不良のテクニック
翌日、月曜日………。
その日の昼休みのこと。
今日は如月が風邪で休みも昼飯を俺一人でいつもの教室で食べている………はずだった。
「このお弁当は君が作ったのかい?」
何故か目の前には重箱を広げて如何にも金持ちです、と主張せんばかりの弁当を食べる長月先輩がいる。
「あ、はい。一人暮らしなんで料理も上手くなりました」
「ご両親はどうしたんだい?」
「親は海外で働いてます。でも今は比較的に閑散期なんでラスで資産でも増やしてるんじゃないですかね」
「それは………寂しいね」
申し訳なさそうな顔を覗かせる長月先輩。
慌てて俺もフォローを入れる。
「べ、別に嫌とは思ってませんよ!?海外で働いてるとかすごいことですし!」
俺が中学に上がって一人暮らしできるのを待ってから海外に働きに出たし、生活に不便もそこまで起こらなかった。
だが、そこからはネグレクトされてるも同然だからムカつくし、ウチの口座の金もあまり手は付けていない。
「………それはそうと、先輩のその弁当こそなんなんですか?一人じゃ食べきれないでしょそれ」
俺は並んでいる先輩の弁当を眺めて話題を変える。
「あぁ。でもシェフ達が私の健康を考えて毎日早起きして作ってくれているんだ。残すのは失礼だからね。無理してでも食べるさ」
………いや、普通にシェフの人に言えば少なくしてくれるのでは?
「大変そうですね、資産家のご令嬢って言うのも………」
「君ほどでもないさ」
長月先輩が推定伊勢海老を食べながら返してくる。
俺なんて冷凍をチンして詰めてるだけなのに………。
お互いに雑談しながらも昼休憩の終わりへと近づいていく。
既にもう教室に戻ろうかと言う時間になって立ち上がったその時だった。
「天野零はいるかぁ!」
「いるかぁ!」
急に誰かが教室に入ってきてそう叫んだ。
リーゼントを引き下げた大柄な少年だ。
あれ?………何処かであったような。
「天野零は自分ですけど………何か?」
「あん?テメェは………」
大柄な少年が俺をジロジロと見た後に何かに気付いたように胸ぐらを掴んでくる。
「な、何するんですか!?」
「テメェは初対面で俺の髪型バカにしやがった奴じゃねーか。なるほど、確かにお前なら納得だな」
「とりあえず手は放したらどうだい?これじゃあただの暴力だ」
長月先輩の言葉に少年は俺の胸ぐらから手を放して俺から距離を取る。
「ケホケホ………。なんなんですかいきなり………」
精一杯呼吸しながら俺は少年を見る。
「彼の名前は平坂黄泉。私と同じ二年生で見ての通り不良だ。根はいい男だから安心してくれ」
「胸ぐら掴まれましたけど?不良なんですよね?」
それ以上先輩はニコニコしたまま何も言わずに平坂先輩を見る。
「ところでどうして彼を探していたんだい?」
あ、反論できないから話題逸らしたな………。
「そうだお前!因幡の野郎に喧嘩売ったんだってな!」
……………………………………………は?
何を言ってるんだろうか、この人は?因幡?誰それ?
