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この教室、責任とリスクしかない

学園事務員が、台車に載せたクラス分の札束――計1億円――を押して舞台袖から現れる。

男子生徒が一礼すると、ざわめいていたホールがピタリと静まり返った。

先ほど発表された衝撃――「成績最下位とされた4名に、1億円の予算を管理させる」という事実が、まだ全員の頭にこびりついている。


「それでは、管財委員会の二名より、今後の制度について簡単に説明させていただきます」


スクリーンがゆっくり暗転し、次の瞬間、舞台の奥から制服姿の男女が並んで登場する。

一歩前に出た女子生徒が軽く会釈し、口を開いた。


「こんにちは。管財委員長の五宝です。質問は原則受け付けませんので、静かにお聞きください」


隣の男子生徒が続ける。


「副委員長の新堂です。本日より開始される『SMFP(自己管理資金プログラム)』について、簡潔にご説明いたします」


スクリーンが再び切り替わり、「資雅学園 予算制度の概要」の文字が映し出される。

新堂は淡々とした口調で説明を始めた。


・各クラスには、年間予算として1億円が支給される。


・予算の運用は、クラス内で選出された4名の「代表執行者」が担う。


・設備費、教材費、人件費までも、この1億円から支出される。


「つまり君たちは、今日から“経営者”です。なお、年度末の決算で赤字を出した場合、該当クラスの執行者は即刻退学となります」


――ぞくり。背筋を冷たい風が這い上がるような感覚。

誰もが声を失い、息をひそめていた。


「代表執行者の皆さん。クラスに戻ったら、副執行者をそれぞれ1名ずつ選出してください。以上です。本日の予定はそれで終了となります」


五宝の一方的な宣言とともに、説明は終わった。

質問も意見も、許される空気ではない。

ざわめきが再び静まり返るなか、生徒たちは戸惑いながらホールをあとにしていく。


しかし、教室に戻ってもそのざわつきは収まることはなかった。


「理央、あんたが1年の時、最下位だったなんて(笑)」


「いやあ、僕もまさか最下位だとは思ってなかったなあ」


理央は苦笑いを浮かべながら、無造作に髪をかき上げる。

その姿に、教室の空気がまた一段とざわめく。

眼鏡の奥で静かに瞬く瞳、整った顔立ちに落ち着いた物腰――

クラスの誰もが“できるやつ”だと思っていたその理央が、まさかの最下位だったという事実に、皆が戸惑いを隠せない。


そんな空気の中、校内放送が割って入る。


「――それでは、副執行者を選出してください。選出が完了次第、下校とします」


ざわめきの残る教室。

だれもが顔を見合わせながら、誰も手を挙げようとはしない。

「副執行者ってさ、なにするの?」

「責任重そうだし、やりたくないな……」

「ていうか、一ノ瀬が代表でしょ? 誰か勝手にやってくれればよくない?」


まるで他人事のような空気が漂うなか、理央は困ったように苦笑いを浮かべていた。

そんな様子を見かねて、美月が勢いよく床から立ち上がる。


「……仕方ないじゃん。見てらんないし。あんた、どうせ誰も頼れないタイプでしょ?」


理央が「え?」と間の抜けた声を出すより早く、美月は腕を組みながら言い放った。


「副執行者、私がやる。文句ある人、いないよね?」


教室が一瞬、静まり返る。そしてすぐに、ホッとしたような空気が広がっていく。





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