第104話「白金の暁(あかつき)、魂の行方」
私の放った、一点に凝縮された純粋な白金の光が、鬼神の巨躯の中心――
赤黒く脈打つ禍々しい闇の結晶体『核』へと突き刺さった。
「ギィイイイイイイイイイアアアアッ!!!」
鬼神が、これまでにない甲高い苦痛の絶叫を上げる。 光が核に侵入し、内側から浄化を開始する。 核は激しく抵抗し、祭壇全体を揺るがすほどの黒い衝撃波を放った。
「(光を押し込みながら、歯を食いしばり) …負けない…!みんなの想いを…!この光に乗せて…!」
「(衝撃波から私を守りながら)琴葉ァーッ!行けぇぇぇっ!!」
清馬様の叫びが響く。
激しくきしむ『双雷・魂縛の檻』を維持しながら、
「(苦悶の表情で) …今だ…!一気に…浄化しろ…!」
清継(清影)様の声も限界に近い。
「(舞を続けながら、祈るように)お願い…!闇を…祓って…!」
薫子様の祈りが重なる。
白金の光は、核の抵抗を打ち破り、さらに深く侵食していく。 闇の結晶体に、蜘蛛の巣のような白い亀裂が走り始めた。 ついに、核が限界を迎える。
白金の光が核を完全に包み込み、その存在を浄化・消滅させる。
「…オ…オノレェ…!ヒカリ…ガ…!キエ…ヌ……!!」
断末魔の叫びとも怨嗟の声ともつかない、無数の声が重なったような絶叫を残し、鬼神の漆黒の巨躯は形を保てなくなり、まるで朝日を浴びた闇のように、光の粒子となって霧散していく。 背中の禍々しい腕も、赤い光を灯していた眼窩も、全てが消え去った。
禍々しい気配と不気味な囁き声が完全に消え、祭壇には夜明け前の静寂が訪れる。 清継(清影)様が維持していた雷光の檻も、役目を終えて静かに消えた。
「(光を収め、その場に膝をつき、荒い息をつきながら)…終わった……?」
「(呆然と)…消えた……のか…?」
清馬様が呟く。
鬼神が消滅したのを確認すると、清継(清影)様はその場にふらつき、膝をついた。 彼の体から溢れていた二色の霊力は不安定に揺らぎ、明滅している。
「清継様!」
私は慌てて彼に駆け寄った。
「兄上!おい、大丈夫か!? それに…親父(清影)の魂は…!どうなったんだよ!」
「清継…!清影…!」
薫子様も駆け寄る。
「(苦しげに息をつきながら、自分の胸に手を当て) …分からない…。父(清影)の気配は…感じる…。だが…声は…もう…」
彼の瞳の色は、左右で分かれていた青と金が混じり合い、元の落ち着いた黒色に戻りつつあった。 しかし、その奥には依然として、彼だけのものではない、深い疲労と、何か別の魂の存在を感じさせる揺らぎがあった。
「…どうやら…消えた…わけでは…ないようだ…。 だが…私の内で…眠って…いる…?」
清継様は、それだけを言うと、ついに限界が来たのか、ふらりと体勢を崩した。
私は慌てて駆け寄り、彼の体を支える。 私の腕の中で、彼は安堵したようにゆっくりと意識を手放した。 禁術の代償は、やはり大きかったようだ。
「清継様!しっかりしてください!」
「兄上…!くそっ…!」
「(清継様の額に手を当て) …とにかく、今は休ませないと…。霊力も、生命力も、ほとんど空っぽに近いわ…」
薫子様が、心配そうに息子の顔を覗き込む。
その時、壁際で崩れ落ちていた清顕様が、ゆっくりと、しかし確かな足取りで立ち上がった。 彼の体も『雷帝纏』の反動でボロボロのはずだが、その瞳には当主としての光が戻っていた。
「……終わった…のか……?」
「はい…。鬼神は…完全に…」
「(意識のない清継様を見下ろし)……馬鹿な術を使いおって……。だが……」
彼は、傍らに立つ清馬様の肩を、不器用に、しかし力強く叩いた。
「……よくやった、清馬。…そして、清継も」
「(驚き、目を見開き)…父上……」
(…十六年か。 十六年かけて、ようやく…こんな言葉しか、かけてやれんとはな)
清顕様は、内心で自嘲するように呟いた。
それは、彼が初めて息子たちにかけた、労いの言葉だったのかもしれない。
破壊された祭壇の天井から、朝日が差し込み始めた。
長い夜が明け、戦いが終わったことを告げていた。
「…なあ、兄上…。兄上の中にいるっていう、親父(清影)の魂は… これから、どうなるんだ…?」
意識のない清継様に、清馬様が問いかける。 答えは返ってこない。
薫子様は、清継様の手をそっと握り、消えかけた光が宿るかもしれないその手を慈しむように見つめながら、微かに彼の名を呼び続けた。
「…清影…清影…」
彼女の呼び声に応えるかのように、あるいは最後の別れを告げるためにか。 意識のない清継様の体から、ふわりと、淡くも温かい黄金色の光が立ち上り始めた。
「(その光に気づき、ハッとして)…! これは…清影様の…魂…!?」
「(驚き)…! おい…!兄上の体から…光が…!」
「(目を見開き)…まさか…分離るというのか…!?」
清顕様も息を呑む。
黄金色の光は、徐々に人の形を成し、意識のない清継様の傍らに、実体化し始める。 それは紛れもなく、十六年前の姿のままの、清影の姿だった――。
私は、込み上げる涙を必死に堪えながら、目の前で起ころうとしている奇跡を、
ただ信じて、祈るように見つめていた。




