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第56話「写真館の思い出と、二つの秘密」

大炊御門おおいのみかどとの決戦から、数週間。 帝都には真の平和が戻り、当主様の許しを得た私は、再び「女中兼巫女」としての、忙しくも充実した日常を取り戻していた。


その日の朝、私は当主・清顕きよあき様に呼び出された。


「こ、この度は、ご迷惑をおかけして……」


「何を言っている」


私が戦いのことを謝罪しようとすると、清顕様は、どこか不器用な優しさで、それを遮った。


「……先日の戦い、見事であった。お前たち三人に、私から褒美をやろう」


「ほ、褒美、でございますか……?」


「明日は休日だ。三人で、帝都一の写真館を予約しておいた。 ……思い出、というものは、形に残しておくのも悪くない」


父からの意外な申し出に、双子の若様たちも目を丸くしている。


「父上が、写真……?珍しいこともあるもんだな!」


「……ありがたく、頂戴いたします、父上」


翌日、写真館へ向かう車の中。 私は、一人、窓の外を眺めながら、緊張で胸を高鳴らせていた。


(写真……。 私のような庶民にとっては、とても高価で、縁のないものだと思っていた。 だから、結核で早くに亡くなったお父さんとお母さんとは、一枚も撮れなかった。 ……私にとって写真は、ただの記念なんかじゃない。 その人が、その幸せな時間が、確かに『そこにあった』という、たった一つの『証』……。 だから、すごく、緊張する……)



私たちが訪れたモダンで格式高い写真館で、私は人生で初めて、大きな写真機を前にして、ガチガチに緊張していた。


「お客様、せっかくの記念ですもの、一番お美しくいたしましょう」


写真技師の助手の女性がそう言うと、私はあれよあれよという間に、化粧室へと連れて行かれた。


数分後。 化粧室から出てきた私の姿に、待っていた双子の若様たちが、息を呑んで固まった。


「……」

「……」


それも、そのはずだった。 私は、いつもの丸眼鏡を外され、きつく結っていた髪は解かれ、艶やかな黒髪として肩に流されている。 薄化粧まで施されたその顔は、私自身でさえ、鏡の中の自分を「誰?」と問いかけたくなるほど……彼らが知っている「白石琴葉」とは、まるで違う少女の「素顔」だったからだ。


双子の、あまりに熱っぽい視線に耐えられず、私は顔を真っ赤にする。


(恥ずかしい……。でも、それだけじゃない。あんな熱い目で見られるなんて…)


近くの鏡に映った自分の姿を見て、私は息を呑む。


(これが、私……?いつもの、ただの女中の私じゃ、ない……)


「あ、あの……!そ、そんなに見ないでください……!へ、変でしょうか……?」


「……兄上」


清馬様が、こそこそと兄に囁く。


「…やっべえな。こちらの琴葉も、悪くねえ…いや、凄くにあってるじゃんか」


「……ああ」


清継様も、真剣な顔で頷く。


「これは、いけないな。私達以外の男に、決して見せてはならない姿だ」


「さあ、お嬢様、こちらへ!」


技師の指示で、いよいよ撮影が始まった。 まずは、私を真ん中に、双子が両脇を固める、奇妙な「恋人」写真。


次に、清継様とのツーショット。彼が私の肩にそっと手を置く。


「き、清継様、近いです……!」


緊張で体が硬くなる私に、


「大丈夫。私だけを見ていればいい」


優しく微笑みかける。 その穏やかな瞳に導かれ、私は、つられるように、はにかんだ笑顔を見せた。


「次は弟様!さあ、もっと寄って!」


「おう!」


清馬様が、私の腰に馴れ馴れしく腕を回そうとする。


「清馬様!腰はダメですってば!」


「なんだよ、減るもんじゃねえだろ!」


「清馬、はしたないぞ」


私と清継様に同時に窘められ、彼は不満そうに唇を尖らせた。


最後に、双子が「彼女一人の写真も撮ってやってくれ」と、この美しい姿を永久に残すため、とくに強く頼み込み、私の人生で初めての、一人の写真が撮影された。



数日後。焼き上がった写真が屋敷に届いた。


(この一枚の写真が、私たちが生きて、笑い合った『証』になるんだ……)


私は、自分の写真のできばえに一喜一憂しつつも、女中としての仕事に戻る。 今日は、双子の若様の部屋の掃除当番だった。


まず、清継様の部屋を掃除していると、ふと、机の上に置かれた、上質な革張りの手帳に目が留まった。 普段は決して開いたままにしない彼の手帳が、なぜか少しだけ開いている。 埃を払おうとして、そっと覗き込むと、そのページには、あの日の、私のソロショットが、大切そうに挟まれていた。


(清継様……!こんなところに、私の写真を……!)


彼の秘めた想いに、私の胸は熱くなった。


次に、清馬様の部屋へ。 彼の机の上は、弓具の手入れ道具で散らかっている。


(清継様は、あんなに大切そうに手帳にしまっていたけれど…清馬様はどうしたんだろう?まさか、失くしたりしてないわよね……?)


そう思い、教科書が閉じ忘れたままになっているのを、私がそっと手に取った、その瞬間だった。


中から、ぱらり、と通学証が滑り落ちた。

そして、私は見てしまった。


その通学証の写真入れの部分に、あの日の、清馬様と私のツーショット写真が、こっそりと挟まれているのを。


(こ、こちらはツーショット!?いつの間に……!)



翌日の教室。 私は、お二人の秘密を知ってしまったせいで、全く授業に集中できなかった。


そっと盗み見ると、清継様は、真面目な顔で黒板を見つめている……ように見せかけて、膝の上で、あの革張りの手帳をそっと開き、挟んでおいた私の写真を、愛おしそうに見つめている。


慌てて清馬様の方を見ると、彼もまた、教科書で隠すようにして、通学証に挟んだツーショット写真を眺め、一人でニヤニヤしていた。


(あ、あのお二人とも、授業中に何を…!)


私は、顔を真っ赤にして、机に突伏するしかなかった。


戦いは終わり、平和は戻った。 けれど、この二人の若様たちとの、甘くて騒がしい「三人恋人」としての戦いは、まだまだ始まったばかりのようだった。

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