新学期早々、クラス消滅?
「おーい、2人ともーーーーー!」
けたたましい声に、ぼんやりとした頭がようやく反応する。一ノ瀬 理央と春野 陽斗は、眠たそうに目をこすりながら後ろを振り返った。
近づいてきたのは、真堂 美月。無表情で、冷たい風のような足取り。
「……寝ぼけてんじゃないわよ」
バチンッ!
美月の手が、2人の頬を容赦なくとらえた。
「痛ってえ! 新学期早々パワハラやめてよ~……」
理央は頬をさすりながら泣きそうな顔をする。
「朝っぱらからお前らの夫婦喧嘩に付き合わされるこっちの身にもなれ、ほんとに……」
陽斗が溜息まじりにぼやくと、美月がさらにもう一発振りかぶる素振りを見せ、2人は同時にぴしっと立ち直った。
「私たちまた同じクラスになるのね……よかった」
美月は小さな声で呟いた。
「そりゃ、学校の規則でクラス替えなんてないんだからな」
陽斗は淡々と返す。
「まあまあ、2人とまた一緒で僕は嬉しいけどね。2年もよろしく!」
理央はニコニコとした顔で言った。
3人は正門を抜け、1年生棟、職員棟を過ぎ、2年生棟への道を進む。
2年生棟と3年生棟は、1年生棟とグラウンドを挟んだ先にあり、距離にしておよそ1キロほど離れている。
3人は、その距離に反比例するかのように、徐々に足取りを重くしていった。
「私、もう歩けなーい! 理央、校舎を近づけてーっ!」
美月は突拍子もない要求を口にし、理央に助けを求める。
理央は困ったように苦笑しながらも、黙って歩き続けた。
陽斗も少し後ろを振り返りながら、理央の隣を並んで歩く。
「無視するなあああーっ!!」
美月は両手で理央と陽斗の片足ずつを掴むと、そのまま強引に引っ張られながら進んだ。
校内には桜の花びらが舞い、グラウンドには数台の大型トラックが不自然なほど並んでいた。
異様な光景が、ただの新年度ではないことを、静かに告げていた。
3人は額にうっすらと汗をにじませながら、ようやく二年生棟の下足にたどり着いた。
「いやあ、やっと着いたね。それにしても、うちの学校ってほんと広すぎ」
理央が制服の裾をパタパタ仰ぎながら言う。
「理央が運んでくれなかったから、私の足はもう棒だよ……」
美月は膝に手を当てて、理央をじとっと見つめる。
「まあまあ、あんまり理央に突っかかってやんなよ」
陽斗が軽く笑いながら、2人の間に割って入った。
やけに棟内がざわついていて、異様な空気が漂っていた。
「なんか、やけに騒がしくない?」
美月が不思議そうに眉を寄せる。
「そうか〜? 新学期ってこんなもんじゃね?」
陽斗は気にする様子もなく肩をすくめる。
「でもさ、さすがに騒がしすぎるでしょ……」
理央が棟内を見上げながらつぶやいた。
下足の場所にいても、上階から響くざわめきがはっきりと伝わってくる。
何かが起きている——3人の間に、じわりとそんな空気が広がっていた。
「まあ、こんなところで油売ってても仕方ないし——陽斗も美月も、行くよ」
理央が2人を促すように声をかけ、階段を上り始めた。
「私たちは1年のときから同じクラスだったし、D組で間違いないんだよね?」
美月が不安そうに問いかける。
「うん、間違いないはずだよ、美月」
理央が穏やかに答えた。
階段を上がるにつれ、騒がしさはさらに増していき、内容も徐々に聞き取れるようになってきた。
「え、なにこれ……」「マジで?」「嘘だろ」
そんな生徒たちのざわめきが、かすかに3人の耳にも届く。
やがて階段を上りきり、右手の廊下を進む。
3人は、教室【2年D組】の扉の前へとたどり着いた。
2人より少し前を歩いていた美月が、教室のドアに手をかけた。
「おはよ……なにこれ……」
ドアを半分だけ開けたまま、言葉を失う。
陽斗が美月の様子に気づき、その肩越しから中を覗く。
「早く行けっつーの……って、え?」
美月の頭越しに教室を見た陽斗も、目を見開いて言葉を詰まらせた。
「なんだこっれ……ないぞ」
2人が入口で固まる中、理央が無言で2人を押しのけ、教室の中へ一歩踏み出す。
「……マジで、ないじゃん」
陽斗の声がかすれた。
美月は立ち尽くしたまま、ぽつりと呟く。
「ねえ、うちって……潰れたの?」
そこには、机も椅子も、何一つない教室が広がっていた。
壁際の電子黒板には、たった一言だけ。
【ご進級おめでとうございます】
理央は、そんな二人をよそに一歩だけ教室に足を踏み入れた。
そして、小さく呟いた。
「……画板確定演出かな?」




