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第69話「白金の光と、恋の予習」

帝都劇場でのデートの翌日の放課後。 私たちは、決意を新たに、薫子様の私室を訪れた。


「あら、いらっしゃい」


薫子様は、部屋の中央に置かれた『巫女の手記』を前に、優雅に紅茶を飲んでいた。


「……ふふっ、随分と良い『顔』になったじゃないの、三人とも。 昨夜の『お芝居』は、お気に召したかしら?」


「母上のせいで、生きた心地がしなかったぜ!」


清馬様が、顔を赤くしてそっぽを向く。


「……ええ。母上のおげで、我々の覚悟も、より固まりました」


清継様が、静かに、しかし力強く言った。


「……さあ、始めましょう」


「はい!薫子様!今日こそ、この手記を読み解いてみせます!」


「結構ですこと。では、お手並み拝見といきましょうか」



私は、祭壇のように置かれた『巫女の手記』の前に正座する。 双子の若様たちが、私の左右、少し離れた場所に座った。


「さて、琴葉さん。先日は、『三人の心を繋げる』と言ったわね。 でも、あの時は力が暴走して失敗した。……今回は、どうなさるおつもり?」


「はい」 私は、深く息を吸い込んだ。


「あの時は、私が、お二人の力を無理やり『繋ごう』としてしまいました。 でも、今は違います」


私は、まず、自ら手記の上にそっと右手を置いた。


「清継様。清馬様。今度は、お二人の手で、私を支えてください」


「「……!」」


二人は、一瞬顔を見合わせたが、 「…承知した」 清継様が、手記の上の私の右手に、自らの左手をそっと重ねる。


「…おう。お前の覚悟、信じてやるよ」 清馬様もまた、清継様の手の上に、自らの右手を力強く重ねた。


三人の手が、手記をしろにして、一つに重なった。


(清継様の、冷静で、全てを受け止める『器』の温もり。 清馬様の、荒々しくも、魂を燃やす『熱』の温もり。 ……そして、二人を信じ、二人を繋ぎ止めたいと願う、私の『心』……。 今こそ、一つに……!)


三人の力が、今度はぶつかり合うことなく、完璧に調和し、温かい光となって手記の中へと流れ込んでいく。


脳裏に、あの絶望的な悲劇とは全く違う、温かいビジョンが流れ込んできた。


(これは……あの巫女様が、まだ『破滅』する前の、幸せだった頃の記憶……?)


彼女(私と瓜二つ)が、二人の殿方(双子と瓜二つ)と、楽しそうに笑い合っている。 一人は彼女に『ことわり』を教え、もう一人は彼女に『ねつ』を教えている。


「あ……!これって……」


「……我々と、同じだ。彼女も、二人から『共同指導』を受けていたのか……!」


「すげえ……!本当に、俺たちと同じじゃねえか!」


双子の驚く声が、私の心にも響いた。



手記は、絶望の記録であると同時に、過去の巫女が、二人を同時に愛しながらも、その力を制御しようと必死に努力していた、本物の「修行書」でもあったのだ。


映像が切り替わる。 禍々(まがまが)しい姿の「あやかし」に対し、過去の巫女が、二人の殿方と共に立つ。 一人の殿方(清継似)が『器』となる結界を張り、もう一人の殿方(清馬似)が『熱』となる力を注ぐと、巫女はそれを自らの「愛」の力で束ね、それまでの真珠色とは違う、まるで太陽のような眩い「白金プラチナの光」として放つ。 その光は、妖を苦しめることなく、その邪気だけを優しく溶かし、消滅させていく。


「(息を呑み)……これが、私たちが、目指すべき『答え』!」


映像が途切れ、私たちの意識が私室に戻ってくる。 三人は、興奮と、確かな手応えに、顔を見合わせたまま、重ねた手を離せずにいた。


「……なるほど。どうやら、手記の『第一章』は、無事に開けたようね」


いつの間にか、薫子様が私たちの背後に立っていた。


「『二人を同時に愛すること』。 それが、あの巫女の力の源泉であり、…そして、『破滅』の引き金にもなった」


薫子様は、満足そうに、しかしどこか冷ややかに告げる。


「あなたたちは、彼女と同じ過ちを繰り返さないと、誓えるかしら?」


「はい!私たちは、乗り越えてみせます!」


私が力強く答えると、薫子様は満足そうに微笑んだ。



「結構ですこと。では、その『覚悟』が本物かどうか、次の『予習』とまいりましょう」


「予習、ですか?」


「ええ。そういえば、琴葉さん。あなたの『誕生日』が、もうすぐだと伺ったわ」


「えっ?あ、はい。来週の、六月七日ですが……よくご存知で」


「「(ハッとした顔で、互いを睨み合う)……!」」


双子の若様たちが、途端に険しい顔になる。


薫子様は、そんな息子たちに向かって、挑発的に微笑んだ。


「まあ、大変。あなたたち二人にとって、初めての『恋人』の誕生日。 どちらが、あの子をより『幸せ』にできるか、この母が、特等席で見届けさせていただきますわ」


「の、望むところだ!」


清馬様が、勢いよく立ち上がる。


「(静かに頷き)抜かりなく」


清継様が、静かに闘志を燃やす。


薫子様は、私に向き直ると、悪戯っぽく囁いた。


「巫女の修行とは、すなわち『愛』の修行。 …『二人から、同時に、全力の愛を受け止める』ということも、「立派な『修行』の一つよ。 ふふっ、覚悟しておきなさいな?」


「えええええええっ!?」


(どうしよう……!お二人が、私の誕生日のために……!)


胸の奥が、甘く、そして誇らしい気持ちでいっぱいになる。 けれど、それと同時に、あの二人が本気になった時のアピール合戦が、一体どれほど大変なことになるのか……。


私の悲鳴が、サンルームに響き渡った。 巫女の手記の解読というシリアスな修行から一転、私の誕生日を巡る、新たな(そして、おそらくは最も大変な)戦いの幕が、今、上がったのだった。

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