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第42話「二つの道、一つの光」

「……何をしている、清馬」


清継様の冷たい声が、夕暮れの道場に響き渡る。 私を間に挟み、兄と弟は、激しく睨み合っていた。 清馬様の握りしめた拳が微かに震え、それを受ける清継様の瞳も、一瞬だけ、痛ましげに揺らいだ。 一触即発の空気が、肌を刺す。


「これ以上、彼女を危険に晒すな、清馬。巫女の力は、神聖で繊細なものだ。獣をけしかけるような真似で、どうにかなるものではない」


「兄上こそ、琴葉を鳥籠に閉じ込めて、枯れさせる気か!見てみろよ!あんたの小難しい稽古じゃ、うんともすんとも言わなかった光が、今、確かに見えたんだぞ!」


どちらの言い分も、私の胸に痛いほど突き刺さった。 清継様の言う通り、清馬様のやり方はあまりに危険だ。 けれど、清馬様の言う通り、彼のやり方で、私は確かに、失ったはずの力の火種を感じることができたのだ。


このままでは、また二人が傷つけ合ってしまう。 私は、意を決して、二人の間に割って入った。


「清継様の教えは、私の光を正しく導くための『器』の作り方なのだと、理解しております」


まず、清継様に向き直り、深々と頭を下げる。


「そして、清馬様の教えは、その器に火を灯すための『熱』の与え方なのだと、感じました」


次に、清馬様に向き直る。


そして、私は二人をまっすぐに見つめ、凛とした声で宣言した。


「どちらか一つだけでは、本当の光は灯せません。どうか、お二人の力を、私に貸していただけませんか?」


私の、あまりに予想外で、しかし必死の答え。 双子は、言葉を失い、ただ呆然と私を見つめていた。 やがて、二人は顔を見合わせ、不承不承ながらも、この奇妙な「共同指導」を受け入れるしかないと、悟ったようだった。



その、奇妙な休戦協定が結ばれた直後だった。


「若様方!琴葉様!」


屋敷の使用人が、息を切らして道場に駆け込んできた。


「旦那様がお呼びです!鷹司様もいらっしゃっております!」


当主様の書斎には、鷹司様が険しい顔で待っていた。 彼は、一枚の帝都の地図をテーブルの上に広げる。


「影向の呪詛は、人の記憶を喰らうだけではない。奴らは、その記憶を糧にして、新たな『人工魔石』を、帝都のどこかで精製しようとしているようだ」


鷹司様の重い声が、室内に響く。


「おそらく、ここが奴らの次の標的。そして、呪詛を完成させるための、儀式の場となるだろう」


彼が地図上で指し示したのは、大正ロマンの華やかさの象徴であり、多くの人々の想いや記憶が集まる場所――帝都劇場だった。 鷹司様の指先が地図のその一点に触れると、まるで応えるかのように、そこから微かな黒い靄が、陽炎のように立ち上った。


報告を聞き終えた当主・清顕きよあき様は、厳しい視線で私たち三人を見据える。


「なるほど。帝都の新たな癌か。……清継、清馬。お前たちならどうする?」


そして、清顕きよあき様の視線が、まるで雷のように、私の魂をまっすぐに射抜いた。


「そして、琴葉。お前は、今の自分に何ができる?」


それは、力を失った私への、冷徹で、あまりに真っ当な問いだった。


双子は、顔を見合わせた。 もう、そこにいがみ合いはない。 ただ、同じ敵を見据える、近衛家の雷光があるだけだった。


私は、一歩前に出た。 震える手が、髪に挿された簪の、温かい感触を思い出す。 その温もりが、私の指先に、そして心の奥に、確かな力を与えてくれた。 私は、清継様に、清馬様に、それぞれ片手ずつ、そっと差し出す。


「私には、まだ力がありません。ですが、お二人の『器』と『熱』があれば……」


私は、顔を上げた。 もう、そこにかつての弱々しい少女の姿はなかった。


「私を、連れて行ってください」


それは、守られるだけの少女ではない。 自らの意志で、仲間と共に戦場へ向かうことを決意した、一人の巫女の、覚悟の言葉だった。 三人の心が、再び、そしてこれまで以上に強く、一つになった瞬間だった。

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