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第49話「守護者の聖域と、腐敗の根源」

調査当日。私たちが訪れた鷹司邸は、これまでのどの屋敷とも違っていた。そこはまるで難攻不落の要塞だった。古く、分厚い石壁に囲まれ、庭には巨大な霊木がそびえ立ち、屋敷全体が強力な「守護」の結界に包まれているのを、私は肌で感じた。


「よく来てくれた、皆さん」


鷹司様が、穏やかながらも、どこか緊張した面持ちで私たちを出迎えてくれた。


「……清顕殿からの報告通り、私の聖域でも、ついに異変が観測された」


彼の案内で屋敷の地下深くにある、巨大な石室――鷹司家の『土』の聖域へと向かう。そこには、大地そのものと繋がった、五摂家の中で最も強固な封印が施されていた。


「一見、異常はないように見える。だが……」


鷹司様が防御のために展開した土壁に、霊脈の底から漏れ出した微かな邪気が触れると、じゅ、という音を立てて壁の表面が僅かに腐食していく。

私の「眼」には、その強固な封印の内側から、何かが染み出してきているのが見えた。


「…鷹司様。封印は、外からではなく、内側から……霊脈の底から、何かに蝕まれています!」


「…やはり、君の『眼』は本物だ」


私の報告に、鷹司様は静かに頷いた。


「このままでは、封印を維持できない。清継君、清馬君、琴葉さん。君たちの力を貸してほしい。私の『土』の力で、君たちの力を増幅させ、霊脈の奥にある腐敗の根源を、直接叩く」


「俺たちの力で…?だが、琴葉の力はまだ……!」


清馬様が、私を庇うように前に出る。

しかし、私は彼を制し、まっすぐに鷹司様を見つめた。


「やらせてください。そのために、私たちは修行してきたのですから」


私は、清継様と清馬様に向き直る。


「清継様、お願いします。私の光を制御する『器』を」

「清馬様、お願いします。私の光を増幅させる『熱』を」


「「承知した(任せろ)!」」


私は祭壇の中央に立ち、双子がその両脇を固めた。

私は目を閉じ、心の奥底にか細く残る、光の「種火」に意識を集中させる。

清馬様の「熱」が、荒々しい雷のエネルギーとなって私に注ぎ込まれ、私の「種火」は、一瞬にして燃え盛る炎へと増幅した。


(熱い……!力が、溢れる……!)


清継様の「器」としての力が発動する。彼の冷静な雷が、私の周囲に光のレンズのような陣を形成し、私から溢れ出す膨大な破魔の光を、一本の巨大な槍へと集束させていく。


「行きますっ!」


私の決意の叫びと共に、三位一体の光の槍が、鷹司様がこじ開けた聖域の深淵へと、まっすぐに突き刺さっていった。


私の光が、霊脈の底を照らし出す。

そこには、一本の、黒く腐敗した巨大な木の根が、まるで蛇のように霊石に絡みつき、その養分を吸い上げていた。その木の根が脈動するたび、霊脈の底から、粘つくような、無数の「囁き」が響いてくる。


(あれが、腐敗の根源……!)


私が、その木の根を光で焼き切ろうとした、その瞬間。


木の根の影から、ふっと、人の形をした、半透明の「何か」が立ち上った。

それは、私の光を冷たく一瞥すると、嘲笑うかのように、霊脈のさらに深い闇へと、音もなく消えていった。


「今、誰かが…!」


その存在に気を取られた隙に、膨大な邪気の奔流が、私に逆流してくる。


「琴葉!しっかりしろ!」


双子の必死の叫び声。私は、二人の声に導かれ、最後の力を振り絞って光を爆発させた。黒い木の根は焼き切られ、腐敗は止まった。


「……っ」


全ての力を使い果たした私は、その場に崩れ落ちそうになる。

その体を、寸分の違いもなく、同時に、清馬様と清継様が両側から支えてくれた。


「琴葉!無茶しやがって……!」


「よく、耐えた。……だが、今、何が見えた?」


私は、息も絶え絶えに、自分が見た光景を伝えた。


「黒い、木の根……。それと、人影のようなものが……」


その言葉に、鷹司様は、信じられないという顔で目を見開いた。


「まさか……。『木』の異能……?大炊御門おおいのみかど…。馬鹿な、あの一族は、数百年前に五摂家との戦いに敗れ、完全に途絶えたはず!」


彼の瞳に、一瞬だけ、炎と雷が飛び交う、古代の戦場の幻影がよぎった。


当主・清顕様が言っていた「第三の勢力」。

影向でも、二条でもない、かつて五摂家と都の覇権を争った、古代呪詛一族「大炊御門おおいのみかど」。彼らこそが、影向を裏で操り、五摂家の封印を破壊しようとしている、真の黒幕なのかもしれない。


鷹司家の聖域は守られた。しかし、敵の正体は、より深く、そして根源的なものだった。

清馬様は、支えた私の肩を、安堵と恐怖で微かに震える腕で強く抱き寄せ、清継様は、その手を、感情を抑え込むかのように、私の手首が白くなるほど固く握りしめる。


「…行くぞ。次なる封印の地へ」


二人の瞳には、嫉妬の火花ではなく、私を守り、そして真の敵を討つという、同じ決意の光が宿っていた。


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