先輩が言ってるのは昨日師走さんに絡んでいた奴を追い払ったことだろう。
だけど俺が追い払ったのは別の人物だったはずだ。
「あの………誰ですかその人?」
俺の質問に平坂先輩にポカンと惚けた顔をしてすぐさま笑顔に変わる。
「何言ってんだよお前よぉ。この街で因幡っつったら因幡出雲以外いねーだろ?」
「因幡………出雲?」
「おいおい、マジに知らねーのか?どんだけ呑気に生きてきたんだお前はよぉ………」
「………?」
呆れ顔を見せる平坂先輩。
一方で長月先輩は笑顔を見せて平坂先輩の肩を叩く。
「諦めろ。彼はそう言う人間だ。バカなんだよ」
「先輩、フォローになってません」
「してないからね。フォローなんて」
笑顔のまま言われるとちょっと来るものがある。
「………まぁいい。本人に自覚があろうがなかろうが因幡の方はそうとは思ってねぇ。テメーの唾つけてた女横から掠め取られてご立腹よ。いつ暴れ出してもおかしくないって俺ら不良の間じゃ専らの噂だ」
だからよ………、と平坂先輩が俺の肩を掴む。
「お前、こっち側に巻き込まれたくなけりゃあもうちょっと自重したらどうだ?」
それだけ言うと平坂先輩はスタスタと足早に教室を出て行ってしまった。
教室に取り残された俺と長月先輩の間に緊張の糸が走る。
しかし、長月先輩が口を開いて教室内の静寂を打ち破った。
「………さて、聞きたいことは山ほどあるがもう授業前だ。とりあえず教室に戻ろうか。話しは放課後にでも………」
「あ、すいません。俺放課後は如月の看病にいく予定があって………」
「風邪かい?」
「えぇ、まぁ………」
ふむ………、と考える素振りを見せてから長月先輩がふの俺の顔を覗く。
「私もついていってもいいかい?学年一のイケメンがどんな男なのか見てみたい」
俺は先輩の申し出に頭を縦に振って承諾した。
別に断ることでもなかったし、一番の親友にお世話になっている先輩を会わせたかった。
………まぁ、如月は風邪だから自己紹介とかはまた後日にはなるだろうけど。
こうして俺と先輩はそれぞれの教室へと授業を受けに帰ったのだった。
そしてとうとう放課後が訪れた。
「すまない。待たせたかな?掃除当番が重なってしまってね」
校門で待っていた俺に長月先輩が声を掛けてくる。
「いえ、自分も今来たところです」
「デートならではの定番のセリフだね」
「別にデートじゃないですけどね」
これ以上誤解されるようなことを言われれば俺は先輩のファンに消されかねない。
現に今も結構睨まれている。
「如月君の家まではどれくらいで着くんだい?」
「そうですね………。大体十分弱くらいですかね」
「結構近いね」
俺と先輩は雑談をしながら歩き出す。
学校での生活のことや休日何をしているかなど、俺についてのことだ。
と、言っても答えられることと言えば誰かが何かをしていたとか家では基本ゲームやテレビを見ているとかしかない。
逆に先輩にも聞き返してみるがこっちは上手くはぐらかされてしまう。
そんなことをしばらく続けていると一件の家が目に入る。
ここら辺では珍しい瓦屋根の家だ。
「着きましたよ」
「ここかい?」
瓦屋根の玄関に足を踏み入れて、俺は入り口に設置されているインターホンを指で押す。
ピンポーンと音が鳴って数秒が経過してインターホンから年老いた女性の声が聞こえてきた。
『どなた?』
「天野です。如月君のお見舞いに来ました」
俺の返事に家の中からではなく、縁側に続く道から足音がドタドタと近づいてくる。
「キィィィィィエェェェェェ!!!」
現れたのは薙刀を携えたハゲの老人、如月の祖父の如月梅児だった。
「ワシのカワイイカワイイ孫にちょっかい出そうとする愚かな馬の骨はまた貴様かぁぁぁぁぁぁ!!!」
「危ねぇぇぇぇぇぇ!!!」
薙刀が振り下ろされる直前で俺は何とか身を捻ってかわす。
「チッ、上手く避けたのぉ………」
「な、何するんですか!?」
「喧しい!ここで会ったが百年目!今すぐその首叩き斬ったやるから覚悟せい!」
再び梅児さんが俺に向けて薙刀の刃を向ける。
普通に犯罪だし怖いしやめてほしい。
「梅児さん………?」
玄関から出てきた老人が梅児さんの名前を呼ぶと梅児さんの動きが止まる。
「つ、椿………。誤解じゃ!」
「ムツちゃんのお友達に刃物を突き立てて何が誤解ですか!ウチの人がごめんなさいね。さ、上がっていってね」
笑顔で梅児さんを引き摺りながら屋内へと戻っていく彼女の名前は如月椿。如月の祖母だ。
「………じゃあ、上がりましょうか」
「今のを見て!?」
慣れている俺はともかくとして、初めての長月先輩は目を丸くして唖然とするのだった。
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