絶望のエリーゼ
続きがかけるかもと連載にしましたが、完結作品です。その後の話が出来たら、追加したいです。
「エリーゼよ、光栄に思うが良い。赤髭公爵の次の奥方として、お前が指名された。出発は明日の早朝だ! わはははっ」
「嘘でしょ、お父様! 何を仰るのですか!?」
愉快に笑う父ビリーに困惑し、エリーゼは驚愕しながら尋ねた。
エリーゼは没落した伯爵貴族の令嬢だ。
それでも父白爵は王宮勤めをしているから、今まで生活が困窮することはなかった。
既に領地と先祖代々の邸は売り払われているが、その分の資金の一部は父白爵の懐に入っているから、贅沢しなければ当分は不自由なく暮らせる状態にはあるはず。
ハッキリ言うと父の代での経営の失敗で、爵位以外を手放したようなものなのだから。
「どうして私が婚約者に? 私にはマイケルがいます。赤髭公爵に嫁ぐことは出来ませんわ」
ビリーを問いつめるエリーゼに、義妹のロリータがマイケルの腕を組んで姿を現す。
「そんなの大丈夫よぉ、お義姉様。私がマイケルと添い遂げますからぁ」
「すまない、エリーゼ。そんな訳なんだ」
ばつの悪い顔をした婚約者だが、義妹に胸を押し付けられて時々そちらを見てニヤケている。
最低だ!
「な、なんでエリーゼとマイケルが? 嘘でしょ?」
「もう後戻りなんて出来ないわ、公爵様との約束だもの。
今日はご馳走にしたから機嫌を直してよ。
さあ、たくさん食べて頂戴。ね、エリーゼ」
義母のアルラウネが喜色満面にお祝いしようと騒ぎ立てたことで、父が私を金で売り払ったと予想が着いた。
テーブルいっぱいに並ぶご馳走と、ロリータの着ている真新しいドレスと義母の大きな宝石の付いた指輪。最近まで家にはなかったものだ。
目をそらす父を私は睨み付けた。
(もうやってられない。このご馳走は、きっと私を売ったお金で買ったのでしょう。もう根こそぎ食い尽くしてやるんだから!)
「ガツガツ。グビグビッ。っくううっ、美味しいわ!」
「まあ、下品ねぇ。エリーゼったら」
「本当よ。マイケルの前なのにそんな姿見せて、良いのぉ?」
(もう貴族のマナーなんて、いらないわ。マイケルなんてもっといらない。だって明日死ぬかも知れないもの)
右手にフォーク、左手になみなみにワインを注いだグラスを持ち食べまくる。
「いやぁ~、私の分がなくなっちゃう」
義妹ロリータの甘ったるい口調を目でギッと睨み付け、気にせず猛烈な勢いで食べまくるエリーゼ。
(文字通り最期の晩餐なんだから、構ってられるか! 貴女達は、後からいくらでも食えば良いでしょ)
野菜サラダと煮物だけを残し、ワインも飲み尽くして部屋に戻る。
普段は伯爵令嬢として上品にしていたが、もう今さらだ。
マイケルにだって、もうどんな風に見られても良い。
何なら食べ過ぎてげふっと、なったけど知らない振りで部屋に戻った。
◇◇◇
そして取りあえず荷物の整理をしていると、知らずと涙が溢れ着替えの服にポツポツと雫が落ちていく。
「いくら邪魔だからと言っても、死んでも良いと思われていたなんて。……私は家族じゃなかったのね。ぐずっ、ズビッ」
王宮勤めの父だから、体裁で娼館に売り払わなかっただけで、そうじゃなければそんな未来もあったと思う。
母が生きていた時は母が領地の経営をしていたし、社交には私も同行していたから人目を気にしたのだろう。
たぶん私が赤髭公爵に嫁ぐことは、周囲には内緒のはずだ。
赤髭公爵とはあだ名で、本当はランシュアス・イルレン公爵である。
顎の下髭が、戦争時の返り血で濡れていたことが発端。今では娶った女性が居なくなると有名で、彼に切り殺されたのでは? と噂されていた。
そんな公爵に父は私を売った訳である。
「ああもう、知らない。私の方から全部捨ててやる。父も義母も、義妹も、マイケルもいらないわ。お酒にも酔ったし、もう寝よう」
私は爆睡した。
◇◇◇
部屋の前では私が逃げないように、マイケルが寝ずの番をしていたが、ふて寝したエリーゼには無駄なことだった。
「くぅ、お腹空いたし眠い。それにしても、エリーゼはあんなに下品な女だったのかよ。
心配して損した。アルラウネ様からご馳走だと呼ばれたのに、エリーゼが全部食べちゃうし。
なんで俺が見張りなんて………ブツブツ」
