道草のテクニック
「やっぱ初代が最強なんだって!」
「でもやっぱりこっちの方がーーー」
映画を見終わって出口に向かう間、俺たちは◯リキュア最強論争に花を咲かせていた。
結果から言えば映画は最高だったし、ピンチの時の応援だってノリノリでした。
「お?」
そんな話をしながらゲートを抜ければ、見えて来たのは大きな写真立てに飾られた写真の数々。
「………そう言えばこんなのあったっけ」
「師走さんどうする?」
「アタシいらない。………アンタこそ、ずっとお金ないって言ってる癖にこれ買うわけ?一枚500円だけど………」
俺は作り笑いを浮かべる師走さんの写真を見ながらどうしようかと考える。
師走さんとの思い出に一枚買っとくのもありか………?
いや、でもマジで小遣いギリギリだしな………。
「………二枚ください」
「かしこまりました」
結果俺は写真を二枚買うことに決めた。
「何で二枚?」
「保存用と観賞用」
「キモ………」
師走さん渾身のキモに心に深傷を負いそうになるが何とか耐える。
気分は最早満身創痍だ。
写真を受け取って俺たちは再び歩き出す。
「じゃ、アタシ帰るから」
「あぁ。付き合ってくれてありがとう。また明日学校で」
「………………」
師走さんは返事をせずにそそくさとその場を去ってしまう。
ちょっとは仲良くなれたと思ったんだけどなぁ………。
「………………帰ろ」
こうして俺は家へと帰宅するのだった。
そして、それは突然起こる。
「金は使わんぞ………。例えどんな誘惑があろうとも………!」
商店街のゲームセンターに精肉店のコロッケの匂い、駄菓子屋の団子の匂い、様々な誘惑が俺に襲いかかってくる。
だが現在進行形で金欠の俺にはどれも高級品だ。
「でもちょっとだけなら………。いやいや!後一週間我慢すればまた小遣いが入るんだ。今は我慢の時………」
ブツブツと自分の欲求に立ち向かいながら俺は足早に商店街を抜けようと足を動かす。
「おや?天野君?」
不意に名前を呼ばれて俺が振り向くとそこにあったのは商店街の駄菓子屋だった。
そこの何処から声がかかったのかとよく見てみれば何人かが長椅子で団子とお茶を嗜む中によく知る先輩の姿が見える。
「長月先輩じゃないですか。ここで何を?」
「見ての通り団子とお茶をいただいている。ここお団子は絶品だからね。君もどうだい?」
「いや、今金ないんで遠慮しておきます」
「心配にはいらない。私の奢りだ」
「あ、じゃあいただきます」
「人の金になると君は途端に遠慮がなくなるね………」
呆れたように長月先輩は店を営むお婆さんに団子とお茶を注文して空いた横の席を叩いて俺に座るように促す。
先輩に促されるまま、俺は先輩の隣に座り店員のお婆さんが持って来てくれた団子を食べる。
「今日は何をしてたんだい?」
「映画見に行ってました」
「映画?確か昨日見に行ったんじゃ」
「あ、はい。昨日も見に行きましたね」
どう言うことだと言いたげな表情を向けられて俺はお茶を啜って一息つける。
「今日は師走さんと行って来たんです」
「師走?………あぁ。君を脅している娘か」
「や、合ってますけど言い方………」
「そんな彼女と映画館デートを?」
「デートじゃないですよ」
俺は長月先輩に師走さんと映画館に行くことになった経緯を説明した。
が………。
「聞けば聞くほど彼女は店員として当たり前のことをしている気がするが本当にお礼の必要はあったのかい?」
まぁ、至極当然の反応をしてくれた。
「タイムイズマネーですからね。別の本屋に行く時間が削減できた礼はしたかったんですよ」
「まぁ、そう言うことにしておこうか」
しかし………、と先輩はお茶を飲み干して続ける。
「君もそろそろ慣れてきたんじゃないかい?」
「へ?」
「如月彌生に師走六季。二人とのデートを重ねてある程度デートに慣れた頃だろ?」
「まぁ、はい。………片方男ですけど」
俺は食べ終わった団子の串を皿に置いてもう一つの団子に手をつけながら答える。
「では次の段階に移ろうか」
「次の段階?」
次の段階とは一体何なのだろうか?
「今君が実践しているのは恋のABCで言うならAにも満たないところだ」
「恋の2-4-11なら何度も見てるんですけどね………」
「………話を続けるよ?」
「あ、はい」
ちょっとふざけすぎたか?
以後気をつけることにしよう。
「次にデートに慣れてきたなら次はキスだ」
「ききき、KISS!?それってあれですか!?愛し合う男女の愛の確認的な、接吻的な、ペーゼ的な!?」
「その通りだが、動揺し過ぎだよ。童貞が丸出しだ」
「ど、童貞ちゃうわ!」
「反応が如何にもだね」
よし、お茶でも飲んで気を落ち着けよう………。
「はぁ………。落ち着く………」
さっきまでの心の乱れが嘘のように引いていく。
「………だが、キスに持ち込む道程も険しいものだ」
「今童貞って言いました?」
「よし、天野君。君は一旦落ち着きを身に付けようか」
「うぅ………はい」
危ないところだった………。
もう少しで三代目になりそうだったぜ。
「落ち着きの無い男はモテないよ。この店の店主を見てみろ」
先輩に言われて俺はカウンターの奥で団子を作るお爺さんに視線を向ける。
険しい顔で団子に向き合って、できればすぐさまカウンターへと持って行く。
鮮やかな手際だ。流石職人と言うべきだろう。
「あれくらい君も落ち着けばきっとモテるよ」
「いや、あの落ち着きは老成されてますよ。俺には後七十年くらい無理です」
団子とお茶を完食して腹を摩る。
すると先輩がところで………、と口を開いた。
「話は変わるんだが君は本命と言うか、付き合いたいって思う娘はいるのかい?」
「マジに唐突に変わりますね」
俺は長月先輩の急な質問に目を丸くして先輩の方に振り向く。
しかし、すぐに俺は商店街を行き来する人々を見ながら思いかえす。
「………居ませんよ」
「その間が怪しいな………。誰にも言わないから言ってみるといい」
「本当に居ないですって。居たらモテモテなんて目指しませんよ」
「そうかな?私は寧ろ好きな相手に意識して欲しいからこそモテモテを目指しているんだと思っていたけどね」
知ったような口をきいてくる先輩に若干イラつきながらも俺は過去のことを思い返す。
だが今となっては過去の話だ。俺がモテモテになりたいのとそれは一ミリたりとも関わりはない。
「………少なくとも、俺はただモテたいだけでそこにそれ以上も以下もありません」
俺の出した結論に先輩も思うところがあるのだろう。
納得はしていなさそうだが、ただただ頷いた。
「君がそう思うならきっとそうなんだろう。分かった。これからも君のモテモテはサポートさせてもらうよ」
「おぉ、マジっすか。あざっす」
軽い口調になってしまったが先輩も気にしていないようだし別にいいだろう。
………にしても、先輩もいきなりなんでこんなこと言い出したんだろう。
「じゃあ、私はそろそろ行くよ。支払いは済ませておいたから安心してくれ」
「団子ご馳走様でした」
ニコッと笑顔を見せて先輩が人混みへと消えていく。
それを見送ってから俺も自宅への帰路へと戻っていくのだった。
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