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第24話「命を懸けた口づけと、その代償」

結界は砕け散り、術師は闇の中へと姿を消した。けれど、私たちの戦いは終わっていなかった。いや、本当の絶望は、ここから始まろうとしていた。


「清馬様!」


私が駆け寄ると、禁断の力を使った代償か、

清馬様はその場に崩れ落ちた。

彼の荒い呼吸が、夜の静寂に痛々しく響く。

そして、私の「眼」には、恐ろしい光景が映っていた。


清馬様の生命力が、まるで嵐の中の蝋燭のように激しく揺らぎ、二条様から与えられた緑色の風の気に、内側から喰い荒らされていくのが見えていた。


(このままでは、清馬様の命が……消える!)


「駄目だ…!」


清馬様の体に触れた清継様が、絶望の声を上げる。


「清馬の体の中で、二条先輩の風の力と、我らの雷の力が反発し合い、互いを喰っている!私の力では止められない!」


楓も、ただ青ざめて立ち尽くすことしかできなかった。


(いやだ……!)


私は必死に癒しの力を発動させようとするが、

私の優しい光は、彼の体を蝕む緑の風に、まるで拒絶するかのように弾き返されてしまう。


(駄目……届かない!私の光が、中に入っていけない……!)


弾き返される光を見ながら、私の脳裏に、あの日の記憶が蘇る。


結核で亡くなった両親。日に日に生命力が薄れていき、最後には完全に消えてしまった、あの時の無力感。


(また、同じなの…?また、大切な人が、私の目の前で……)


絶望が、私を打ちのめしかけた、その時。私は、一つの覚悟を決めた。


(外から光を送るだけでは駄目。もっと直接、私の命を……!)


結核で亡くなった両親の、最期の冷たさを思い出す。

もう二度と、あんな無力感は味わいたくない。

震える指で、そっと清馬様の頰に触れた。


私は、清馬様の傍らに膝をつくと、その唇に、

自らの唇を重ねようとした。

そのただならぬ気配に、清継様が気づく。


「待て、琴葉さん! 何を……!まさか、君は自らの生命力を直接清馬に注ぎ込むつもりか!?

そんなことをすれば、君の命が……!」


清継様が伸ばす手を、私は涙ながらの瞳で制した。


「もし、この命で、大切な人を救えるのなら…

私は、迷いません!」


それは、もはや守られるだけの少女ではない、一人の「癒しの巫女」としての、魂の叫びだった。


私は、清馬様の冷たい唇に、そっと自らの唇を重ねる。

そして、強く願った。私の生命力の全てが、この人に注がれますように、と。


私の体から溢れ出した真珠色の光が、唇を通して、奔流のように清馬様の体の中へと流れ込んでいく。緑色の風の気が、聖なる光によって浄化され、霧散むさんしていくのが見えた。


緑の風が完全に消え去ったのを確認し、私はそっと唇を離した。

清馬様の荒かった呼吸は穏やかになり、その影も、元の濃さを取り戻している。

けれど、その代償として、私は全ての力を使い果たし、清継様の腕の中へと崩れ落ちた。その顔は、蝋のように真っ白だった。


清継様は、意識を失った私を、壊れ物を抱くように強く、強く抱きしめた。

弟を救ってくれた感謝と、彼女を失うかもしれなかった恐怖。

その二つの感情が、彼の心を激しく揺さぶっていた。彼は、眠る私の額に、そっと自らの額を寄せた。


屋敷に戻り、私は自室の布団で静かに眠っていた。

その手を、楓がそっと握っていた。


『あなたは一人じゃないわ、琴葉』


眠る私に囁きかける声が聞こえた気がした。


その傍らで、回復した清馬様がゆっくりと目を覚ます。


「……俺は……?そうだ、結界を……!琴葉は!?兄上は!?」


断片的な記憶の渦が頭を駆け巡り、彼はこめかみを押さえて呻いた。

なぜ自分がここにいるのか、そして何より、胸を締め付けるこの言いようのない喪失感が何なのか、彼にはわからなかった。


一方、別の部屋で、清継様は一人、窓の外の闇を見つめていた。

彼は、眠る私の姿を思い出し、静かに、しかし鋼のような意志で誓う。


「二度と...。二度と、君にこんな犠牲は払わせない。たとえ、この身がどうなろうとも」


琴葉を守るためなら、どんな手段もいとわない。

彼は、強く拳を握りしめ、まるで窓の外の闇の向こうにいる宿敵を睨みつけるかのように、その瞳に危うい光を宿した。

その変化に、まだ誰も気づいていない。

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