第45話「夜明けの誓いと、二つの温もり」
帝都劇場からの帰り道。 四人を乗せた車内は、疲労と安堵が入り混じった、重い沈黙に包まれていた。 けれど、それはこれまでの気まずい沈黙とは違う。 私は、左右から伝わる双子の若様の温もりを感じながら、夢のような戦いの終わりを、静かに実感していた。
屋敷に到着すると、当主・清顕様と鷹司様が、静かに出迎えてくださった。 その表情は厳しくも、どこか安堵の色が浮かんでいる。
「何かあったら、いつでも呼んで」
楓は私の手を一度強く握ると、鷹司様と共に自らの家へと帰っていった。 屋敷には、私と双子、そして当主様だけが残される。
清顕様は、傷つき、疲れ果てた息子たちと私を一瞥すると、一言だけ、静かに告げた。
「……よく、戻った。今は休め」
その短い言葉に、父親としての不器用な愛情が滲んでおり、双子の緊張が僅かに解けるのがわかった。
休息もそこそこに、清継様は一人、父の書斎で今回の事件の全てを報告していた。 二条奏様の行動、そして彼が残した「たった一つの魂」という謎の言葉。
「……やはり、奴の狙いはそちらか」
報告を聞き終えた清顕様は、眉をひそめた。 彼は、これまで近衛家の当主だけに口伝で伝えられてきた、最大の禁忌について語り始める。
「数百年前に五摂家が影向一族を都から追放した際、我らは、奴らの力の源泉であり、始祖でもある最強の呪詛師の『魂』を奪った。そして、その魂を五つに分割し、五摂家それぞれの聖地に、今も厳重に封印している」
「二条の小僧の狙いは、その封印を解き、始祖の魂を自らの器に取り込むことだろう。さすれば奴は、五摂家をも凌駕する、神にも等しい力を手に入れることになる」
清顕様は、息子に新たな使命を与えた。
「清継。お前の使命は、影向の残党や二条より先に、五摂家に隠された『魂の欠片』を全て探し出し、保護することだ。……そして、その巫女の光なくして、その封印を解くことも、再び封じることも叶わぬ」
深夜。 自室で物思いに耽っていた私の元を、清継様が訪れた。 彼は、治療してもらった肩の礼を言うと、静かに私の手を取る。
「君は、もはや守られるだけの宝ではない。我々が、共に守り、そして共に歩むべき、唯一の光だ」
彼は、その言葉の証のように、私の髪に挿された真珠の簪にそっと指で触れた後、その手を、まるで壊れ物に触れるかのように、優しく私の頰に滑らせた。 その、あまりに優しい眼差しに、私は何も言えなくなる。
清継様が去った後、今度は清馬様が、気まずそうに部屋の戸口の柱に寄りかかっていた。 彼は、部屋に入ってくることもできず、そこで深々と頭を下げる。
「……悪かった。俺、またお前に無茶させて……」
彼は、意を決したように顔を上げると、まっすぐに私を見つめて言った。
「でもな、お前があの光の中で立ってた時、綺麗で……格好良くて……。俺、思ったんだ。ただ守るだけじゃ駄目だって。お前の隣に、胸を張って立てるような、そんな男になりてえって」
彼は、何かを振り払うように「じゃあな!」とだけ言うと、去り際に、ほんの一瞬だけ、私の頭をわしわしと、しかしこれまでにないほど優しい手つきで、そっと撫でていった。 その手のひらの熱さが、私の心に温かく残った。
その夜、私は一睡もできなかった。 二人の、あまりに真っ直ぐで、熱い想い。 自分の胸に手を当て、二つの異なる、しかし同じくらい温かい感触を思い出す。
(清継様の、静かで、全てを包み込むような優しさ。清馬様の、不器用で、でも太陽みたいに真っ直ぐな熱さ。私……)
私は、もうただ戸惑うだけではなかった。
(私、強くならなきゃ。このお二人の隣に、ちゃんと自分の足で立てるように。そして、いつか、この気持ちに、ちゃんと答えを出せるように)
東の空が、白み始める。 それは、帝都劇場での戦いの終わりを告げる夜明けであり、私と双子の恋の物語が、より深く、そして切ない、新たな段階へと入った始まりの朝だった。 私は、窓の外の光を見つめ、静かに、しかし力強く頷いた。
私の「三人恋人」としての、そして「伝説の巫女」としての、本当の戦いは、まだ始まったばかりなのだ。




