第103話「二つの魂、一つの光」
鬼神の巨大な『闇』が、覚醒した清馬様の黄金の雷光を飲み込もうとしていた。
私と薫子様の悲鳴が響く。 絶対絶命。 その、瞬間――
「…まだだ」
静かな、しかし祭壇全体を震わせるほどの、清冽でありながら底知れぬ力を持った声が響いた。 鬼神の『闇』の動きが、ピタリと止まる。
声の主は――意識を失っていたはずの清継様だった。 彼はゆっくりと立ち上がり、その身からは、以前の彼とは比較にならないほどの霊力が溢れ出していた。
「兄上!? 気が付いたのか!?」
清馬様の驚愕の声が響く。
「清継様…! よかった…! でも、なんだか…雰囲気が…?」
彼の佇まいは清継様のものだった。 けれど、その瞳の奥には、父・清影様を彷彿とさせる激しい光が宿り、まるで二つの魂が一つの器に同居しているかのようだった。 彼から放たれる霊力も、清継様の『理』の青白い光と、清影様の『熱』の黄金色の光が混じり合ったような、複雑な色合いをしていた。
「(息を呑み)…清影…? いいえ…清継…? あなたは…」
薫子様も、その異様な気配に言葉を失っている。
「(声が二重に響くように)…騒がしいな。…鬼神か。 …厄介なものを呼び覚ませてしまったな」
清継(清影)様は自分の手のひらを見つめ、新しい力、あるいは懐かしい力を確かめるように、ゆっくりと握りしめた。
「…なるほど。これが、俺の…いや、『私たち』の力か」
「グオオオオッ!!」
鬼神は、清継(清影)様の存在に明らかな脅威を感じ、咆哮する。
その悪意の全てが、新たな敵へと向けられた。
「兄上! そいつは…!」
「分かっている」
清継(清影)様は静かに説明を始めた。
「父(清影)の魂は、弱すぎて単独では存在できなかった。 だが、母上の呼び声と、血の繋がり…そして、この琴葉さんの光に導かれ、息子の内で、かろうじて形を保っている」
「今は、一時的に『二つの魂』が混じり合っている状態だ。 不安定だが…鬼神に対抗できる力は、これしかない」
「清継様…! 清影様の魂は…!?」
「…安心しろ。まだ消えてはいない。だが、長くは保たん。 鬼神を滅するしか、道はない」
清継(清影)様は、鬼神を真っ直ぐに見据えた。
「奴は純粋な破壊衝動。魂がない。 だから、巫女の光も決定打にはならなかった」
「だが、『核』はあるはずだ。鬼神をこの世に繋ぎ止めている『楔』のようなものが」
「私が、この二つの魂の力で奴を一時的に縛る。 …琴葉さんは、その隙に、『白金の光』の全てを奴の『核』と思しき箇所に叩き込め。 琴葉さんの光なら、魂なき力の楔を浄化できるかもしれん」
「兄上! そんな無茶な…!それに、親父(清影)の魂はどうなるんだよ!」
「…この術を使えば、父の魂もどうなるか分からん。 …だが、やるしかない」
清継(清影)様は、清馬様に向き直った。
「清馬。お前の役目は、琴葉さんを守ること。 そして、私たちが隙を作るまで、鬼神を引きつけろ。…できるな?」
「(兄であり父でもある存在の覚悟に、唇を噛みしめ) …ああ! 任せろ、兄上!」
作戦は決まった。 清馬様が再び黄金の雷光を放ち、鬼神に挑みかかる。
「こっちだ、化け物!」
鬼神の注意が清馬様に向いた隙に、清継(清影)様は両手を構えた。
彼の左右の瞳の色が、青と金に、それぞれ明確に分かれたように見えた。
「(二つの声が重なり) …見せてやる。『理』と『熱』… 二つの雷が交わる時…本当の力を!」
彼の両手から、青白い精密な雷光と、荒々しい黄金の雷光が同時に放たれた。
二つの雷光は美しい螺旋を描きながら融合し、鬼神の巨躯を包み込む巨大な『雷光の檻』を形成していく。
「『双雷・魂縛の檻』!! これが…俺たちの力だ!」
「グ…オ…オ…オ…!!」
檻の中で、鬼神は暴れ狂い、咆哮する。 その動きが、確かに一時的に封じられた。 しかし、檻は激しくきしみ、長くは保たないことを示していた。
崩れ落ちた清顕様は、朦朧とする意識の中、息子たちの死闘を見守っていた。
(…清継…清馬…!あれが…お前たちの…!)
声にならない父の想いが、虚空に響いた。
「今だ、琴葉さんッ!!」
「行け、琴葉ァ!」
清馬様が、檻から漏れ出す鬼神の触手を必死で叩き落とし、私への道を作ってくれる。
私は、涙を振り払い、覚悟を決めて走り出した。 清継様の命懸けの術、清馬様の決死の守り、そしてこの場にいる全ての人の想いが、私の胸の中で一つの力となる。
「(涙ながらに祈る) 清継様、清馬様…! 清影様…! 薫子様…清顕様…!」
「もう、誰も悲しまないで…! 憎しみの鎖は、私たちが断ち切ります…!」
その瞬間、私の全身から溢れ出す白金の光が、これまでとは比較にならないほど眩く、そして凝縮された輝きを放った。 それは単なる力の増大ではなく、巫女としての、そして二人を愛する者としての、全ての覚悟が昇華されたかのような、一点の曇りもない純粋な光だった。 私の瞳もまた、白金の色に強く輝いていた。
その、これまでで最も強く、一点に集中された慈愛の光が、鬼神の巨躯の中心、まるで心臓のように赤黒く脈打つ、禍々しい闇の結晶体―― 鬼神をこの世に繋ぎ止める『核』へと、真っ直ぐに向かっていく――!
光と闇が、今、激突する。




