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第26話「口づけの秘密と、動き出す影」

金色の鳥籠での、息の詰まるような日々が始まった。女中仲間たちは、私を「琴葉様」と呼び、仕事を手伝おうとしても、「滅相もございません」と丁重に、しかしきっぱりと断られてしまう。


厨房から漂ってくる出汁の香りを遠くに感じながら、あの温かい場所に自分の居場所はもうないのだと痛感する。箒を握りたくて、雑巾を絞りたくて、たまらなかった。


そんな私の姿を、双子の若様たちが、それぞれの場所から見つめているのを感じていた。清継様は、私が悲しんでいることに胸を痛めているようだったけれど、


「これが君を守るための最善策だ」


自らの決意を曲げる気はないようだった。


清馬様は、なぜ私が元気がないのか、なぜ屋敷の空気が重いのか、記憶を失っている彼には理解できず、ただもどかしい日々を過ごす。


その夜。清継様は、一人書斎で、鷹司様との会話を反芻はんすうしていた。


(鷹司殿からは『禁術だ』と強く諌められた。

だが、他に方法はないのだ。弟を、そして…琴葉さんを守るためならば――)


彼は、自らの覚悟を、改めて胸に刻み込んだ。


私は、ただ無為に過ごすことに耐えきれず、一人、巫女修行の場所であった古い神社を訪れていた。


(光よ、私の内に……!)


清継様に教わった通り、自分の内なる光を感じようと試みる。けれど、命を削った代償か、私の力は完全に枯渇し、うんともすんとも言わない。


(このままでは、私は本当に、ただのお飾りになってしまう……!)


その頃、清馬様は一人、弓道場で荒々しく稽古を続けていた。

矢を放つたびに、あの神社での戦いの断片が、霞のかかった記憶として頭をよぎる。緑の風、砕け散る結界、そして……倒れ込む自分の上に重なる、誰かの温もりと、唇に触れた柔らかな感触。


(……なんだ、これ……。俺は、何を忘れてるんだ……?)


的を外した矢の弦が、指に食い込む。

そのちりちりとした痛みが、霞のかかった記憶の疼きと重なって、彼の心をさらに苛んだ。



修行がうまくいかず、落ち込んで屋敷に戻る途中だった。弓道場で一人、苦悩するように佇む清馬様の姿を見つけ、私は思わず足を止めてしまった。

二人きりになるのは、あの日以来初めてだった。


「……清馬様」


私の声に、彼の肩がびくりと震える。彼は、バツが悪そうに視線を逸らした。

気まずい沈黙が、私たちの間に流れる。


沈黙を破ったのは、清馬様だった。

彼は、何かを振り払うように一度だけ頭を振ると、まっすぐに私を見つめて、尋ねた。


「……おい、琴葉」


「……はい」


「あの夜……俺が倒れた後、何か、あったのか?俺とお前の間で」


その、あまりに直接的な問いに、私の心臓が大きく跳ねた。口づけの記憶が、灼けるように鮮烈に蘇る。


けれど、彼に全てを思い出させることが、彼をさらに苦しめることになると、私にはわかっていた。

私は、ぎゅっと拳を握りしめると、ゆっくりと首を横に振った。


「……何も。何も、ありませんでした。清馬様は、勇敢に戦って、私たちを守ってくださった。……それだけです」


「そうかよ……」


私の優しい嘘に、清馬様が納得いかない表情で、何かを言い募ろうと一歩、私ににじり寄った。

その瞬間だった。


「そこまでだ、清馬。彼女はまだ、本調子ではない」


いつの間にか、私たちの後ろに清継様が立っていた。彼は、私を庇うように自分の後ろに立たせると、冷たい視線で弟を見つめる。


(これ以上、琴葉さんを乱すな)


その無言の圧力に、清馬様は、またしても自分が

「蚊帳の外」に置かれたと感じたのだろう。

彼の拳が、微かに震えるのが見えた。

彼は、強く弓を握りしめると、何も言わずに踵を返し、その場を去っていった。


その寂しげな背中に、私の胸は痛んだ。

私のついた嘘が、さらに兄弟の溝を深めてしまったのではないか、と。


「明日、鷹司邸へ向かう」


清馬様が去った後、清継様は私に向き直った。


「君には、聞いてもらわねばならないことがある。二条奏にじょうかなでを、そして『影向ようごう』を討つための、我々の計画を」


彼の瞳には、以前とは違う、冷徹な光が宿っていた。


彼が語る「計画」とは一体何なのか。

そして、その計画に、私はどう関わっていくのか。

影向との最終決戦に向け、物語は新たな、そして危うい局面を迎えようとしていた。

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