表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/96

第1話「選べないなんて言わない。だって、二人ともいただくから」

第1話の伏線が回収されるのは、第35話になります。

物語の進行はややゆっくりですが、その分、そこからは日常回も増えていきます。


実は、日常回を書いているときの方が筆が進んで楽しいのですが、キャラクター同士の関係性を深めるには、非日常の出来事も欠かせず、毎回頭を悩ませながら構成しています。


海や学園祭、クリスマスなどのエピソードもすでに執筆済みですが、登場はもう少し先のお楽しみです。


気長にお付き合いいただけましたら、とても嬉しいです。

挿絵(By みてみん)



「……は?」


夕暮れの茶室に、畳の香りが静かに満ちる。 私は袴の裾を握りしめ、目の前に並ぶ二つの影を見上げた。


そっくりな黒髪。 双子の瞳が、真剣な光を宿して、まっすぐに私を射抜いている。


同じタイミングで、同じ真剣な顔で、同じ言葉を口にした。


『好きだ』


近衛家このえけの双子、兄と弟。二人同時に。


――いやいや、ちょっと待って。 なんで私、こんな少女漫画みたいな状況に立たされてるの?


(顔は同じ。性格も、もう、どちらがどうだなんて言えないくらい、二人とも知ってしまった。 命を懸けて私を守ってくれた人たち。私が命を懸けて守りたかった人たち。……選べるわけが、ない)


兄の清継きよつぐ様は、私の髪に挿した真珠のかんざしにそっと触れるように、静かで、それでいて熱を帯びた声で告げる。


「君のいない世界は、もう考えられない。 私の唯一の光である君を、これからは私の傍らで、生涯を懸けて守りたい」


弟の清馬きよま様は、あの夜の記憶の疼きを振り払うかのように、一瞬だけ私の唇へ視線を落とし、そしてまっすぐに瞳を射抜いて叫んだ。


「俺の隣がお前の居場所だ! もう、誰にも渡さねえ! お前の笑顔も、涙も、全部俺が独り占めにしてやる!」


……うん、どっちも刺さる。困る。 いや、困らない。むしろ、美味しすぎて罪悪感すら湧かない。


兄の静かな稲妻のような視線。 弟の嵐のような熱気。 その二つが、肌をビリビリと撫でていく。


(こんなにも真っ直ぐな、命がけの想いを二つもいただけた。 たとえ『巫女』なんて大層な役目をいただいたとしても、私の根っこはただの女中なのに。 そんな私には、あまりに贅沢で、罰が当たりそうなほどの幸福……。


どちらか一つなんて、私には選べない。 いいや、違う。選んではいけないんだ。 この二つで一つの尊い想いを、私が分断するなんて、絶対にしてはいけない)


気づけば、私の口は勝手に動いていた。 私が選んだ、たった一つの誠実な答え。


「じゃあ──二人とも、付き合います」


沈黙が、茶室を包む。


兄の清継きよつぐ様は眉をひそめ、弟の清馬きよま様は目を丸くして拳を緩めた。 二人は同時に視線を交わし、互いの顔に映る信じられない驚愕を確かめ合う。


「……えっ」 「……えっ」


兄は静かに息を吐き、低く問う。


「私たち二人と同時に……? そんな選択肢が、五摂家ごせっけの掟に許されるのか?」


弟は声を震わせ、叫ぶ。


「マジかよ!? そんなのアリなの!? お前、雷の双子を二人まとめて食う気か!?」


二人の声が重なった瞬間、私は心の中で頭を抱えた。


(ああもう、どうしてこうなったのか……説明しなきゃダメ? でも、このビリビリした空気、嫌いじゃないかも……)


──そう、すべてはあの日から始まった。


近衛家このえけに女中として入ったあの日。 結核で両親を失い、孤児院の門を叩いた私が、この雷鳴の屋敷に足を踏み入れた瞬間から。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