もう既に伯爵家の言いなりであるマイケル。
長年の婚約者エリーゼを捨て、ピンク髪で赤目の可愛らしいロリータに堕ちた彼。
しっかり者のエリーゼに息子を託したいと、彼の両親の願いでなった婚約だったのに。
◇◇◇
そして翌日。
馬車は公爵家から用意されたものが既に待機していた。
綺麗めではあるが普段着の服を着るエリーゼ。荷物も衣類だけで宝石の一つもない。
母の物も含め、みんな義母達に取り上げられていたから。
仮にも結婚する娘に、ドレスどころか新しいスカートすら父からは貰えなかった。
マイケルは徹夜の眠気で廊下に踞っており、義母と義妹は起きられずに寝ているようだ。
辛うじて父だけが馬車の馭者に挨拶をする。
誰にも会わないように午前5時に来るあたり、まともじゃない。
私が売られていくのを、ニヤケた顔で貶めようとしていた義母達がいないのは幸いだった。
「それでは、娘をよろしくお願いします」
そう言うと馭者が、重そうな布袋を父へ渡す。
直感で金貨だと分かり、それを持つ父のニヤケ顔にイラつく。
それに気づいた父は、ゴホンッと咳払いしてこちらを見た。
「それではしっかり勤めるように。元気でな」
「…………」
無言で馬車に乗る。
心の中では「煩い死ね!」と繰り返していた。
罵倒する言葉を発しないことを褒めて欲しい。
そうして半日かけて、公爵領地に辿り着いた。
鬱蒼な森を潜り、その中心に現れた邸は大きくて古く、歴史を感じさせる。
回りに民家もない為、助けは呼べないなと覚悟した。
「いらっしゃいませ、お嬢様。どうぞ中へ」
門の前で出迎えてくれたのは、腰の曲がった老婆だった。
荷物を持つと言うが大した物はないし、気の毒なので断った。
「お出迎え御苦労様です。荷物は軽いので大丈夫ですよ。気遣って下さり、ありがとうございます」
淑女の礼を取り、彼女に微笑みかけた。
「えっ! ええっ、はい。こちらこそ、ありがとうございます」
老婆は逆に驚いた様子を見せ、頭を下げていた。
恐怖に震えて辿り着く令嬢達に、こんなことを言われるとは思わなかったのだろう。
◇◇◇
そんな感じで中に入ると、暗い室内から煌めく刀が向かって来るのが見えた。
「えっ、きゃあ、嘘っ、ひいいぃぃ、ギャァア!!!」
たぶん赤髭公爵が、刀を見て逃げる私の背中を切りつけたのだろう。
ショックですぐに意識を手放した私は、詳しく覚えてはいなかった。
◇◇◇
「うおーっ、楽しかったぞ!!! 全く金があれば何でも出来るな。
恐怖に戦く顔はいつ見ても良いし、最高じゃ!!!」
エリーゼを切りつけた筋肉ムキムキの赤髭公爵は、断末魔を聞いてご満悦だ。
彼は返り血を浴び、全身が赤く濡れていた。
傍にいた老婆がそんな彼に囁く。
「公爵や。契約は今日で終了だぞ。約束通り魂を頂こう」
「そ、そんな馬鹿な。まだ寿命が来ていないのに。なあ、もう一度契約してくれないか? 再契約してくれよ!」
「馬鹿なことを。お前ごときに誰が従うと言うのだ。
お前は先にご馳走を与えた馬に過ぎない。これからたくさん働いて貰おうか」
公爵は契約前、後30年くらいで寿命が尽きるだろうと思い、期間を30年とした。
今彼は92才だが、あやかしの力を借りたせいで息災で老化が遅滞していたようだ。
「今度は私達の為に働いて貰うよ。あやかしの体では人前に出るのが不便なんだ。
お前には新しい体をやるから、いろいろお使いをして貰わないとな」
30年前の公爵の願いは何でも切れる魔剣で、死ぬまで若い女を切り殺すことだった。
戦争後のトラウマか気質なのかは不明だ。
そして公爵は女を買い続けても爵位を維持できるように、金貨のなる木も出して貰った。
広いリビングで光輝いているのがそれだが、もう彼には必要がないものになった。
「さあ、行くよ」
「うぎゃあああああっ、イタッ、グワッ、苦しい、痛い、ヤメテーーー!!!…………」
苦し気で長い長い断末魔の中で、彼の呼吸は止まった。
魂を生きたまま肉体から離す魔法は、考えられない程の苦痛が伴う。
その後はあやかしが満足するまで、彼を使いっ走りさせることになるのだ。
どうやら、公爵の描いた最期ではなかったようだ。
◇◇◇
そんな中でエリーゼは目を覚ました。
切られて死んでいたと思ったのに。
「あ、あれ? 私、どうしたんだっけ?
