オタクのテクニック
………何でこうなったんだろうか?
「いやー、まさか師走さんがプリ◯ュア好きだなんて!」
「…………………………………」
ここはショッピングモールの映画館。
目の前で年甲斐も無くはしゃいでいるのはクラスメイトであり今のところアタシが一番嫌いな人間。
そんな彼は今アタシと一緒に映画を見に来ている。
………本当に、何でこうなったんだろうか?
ことの始まりは昨日のことだった。
映画に誘われて断ったところからだ。
皆が納得して解散しかけたところに一緒になって煽っていた店長の「一度でいいから彼に付き合ってあげなさい」と言うセリフに客がまた再燃。
結局は流される形で彼と映画を見ることになった。
「流石に一人だと恥ずかしかったからさ」
「言っとくけど、見終わったらすぐに解散だから」
「分かってるよ………」
天野は苦笑いを浮かべながら列へと並ぶ。
「はぁ………。学校の誰かに見られなきゃいいけど………」
昔からそうだった。
アニメなんて言うのはずっと毛嫌いされていたし、アニメや漫画を好む人間もまた毛嫌いされて、その人間と仲のいい人間もまた毛嫌いされる。
だからアタシは雪姫アイスのファンだと言うことも、アニメも漫画も好きだけど隠す。
「お待たせ。………?どうしたんだ?」
「………何でもない。次は食べ物でしょ。買って来て」
「あの………一つ良いかな?」
「………何?」
「いや、実はもうマジにお財布の中身が………」
何が言いたいのか何となく分かった。
でもアタシはそれを無視する。
「あの………」
「ヤダ」
「いや、まだ何も………」
「カップル割なんてやらせないから」
ここの映画館は飲食物にはカップル割が適用される。
男女で購入すれば十パーセント割引される。
だけどもアタシは方便だとしてもコイツとカップルです、何て言いたくない。
「ほら、早く!食べ物買って来て!皆が行けって言うから来てるだけなんだから!」
「なんちゅうワガママ娘だ………。はいはい、買って来ますよ」
天野は不満そうな顔をして買いに行ったけど、元はと言えばコイツがアタシを映画に誘ったからこうなったんだ。
ワガママ娘なんて言われる筋合いは何処にもない。
「あんれぇ?六季ちゃんじゃ〜ん」
その間、暇なアタシはSNSでアイスの呟きを見ながら待っていると、不意にチャラそうな声がアタシに声をかけて来た。
振り返ってみたらそこに居たのはアタシよりも一回りも二回りも身体が大きな男とソイツに付き従う何人もの男達だった。
アタシはその男を知っている。
「………因幡」
因幡出雲。
この街に於いて今最も幅を利かせている半グレ集団のリーダー代入りを務めている男だ。
「俺の女になる気になったか?」
会うたびにこんな事を言ってくるウザい男。
「だから、そんな気なんて無いって言ってるじゃん………」
「不自由はさせねぇよ。いいから俺の女になれって」
因幡が鼻息を荒立てながら近づいて来て、アタシの腕を無理矢理掴んでくる。
「い、イヤッ!」
「イヤってのは傷付くな〜。幾ら俺が優しかったって我慢の限界ってのはあるんだぜぇ?」
下卑た笑みを浮かべながらアタシを何処かへと連れていこうと腕を引っ張ってくる。
「気持ちよくしてやるからヨォ!」
「や、ヤダ!誰か………、助けッ………」
言葉で助けを求めてみるが、期待なんてしていない。
皆見て見ぬふりをするだけだ。
因幡はこの街でも知らない人がいないくらいに悪い意味で有名で、そんな彼に喧嘩を売るような真似をする人なんている訳がない。
それでこそ、本当のバカじゃないと助けてはくれないだろう。
だからこそ………。
「おい」
アタシは失念していた………。
「あん?」
今、アタシが一緒にいる男は………。
「俺のツレにちょっかいかけないでほしいっスね」
嬉しいことがあれば、店にいる赤の他人に奢りまくるような、生粋のバカだったことに。
「天野………!」
「何だ、このチビ?」
アタシの腕を放して因幡は天野を睨みつける。
負けじと天野も因幡を睨み返すが、やはりアタシよりも少し小さい彼に勝ち目があるなんて思えない。
「ねぇ、六季ちゃ〜ん。このチビ、六季ちゃんの何?」
「………………………」
アタシは答えない。
助けてくれようとしてくれるのは正直嬉しい。けれど、そのせいで怪我なんてされても迷惑なだけだ。
「俺は師走さんの友達です!」
「違う!」
「違うの!?」
驚いたように天野が口を開く。
大分大声で騒いでいたからか周りから注目の的になってしまっている。
「………まぁ、何かしら?喧嘩?」
「警備員さんに知らせた方がいいんじゃ………」
「ママ〜。あれ何〜?」
「シッ。見ちゃいけません」
「出雲さん。流石にまずいですって………」
慌てて出した取り巻きの一人が因幡に駆け寄る。
因幡も流石にまずいと思ったのか、舌打ちをして、最大限に天野を睨みつけるとそのまま取り巻き達とその場を去っていった。
「………こ、怖かった〜」
天野が膝から崩れ落ちて床に尻餅を付く。
「アンタ、バカなんじゃないの?」
「へ?」
「アイツが誰だか知らないわけじゃないでしょ!?」
「そりゃ知ってるけどさぁ………」
「知ってるなら、なんで………」
何でアタシなんか助けたの………。
そんな質問を投げかけようとして、アタシは辞めた。
きっとこのバカに打算などは無いんだろう。
出会ってからの期間は短いけど、それでも彼がこんな事をしでかしそうなのは想像できなくは無い。
「………ポップコーンは?」
「へ?」
「だから!ポップコーンは買って来たの?」
「あ、いや、注文する前に飛んで来たからまだ………」
バツが悪そうに天野が頭を掻く。
「………行くわよ」
「え?」
「カップル割。使いたいんでしょ?」
「いいの?」
「助けてくれたお礼だから………。アタシも、映画見たかったし………」
このくらいのご褒美なら、あげてもいいよ、ね………?
再びアタシ達は列へと並び、順番が来るのを待つ。
さっきの騒ぎは何処へやら、もう営業が再開されて列もスムーズに前へ進んでいく。
「いらっしゃいませ」
ようやく順番が回って来てアタシ達は前へと出る。
「えっと………師走さんはどのポップコーンがいい?」
「………キャラメル」
「じゃあポップコーンペアセット一つ」
「カップル割はご利用になりますか?」
「あ、はい」
「飲み物はいかがなさいますか?」
「カルピスと………」
「アタシもカルピスで」
「かしこまりました。カップルの方はあちらで写真撮影を行っております。ぜひご利用ください」
店員に案内されるままアタシ達はハート型の看板の前へと立つ。
「はーい。撮りますよ!二人でハート作ってください!」
ハート………。
いや、落ち着けアタシ。これはカップル割の、天野への礼の為!
ふと天野の方を見てみれば何ということもなく、手で片方のハートを作って準備している。
何で準備万端?なんでしれっとしてんの?
普通恥ずかしがらない!?
「ほら、彼女さんも作ってください」
ここまで来たなら仕方がない。
アタシもゆっくりと手でハートを半分作って天野のハートに合わせる。
「撮りますよ!はい、チーズ」
パシャリと一回、シャッター音が鳴ったのが聞こえてアタシは天野から離れる。
「現像にしばらく掛かりますのでお帰りの際にご確認下さい」
スタッフからポップコーンとジュースを受け取って、アタシ達はゲートへと向かった。
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