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第55話「五摂家の光、そして新たな日常へ」

「さあ、始めようか。数百年の長きにわたる、我らの『魂』を取り戻す、最後の儀式を」


彼がそう宣言した瞬間、戦いの火蓋は切られた。


「雑魚が!『九頭竜・紅蓮くずりゅう・ぐれん』!」 九条様の炎が、敵の前衛を焼き尽くす。


「琴葉には近づけさせないわ!『水方天陣すいほうてんじん』!」


楓の水の結界が、私を中心とした絶対防御圏を作り出した。


「道は、私が開く!『巌戸いわと』!」


鷹司様の力で、敵の陣形が崩れ、大炊御門の影への道が切り開かれる。


「兄上!今度こそ、俺が琴葉を守り抜く!」


「ああ、信じている!我らの全てで、父上と、琴葉さんを護るぞ!」


双子の雷が一つとなり、完璧な連携で大炊御門の影本体へと突撃した。 しかし、双子の最強の雷撃は、大炊御門の影に触れる直前で、虚空に吸い込むように消滅してしまう。


「無駄だ。お前たちの力は、『呪印』を通して、全て我が元へ還るのだからな」


「なっ…!嘘だろ!?」


清馬様が叫ぶ。


大炊御門の影が、清継様に向かって手をかざした。


「まずは、次代の『器』から、その力を返してもらおうか」


清継様の胸にある『雷の呪印』が黒く反応し、彼の体から雷の力が吸い出されていく。


「ぐ……あああっ!」


膝をついた息子の前に、当主・清顕様が立ちはだかった。


「私の息子には、指一本触れさせん!」


「ほう。現当主自ら、贄となりに出てくるか。よかろう!」


影の攻撃が、清顕様を直撃する。彼は血を吐きながらも、当主の意地でその場に立ち尽くした。


「……見苦しいぞ、大炊御門」


清顕様が、苦々しく呟く。


「数百年ぶりに、その忌まわしき『実体』を現したというのに、やっていることは、ただの力自慢か」


「……面白い。我の『影』を見破るとはな」


大炊御門の影が、楽しそうに喉を鳴らす。


「よかろう。五摂家筆頭、近衛清顕。その命への敬意を表し、我が真の姿を見せてやろう」


影が、まるで古い衣を脱ぎ捨てるかのように剥がれ落ちる。 その中から現れたのは、禍々しいほどの美しさと、全てを見下す冷たい瞳を持った、一人の青年だった。



「さて、五月蝿うるさいはえどもは黙らせた」


実体を現した大炊御門が一度手を振るうだけで、鷹司様の『巌戸いわと』は砕け、暁人様の炎はかき消される。 五摂家全軍が、その絶望的な力の差の前に、膝をついた。


「巫女よ、お前の『器』も、その『呪印』と共に、我に捧げよ」


彼の手が、倒れた清顕様と、私に向かって、同時に伸ばされる。


その、絶望的な瞬間だった。


「やれやれ。これでは、私の『借りが、できてしまったかな』という独り言を、返上する暇もなさそうだ」


どこからともなく放たれた『鎌鼬かまいたち』の風の刃が、大炊御門の手を、ほんの一瞬だけ逸らさせた。 奏様が、いつの間にか祭壇の間の天井の梁に立っていた。


「二条の……『鳥籠』か。まだ、しぶとく生きていたか」


「生憎だが、僕は自由でね。 君のような古臭い亡霊にも、五摂家という退屈な鳥籠にも、縛られるつもりはないんでね。 ……さあ、見せてくれよ、巫女様。君が、僕の『先祖ともだち』を救った、あの光を!」


楓様が稼いだ、ほんの一瞬。


(光を……?でも、あの人には、私の『破魔はまの光』すら効かないかもしれない。 ……いいえ、違う。私がすべきことは、戦うことじゃない。鷹司様が言っていた。 『五摂家の封印は、互いに繋がっている』……!)


私は、清継様から贈られた真珠の簪を、強く握りしめた。


「清継様、清馬様!お二人の、近衛家の『雷』の力を、全て、この簪に! そして、楓!鷹司様!暁人様!奏様! あなたたちの力も、今、私に!」


「…全く、無茶苦茶ね!でも、乗ったわ!」

「フン、面白い!乗ってやる!」

「…五摂家の未来、君に賭けよう!」

「ハハ、最高の舞台だ。僕の『自由』も、君に賭けてあげるよ」



真珠の簪が、五色の光を放ち、私の『破魔はまの光』と融合する。 それは、数百年ぶりに一つとなった、五摂家の真の力だった。


私はその力を一筋の光として大炊御門に放つ。 大炊御門もまた、一筋の黒い光を放ち、二つの力が祭壇の中央で激しく拮抗した。


「終わりだ、巫女!」


大炊御門の闇が、徐々に私の光を押し戻し始める。 その時、清馬様と清継様が、私の背後から、光を放つ私の両の掌の上に、自らの手を重ねた。


「琴葉、一人じゃねえ!」

「我々が、君と共にある!」


二人の力が注ぎ込まれ、私の光は五色から、全てを浄化する純粋な白金プラチナの輝きへと増幅する。 光は黒い光を凌駕し、大炊御門の実体ごと飲み込んでいった。


「馬鹿な!この我が……!たかが小娘一人の絆ごときに……!」


「一人ではありません…!沢山の仲間に…愛する二人がいるんです!」


私の魂の叫びが、光と共に大炊御門を打ち破る。 大炊御門は、光に飲まれながら、断末魔の叫びと共に、今度こそ完全に浄化され、消滅した。


全ての力が消え去り、祭壇の間に静寂が戻る。

私は、全ての力を使い果たし、深く息をつく。

けれど、倒れなかった。 仲間たちに支えられ、

私は、自らの足で、凛として立っていた。


その姿を、誰もが息を呑んで見つめていた。


「……これが、伝説の『破魔はまの光』……」


負傷した父君(清顕様)を支えながら、鷹司様が、信じられないものを見るように呟いた。


「我ら五摂家が、数百年かけても成し得なかったことを……」


「フン……。馬鹿げた光だ」


暁人様が、苦々しそうに、しかしどこか見惚れたように吐き捨てる。


「だが、認めよう。貴様の光が、俺の炎を超えた」


天井の梁から、奏様が軽やかに飛び降り、私の前に立つ。


「いやあ、素晴らしい舞台だった!まさか、本当に『救済』してしまうとはね。 ……僕の『借り』、どう返してくれるんだい?巫女様」


「……ふう。本当に、これで終わり、なのよね……?」


張り詰めていた空気が緩み、楓が、安堵の笑いと共にその場に座り込む。 その声が、私たちの完全な勝利を告げていた。


けれど、双子の若様たちは、そんな周囲の騒音など耳に入らないかのように、ただ、まっすぐに私だけを見つめていた。 その神々しいまでの姿に、息を呑んで。


「琴葉…。すげえよ、お前……」


清馬様が、呆然と、しかし心の底から愛おしそうに呟く。


「…なんか、とんでもねえ女、好きになっちまったな、俺…」


「……ああ」


清継様も、穏やかな笑みを浮かべる。


「君は、我々の想像を遥かに超えた光だ。…本当に、敵わないな。 …惚れ直したよ琴葉さん」


二人の、あまりにも熱く、素直な言葉に、私は顔を真っ赤にするしかなかった。



帝都には真の平和が戻り、奏様も、鷹司様の元で何やら研究の手伝い(という名の監視)をさせられているらしい。


そして、私の「金色の鳥籠」生活も終わり、当主様の許しを得て、再び「女中兼巫女」としての、忙しくも充実した日常が戻ってきた。

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