あ、痛い、痛い、痛い。
あー、切られたんだったわ。
でも、助かったのね、良かった」
もののけである老婆は一瞬瞠目し、大笑いした。
「あっはっはっ、あんた、なんて暢気なのさ。普通はショックでぶっ倒れるか震えるとこだよ!」
そう言われるも、常日頃からこんな感じだった。
母の死後、義母や義妹が乗り込んで来て家を乗っ取られ、父にも蔑ろにされまくった結果だ。
どうやら母の形見の守り石が、ダメージを薄めてくれたようだ。
「たははっ。痛いけど致命傷ではないみたい」
「いいや、そんなことないはずだよ。あの魔剣は命を吸うのだから。
あら、お前。
傷がみるみる治っているじゃないか?
特異体質かい?」
エリーゼはう~んと考え、「そう言えば、異様に丈夫ではあったわ。義母に腐った食事を出されても、お腹が痛くなったことないもの」と答えた。
「うははっ、もうなんだいそれ。毒耐性でもついたのかい? 怪我もそうなの?」
「そう言えば階段から落とされたり、窓から花の鉢が落ちて頭で割れたり、風呂が熱湯だったり……」
「ああ、もう良いよ。なんて不憫だろうね、この子は。
いろんなことが、重なって強くなったんだろうね。
治癒能力が強くなったのかねぇ?」
楽しそうに首を傾げるあやかしの老婆は、一瞬で腰が真っ直ぐになり身長がぐんと伸びた。
そしてなんと、紅顔の美少年になったのだ。
声も勿論男性で、なんとバリトンボイスだ。
私は黒目黒髪の、その美少年に見惚れてしまっていた。
だって、この世のものとは思えない妖艶さだったから。
「う~ん、こんな面白い人間を殺すのは嫌だな。
でも秘密を守って貰えないと困るしな。
どうしよう?」
なんとあやかしの少年は、もろもろの秘密を知った私の命を生かそうとしてくれているみたいだ。
「あ、あの~。悩まなくて良いですよ。もう十分ですから。
一思いに殺っちゃって下さい。
でも、なるべく痛くないようにお願いします」
そう言うと、また笑っていた。
何かもう、最期に美少年に殺されるなら良いかなと思えた。
隙がなくて、逃げ切れる感じでもなかったし。
その後に、私が他者に秘密を話たら死んでしまう術をかけられて、一先ずは問題解決したのだった。
◇◇◇
その後。
公爵邸でもののけの少年とたまに会話をしたり、食事をする生活が続いた。
「もののけ仲間が作った精巧な人形なんかを、あの公爵に売りに行かせているんだけど、やっぱり(公爵が)美形の入れ物に入ったからか売れ行きが違うんだよね。
紙で作った体だから濡れると破れるけど、丈夫にすると逃げちゃうからさ。あははっ」
もののけも人間社会の物を手に入れる時に金貨が必要になるから、手持ちのものを時々売りに出すようで。
金貨はなくても別に困らないけど、自分の作ったものが喜ばれるのが嬉しくて売りたい者もいるそう。
彼らからすると、お店屋さんごっこみたいなものらしい。
必要になれば、疲れる程度で金貨の錬成は出来るそうだし。
楽しそうなもののけの少年に、エリーゼは言う。
「もし良ければ、私も人形とかを売りましょうか?
