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第30話「魂の絶叫と、破魔の顕現」

「ぐあああああああっ!」


「ぐっ…っ!清馬!しっかりしろ!」


清継様は、繋がれた魂を通して、弟の魂が引き裂かれる激痛と、影向ようごうの術師の邪悪な意思の流入を直接感じ取っていた。彼の口からも、苦痛に耐えかねたように血がこぼれ落ちる。


結界の外では、鷹司様が必死に防御陣を展開し、儀式の暴走が外部に漏れるのを防いでいた。

楓は、ただ青ざめて私たちの名前を叫ぶことしかできない。

物理的な力は、この魂の戦いには全く介入できないのだ。


『終わりだ、近衛!その器は、我ら影向の新たな力となる!そして巫女よ、お前は友を失うのだ!』


術師の高笑いが、全員の脳内に直接響き渡った。


(駄目……!私の光は、優しすぎる!この邪悪な呪詛の前では、あまりに無力……!)


私は、必死に祈りの光を送り続け、かろうじて焼き切れそうな魂の糸を繋ぎ止めていた。しかし、それは時間稼ぎにしかならない。清馬様の魂が、内側からどんどん闇に染まっていくのが、私の「眼」には見えていた。


絶望に心が折れかけた、その時。

私の脳裏に、儀式の前に交わした、清継様との約束が蘇る。


『私の唯一の恐怖は、君のいるこの世界を、失うことだけだ』


『ならば、私は、お二人を、私のいるこの世界に連れ戻してみせます』


(嘘つきに、なりたくない……!)


私は、涙を振り払った。守るだけじゃない。繋ぐだけじゃない。今、必要なのは、この闇そのものを断ち切る、強い力。

私の力の根源は、死の淵から生還した、あの体験。生命の光と、死の闇。その両方の境界を知る、唯一の存在。


「その人を、返して!」


私の魂の叫びに呼応し、私の真珠色の光が、その性質を変えた。

それはもはや、ただ温かいだけの癒しの光ではない。あらゆる邪を断ち切る、一振りの光の刃へと姿を変えていた。『破魔はま顕現けんげん』。


私の意識は、物理的な世界を離れ、三人が繋がれた魂の戦場へと飛んだ。

そこでは、影向の術師の黒い影が、光を失いかけた清馬様の魂に、無数の触手を伸ばし、取り込もうとしている。私は、その手に握った光の刃を、躊躇なく振り下ろした。術師の影と清馬様の魂を繋ぐ、全ての呪詛の触手を、一閃のもとに断ち切る。


『この光は……『破魔』……!?馬鹿な、伝説は途絶えたはず……!許さぬ、巫女ぉぉぉっ!』


術師の影が、驚愕と憎悪に満ちた叫びを上げ、

断末魔の黒い煙となって霧散していく。



呪詛が断ち切られた瞬間、清馬様の瞳から赤黒い光が消え、彼は深い眠りに落ちるように意識を失った。魂の糸は役目を終え、静かに消える。

清継様もまた、消耗しきってその場に倒れ込んだ。私もまた、全ての力を使い果たし、気を失う。

最後に見たのは、心配そうに駆け寄ってくる楓の顔だった。


次に目を覚ますと、そこは自室ではなく、屋敷の奥にある、清浄な気に満ちた療養室だった。

隣の寝台には、まだ静かに眠っている清馬様が、そして、傍らの椅子では、回復した清継様と、

私の手を握ってくれていた楓が、付き添ってくれていた。

少し離れた場所では、鷹司様が静かにこちらを見守っている。


楓が、安堵のため息と共に、鷹司様に向かって微笑んだ。


「これで、私たちの役目は果たせたかしら」


鷹司様も、穏やかに頷く。


「ええ。見事でしたよ、一条の」


清継様は、眠る弟と、目を覚ました私を交互に見つめると、静かに、しかしもう揺らぐことのない決意を固めた表情で、こう告げた。


「…もう、決めた。君を、誰にも渡さない。清馬にも、誰にもだ」


その言葉は、やがて来る嵐のような告白の、静かな始まりだった。


その時、眠っているはずの清馬様の指が、ぴくりと動いた。その眉間に、失われた記憶の痛みか、

僅かな影がよぎる。

彼もまた、無意識の中で、同じ決意を固めていたのかもしれない。


影向との決戦は終わった。しかし、恋の戦いは、今、本当の意味で始まろうとしていた。

闇の残り香が、まだかすかに、この部屋の空気に漂っている中で…。

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