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第71話「手記の真実と、夏への誘(いざな)い」

誕生日の翌日の放課後。 私たちは、決意を新たに、薫子様の私室を訪れた。


「あら、いらっしゃい」


薫子様は、部屋の中央に置かれた『巫女の手記』を前に、優雅に紅茶を飲んでいた。


「ふふっ、随分と良い『顔』になったじゃないの、琴葉さん。 昨日の『お返し』、素晴らしい宣言だったわ」


「あ、ありがとうございます……!」


(昨日の『口づけとか!?』のやり取りを思い出し、顔が熱くなる)


「ですが、宣言だけでは、手記の呪いは解けませんことよ? 『二人を導く』とは、具体的にどうなさるおつもり?」


「母上。琴葉さんをあまり、からかわないでください」


清継様が、私を庇うようにそっと口を挟んだ。


私は、薫子様の挑発を、まっすぐに見つめ返した。


「はい。私なりに、考えました」


私は、テーブルの上に、昨日いただいたばかりの『小さな弓(清馬様の力)』と、髪に挿していた『真珠の簪(清継様の希望)』、そして、中央に『巫女の手記(過去の絶望)』を置いた。


「この手記が『絶望』なら、この二つは、私の『力』と『希望』です。 ……私は、この二つの力を『くさび』にして、手記の絶望に、もう一度向き合います」



私は、双子に向き直る。


「清継様、清馬様。お願いします。私に、お二人の力を」


「おう。もう、迷わねえ!」


「君の覚悟、信じよう」


私たちは、手記の上に、三人の手を重ねた。


(清継様の、全てを受け止める『器』。 清馬様の、魂を燃やす『熱』。 そして、二人を信じ、二人を繋ぎ止めたいと願う、私の『心』……。 今こそ、一つに……!)


三人の力が、完璧に調和し、温かい光となって手記の中へと流れ込んでいく。


脳裏に、あの夜、私一人で見た、巫女の悲劇の、「直前」のビジョンが流れ込んできた。


それは、二人の殿方(清継似と清馬似)が、一族の長老らしき男(清顕様に似ている?)に、詰め寄られている場面だった。


「巫女が選べぬのなら、お前たちが選べ!」


長老らしき男の、厳格な声が響く。


「近衛の血を引く者として、『家』を取るか、あの『娘(毒)』を取るか!」


「……!」


「もし二人ともが『娘』を選ぶと言い張るのなら、その時は、五摂家の掟に従い、あの娘を『秩序を乱す毒』として、処罰するまで」


「あ……!これは……!」


「……!巫女が、直接、罪に問われたのではなかった……。 我々の先祖である、二人の男が、『選択』を迫られていたのか……!」


清継様の、戦慄した声が響く。


「なんだよ、それ……!巫女あいつを好きになったのは、こっち(男たち)なのに、選べって……! そんなの、あんまりじゃねえか!」


清馬様の、怒りの声が重なった。



映像が切り替わる。 二人の殿方は、苦悩の末、巫女の元を訪れていた。


『すまない。我々は、君を選ぶことができない。 君を『毒』にしないためには、我々が、君を諦めるしかないんだ……』


『…悪い!だが、俺は、絶対に諦めねえから!』


(清継様と、同じ……!)


私は、あの悪夢のような日々を思い出す。


(一人は、私を『守る』ために、私を突き放そうとして。 一人は、私を『守る』ために、戦おうとして…!)


映像の中の巫女が、その美しい瞳から大粒の涙をこぼし、声を振り絞るように叫んだ。


『……なぜ。 なぜ、私に選ばせてくれないのですか。 なぜ、あなたたちが、勝手に決めてしまうのですか!』


(彼女は、二人の「すれ違った優しさ」に絶望した。 彼女が「二人を信じきれなかった」こと、それこそが、あの『破滅』(処刑と、鬼の誕生)の、本当の引き金となってしまった…!)


(……そうか。 あの巫女様の本当の『罪』は、『二人を愛した』ことじゃない。 二人の『愛の形』が違うことを理解せず、二人を『信じきれなかった』こと……。 そして、二人に『選ばされる』のを、ただ待っていた、自分の『弱さ』だ…!)


映像が途切れ、私たちの意識が私室に戻ってきた。


「……なるほど。『答え』は、見つかったようね?」


薫子様の静かな声に、私は涙を拭って顔を上げた。


「…はい。おぼろげながら」


「(楽しそうに)『器』の清継と、『熱』の清馬。 あなたはその二人を、どう『調和』させ、どう『導く』つもり?」



私の、迷いのない瞳を見て、薫子様は満足そうに微笑んだ。


「結構ですこと。では、その『覚悟』が、どれほどのものか。 次の『実地研修』とまいりましょう」


「え?」


「この手記の修行ばかりでは、退屈でしょう? 帝都も、そろそろ梅雨明け。夏ですわね」


「……え」」」」」


私と双子の声が、見事に重なった。


「あなたたち三人に、近衛家の海辺の別荘を、一週間、自由に使わせて差し上げますわ」


「べ、別荘!?マジかよ母上!」


清馬様が、目を輝かせる。


「……母上。まさか、我々三人を、たった一週間、一つ屋根の下に……?」


清継様が、ゴクリと喉を鳴らすのがわかった。


「あら、何か問題でも?」


薫子様は、私に向き直ると、悪戯っぽく微笑んだ。


「巫女の手記しゅぎょうは、精神論。 …けれど、『恋』は、もっと現実的で、生々しいものでしょう?」


「『三人恋人』が、一つ屋根の下。 ……あなたたちが、あの巫女様と同じ『破滅』を迎えるのか、それとも、新しい『答え』を見つけられるのか。 ……ふふっ、この母が、遠くからじっくりと、見届けさせていただきますわ」


「えええええええっ!?」


(誕生日よりも、遥かに大変な『試練』が、始まってしまう……!)


薫子様が仕掛けた、甘くも危険な「夏休みの宿題」。 私たちの、波乱に満ちた一つ屋根の下での日々が、今、始まろうとしていた。

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