だいぶんお世話になってますし」
「ええっ、良いの? すごく助かるよ」
「勿論ですよ。任せて下さい!」
もののけの少年からは公爵の住居を貰ったり、金貨のなる木から生活資金をたくさん貰った。
そしてあれからも、赤髭公爵宛に娘を妻にしたいと打診が結構来ている。
そんな時はもののけの少年が老婆に変身し、娘を貰い受けて来る。
そして今回来た娘さんのハルーナに、エリーゼが教育を施して領地の経営を手伝って貰っていた。
「私、死ぬと思って来ました。それがこんな素敵な生活が出来るなんて、夢のようです」
「それなら良かったですよ。
でも貴女が幸せだと家族に知られたら、いろいろ邪魔する奴らが来て面倒なことになるかも知れません。
なので逃げるなら遠方の方が良いですよ。
この領地にいるなら守れますけど、自由に出歩けないから、お給料を貯めてから考えて見てくださいね」
「ありがとうございます。でも是非ここに置いて下さい。
ここに来なければ、私は人買いに売られていたでしょうから。
せめてお手伝いさせて下さい!」
「……ありがとう。嬉しいな、本当に。
心強いですよ」
孤独な私とハルーナさんは今、本当の家族のように過ごしている。
その後も送り込まれて来た娘さん達がこの領地に住み、その何人かは領地の男性と結婚し幸せに暮らしている。
前の家族とは皆、完全に縁を切っているそうだ。
以前は赤髭公爵が領地経営をしていたが、今ではもののけの少年の下僕なのでやる人がいなくなり、エリーゼが代わりに行っている。
母親の仕事を手伝っていたので、何とか以前の資料を参考にして頑張っていた。
もののけの少年は「さすがにその仕事は面倒くさいからパス」と降参していたので、領地の経営を引き受けたエリーゼ。
「そのまま放置すれば、馴染んだ場所を手放すことになっていたよ」と珍しく感謝された。
エリーゼが喜んだのは言うまでもない。
もののけである少年は変身が得意なようで、公爵に変身して、後継者を遠縁の子である娘に継がせるように手続きを済ませたと言う。
幻術でも使ったのか、すんなり信じて貰えたらしい。
なんとその娘が、私だと聞いた時にはビックリしたけど。
公爵とは1ミリも関係ないからね。
「まあさ。身分があった方がいろいろ俺が助かるから。後は自由にやっちゃってよ!」
基本無表情な彼が、優しい笑顔になるとドキリとする。
ある日。
彼からは名前は教えられないと言われているし、名前に嘘もつけないと言われている。
でも貴方と言われるのが、他人行儀でいやだと言われた。
「でしたら、あだ名でクロさんなんてどうですか? 髪と瞳が黒いので」
「いいね、それ。じゃあ、クロさんで」
「エリーゼも役所に届けた名前にしようか?
