未来実現カレンダー【なろうラジオ大賞6】
「樹くん、君、来週からこなくていいから」
上司にそう告げられたのが三時間前。
リストラ、というやつだ。
この時代、特別珍しいものではないが、いざ自分の身に降りかかってくると耐え難いものがある。
大衆居酒屋で一人飲んだくれた帰り道、ふと高架下で足を止めた。
『占い』という手書きの看板と、小さな机越しにこちらを見つめてくる老婆。
普段なら気にも留めない風景だったが、この日は酒の勢いと自暴自棄から、つい対面に座ってしまった。
老婆は占いをせず、一冊のカレンダーを差し出してきた。
そして、書いたことが叶うカレンダーだと付け足す。
「貴方、とても辛いんじゃないかい? 今なら百円で譲るよ」
老婆は顔中の皺を寄せて笑う。
──アホくさ。
そう思いながらも買ってしまったのは、ここに座ってしまったのと同じ理由だ。
帰宅し、冗談半分で明日の日付に『リストラが取り消される』と書き込んだ。
しかしそう書いた途端、自分の行動が馬鹿馬鹿しくなった。
こんなことで何かが変わるはずもない。
絶望を抱えて、眠りについた。
翌日、なんと上司が頭を下げてきた。
「樹くん、ごめん。やっぱり残ってほしい」
その言葉に歓喜した。
そして、カレンダーの存在を思い出す。
──本物、なのか……?
いつしか、カレンダーは樹の日常を支配し始めていた。
『百万馬券が的中する』
『可愛い彼女ができる』
『仕事で成功する』
書いた願いは次々に叶っていった。
何もかもが思い通りになる世界。
これを神と言わずして、なんと言おう。
──そうだな、神らしいことでも書いてみるか。
樹は明日の日付に揚々と書き込んでいく。
『不老不死になる』
そしてその願いも、当然のように叶った。
だがそれが間違いだったと気づくのに、そう年月はかからなかった。
周囲の人は老いていかない自分を不気味がり、避けていった。
彼らと同じ時間を歩むこともできず、皆、満足そうに自分の人生から去っていく。
孤独感と後悔で何度も自死した。
だが、不死の身体には効果がなく、痛みが残っただけだった。
高架下にも何度も足を運んだが、あの日以来、老婆を見たことは一度だってない。
『人生が終わる』
『誰かに殺される』
『死ねる』
気がつけば、カレンダーは「死にたい」という願いで真っ黒になっていた。
何日分とカレンダーに書き続けても、一度叶えてしまった運命は変えられない。
この日も樹はカレンダーを見つめ、願いを書き続ける。
それが叶うことのない願いだと知りながら。
お読みいただきありがとうございました
タイトルは某猫型ロボットの道具をイメージして付けました
他に投稿している【なろうラジオ大賞】も全部ビターエンドです
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