光』を見つけた、まさにその時、奴もまた、目覚めたのだ」


「……!」


「奴の目的は、ただ一つ。我ら近衛家への『復讐』。 ……そして、お前たち三人を、我々と全く同じ『破滅』へと、引きずり込むことだ」


(生身の、『鬼』……!? 大炊御門おおいのみかどのような過去の亡霊じゃない。 清顕様と、薫子様の『過去』そのもの……)


(怖い。胸の奥が、冷たく凍りつく。でも……。 これこそが、薫子様が私に示そうとした、近衛家の本当の『呪い』。 ……そして、私たちが、三人で乗り越えなければならない、本当の『試練』だなんて…)

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