その名はミエルローズ(蜂蜜の薔薇)。
ね、美味しそうな良い名前でしょ?」
クロさんは甘いお菓子が大好きだ。
私は時間があると母に習ったお菓子を焼く。
ハルーナさんは微笑んで、仲がよろしくて良いですねとひやかしてくる。
「戦友みたいなものですよ」
「確かに。修羅場は潜ったな、ミエルローズが」
「本当。死ぬかと思いました」
「本当だよ。生きていてくれて良かった」
クロさんが優しく笑うので、それを見たハルーナさんが「ご馳走様です」と、微笑んで紅茶を追加で注いでくれる。
私も微笑んで「私の方がご馳走様ですよ」と言えば、吹き出す二人。
「俺の気持ちは伝わらないみたい」
「そうですね。ストレートに仰ると良いかと」
「? 何なに? 何のこと?」
そんな感じで、のんびりと日々が過ぎていく。
◇◇◇
クロさんに聞けば、亡くなった女性達は魔剣の効果により、一瞬で命を落としていたそうだ。
ただ最初の一撃は切られるので、痛みと恐怖は計り知れない。
それを渡したのはクロさんである。
でも…………。
魔剣がなくても赤髭公爵は、きっと同じようなことをしたと思う。
金と権力があったのだから。
女性達が亡くなった後は、クロさんは遺体を一瞬で焼いて灰にし海に撒いたと言う。
せめて母なる海に抱かれるようにと。
ここに来る女性は家族に恵まれていないようで、みんな寂しい目をしていたそうだから。
私のように、余裕たっぷりな人は初めてだったそう。
丁寧に微笑んで、老婆にお礼を言った人も。
私はただやけくそで、たらふく食べて眠ったので、コンディションは最高だっただけ。
あわよくば逃げる気満々だったし。
きっと諦めないのが、良かったのだろう。
邸の中はよく見ると血飛沫が薄く残っていたから、一生懸命に掃除をした。
思えばそれが、私の最初の仕事だった。
庭の一角にお墓を立て、今は亡くなった人達の冥福を祈っている。
◇◇◇
エリーゼの父ビリーは、ロリータが自分の子ではないと知った。
それは匿名の封筒が届けられて分かった事実。
嘘だと思いたかったが、内緒で鑑定して貰うと、やはり他人だと判明した。
「俺は唯一の娘を、公爵に売ったのか? もうあの二人を信じられない…………」
落胆した彼はアルラウネと離婚し、ロリータと共に追い出した。
ロリータが他人の子だと知っていたのに、再婚し我が物顔でエリーゼを虐めていたことが、今更ながら許せなくなった。
血が繋がっていないと思えば、ロリータの意地悪なところに目を瞑ることももう出来ない。
マイケルはロリータの我が儘さに嫌気がさし、体の関係を持った後で生家の男爵家へ逃げ帰った。
ロリータがビリーの子ではないと知って、伯爵家に慰謝料は支払わなかったそう。
ちなみにビリーも、アルラウネ達に慰謝料を払っていないが。
そんなマイケルは男爵家の後継を下ろされ、弟が継ぐことになった。
両親に訴えれば当たり前だと詰られた。
彼は今後弟の補佐となり、出来ないようなら農夫にすることが決まった。
「そんなぁ、嫌だよ」と訴えても、男爵夫妻が可愛がっていたエリーゼを捨てて、更にその妹まで捨てる彼には、当主は無理だと誰もが納得した。
その後ビリーは王宮の仕事を辞め、家に引きこもった。
「あぁぁ、俺はなんて酷いことをしたんだろう。
唯一の肉親を売り払った」
思えばその金は、アルラウネとロリータを着飾ることに使われた。
頼りの前妻は死に、娘も自分が殺したようなものだ。
今更ながら芽生えた罪悪感に堪えきれず、ビリーは寝ついたらしい。
既に身寄りのないアルラウネとロリータの行方は分からない。
けれど彼女達は強かに生きているだろう。
そんな噂を聞いても、エリーゼはもう父のことなど何とも思わなかった。
家を出る時に頭から消し去っていたから。
きっとそれが、父への一番の罰になるだろう。
社交界では、赤髭公爵の後継が女公爵になったと話題になったが、みなエリーゼだと思うこともなく平穏だった。
普段は庭仕事で汚れても良い服を着て、掃除も熟すエリーゼは、着飾ると別人のように美しかったから、 きっと父すら気づかないだろう。
エリーゼは今、信頼する者に囲まれて幸せだ。
◇◇◇
「旦那様、少し休ませて下さいよ~」
「使い魔が疲れる訳ないでしょ。
後1000年は働いて貰わないと、元が取れないからね」
「ええっ、そんな~」
みんなが天寿を迎えて転生しても、赤髭公爵だけは丁稚をしているらしい。
報いはあるようです。
終わり
1/7 20時 日間童話 (完結済)1位。日間童話 (すべて)4位でした。ありがとうございます(*^^*)
1/8 10時 日間童話 (完結済)1位。日間童話 (すべて)3位でした。ありがとうございます(*^^*)