第52話「雷鳴の洞と、三つ巴の狂騒曲」
近衛家の地下深く。 厳重な封印が施された、最後の聖域「雷鳴の洞」の重い石の扉が、双子の若様の雷の力によって、ゆっくりと開かれていく。
中は広大な空間だった。 中央の祭壇には、眩いほどの雷光を放つ水晶――「雷」の魂の欠片が、厳重な封印の中で脈打っている。
しかし、空間にはすでに先客がいた。
祭壇の前には、あの仮面をつけた影向の術師と、その背後に、まるで影のように佇む「大炊御門」の謎の人影。
そして、彼らとは反対側の天井近くの岩陰から、楽しげな声が響いた。
「やあ、主役の登場だね。これでようやく役者は揃った」
二条奏様が、優雅に脚を組んでこちらを見下ろしていた。
「二条先輩!あなたも、この欠片を……!」
清継様の詰問するような声。
「奏様……!」
「ちっ、あいつもかよ!」
清馬様の苛立たしげな舌打ちが響く。 三つの勢力が、最後の「魂の欠片」を巡り、一触即発の睨み合いを繰り広げる。
均衡を破ったのは、影向の術師だった。
「邪魔をするな、五摂家の残骸ども!」
彼が操る黒い触手が、奏様と私たち両方に向かって、無差別に放たれる。
「おや。観客にまで手を出すとは、無作法だね」
奏様は軽やかに身を翻すと、自分に向かってきた触手だけを、まるで邪魔な虫でも払うかのように『鎌鼬』の風の刃で切り裂く。 しかし、彼はそれ以上は手を出さず、再び壁際で傍観の構えに戻った。
「琴葉、私の後ろへ! 『水天方陣』!」
楓が即座に防御陣を展開し、私を守護する。
「兄上、行くぞ!」 「ああ!」
双子の雷が、術師本体を狙って交錯した。
激しい三つ巴の乱戦の中、私は必死に「眼」を凝らす。
(駄目だ!邪気が三つ巴に混ざり合って、どこが本当の核なのか、特定できない…!)
影向の術師と、大炊御門の影。二つの強大な敵を相手に、双子と楓の動きも徐々に封じられていく。 術師の猛攻が双子の連携を上回り、清馬様が触手に弾き飛ばされ、清継様の結界も、ついに破られてしまった!
「…わかった!」
その時、私はついに見つけた。 この混沌とした戦いの中で、唯一、全ての元凶となっている存在を。
「清継様、清馬様! 敵は術師でも、あそこにいる大炊御門の影でもありません! あの祭壇にある、『雷』の魂の欠片そのものです!」
奏様が解放した「風」の魂の気配に、他の封印が共鳴し、最後の「雷」の欠片が、暴走を始めていたのだ。
「清継様、清馬様、楓!私に、道を!」
私は叫んだ。
「…わかった!」
清継様は、私の覚悟を認め、全戦力を私の護衛と、術師たちの足止めに使うことを決断する。 だが、敵は二人。自分たち三人だけでは、私が光を放つまでの時間を稼ぎきれない。 彼は、最後の賭けに出た。
清継様は、傍観を決め込む奏様に向かって叫ぶ。
「二条先輩!このままでは、あなたの大事な『観劇』も台無しになりますよ! …手を貸していただけないか!」
奏様は、舞台に引きずり出されたことに、やれやれと肩をすくめる。 だが、その瞳は楽しそうに輝いていた。
「やれやれ。舞台に引きずり出すとは、君も悪趣味だね、近衛清継。 …いいだろう。この混沌の結末、この手で演出するのも、また一興」
「清馬!二条先輩と共に、術師と大炊御門の影を食い止めろ!」
「兄上の指図はムカつくが……行くぜ、二条!」
「ハハっ、面白い!いいだろう、近衛の小僧(清馬)。 君の『雷』が、あの古臭い『影』に勝てるのかどうか。この特等席で見極めさせてもらうよ!」
戦場は二つに分かれた。 清馬様と奏様が、術師と大炊御門の影の猛攻を、背中合わせで食い止める。
その間に、私は清継様の『天網・改』と、楓の『水鏡』に守られながら、暴走する祭壇の「雷」の魂の欠片に手をかざした。
「(お願いします!その荒ぶる力を、鎮めてください!)」
私の『破魔の光』が、封印に注ぎ込まれる。 光に呼応し、「雷」の魂の欠片は、さらに激しく脈動し、凄まじい雷光を放ち始めた。
同時に、二条奏様の脳裏に、彼が解放したばかりの『風の魂』の声が、命令となって直接響き渡った。
『今だ!今こそ、我らの兄弟(雷の魂)を取り戻せ!』
「なっ…!?」
清継様の、驚愕の声が響く。
「風」の魂の叫びに突き動かされるように、奏様の瞳が、浅葱色に激しく輝いた。 彼は、もはや自らの意志ではなく、琴葉の光と同じ場所――祭壇の核――に向かって、自らの風の力を放ってしまう。
「巫女よ、浄化ではない。『解放』だ!」
私の「浄化の光」と、奏様の「解放の風」、そして暴走する「雷の魂の欠片」の力が、洞窟の中心でぶつかり合い、全てを呑み込む、眩い光が洞窟全体を包み込んだ。




