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告白のテクニック

 ようやく映画館へと入り、俺たちは指定された席へと辿り着く。


「楽しみだね」


 席に座った如月が俺に笑いかけながら話しかけてくる。


「おう」


 しばらくして辺りが暗くなり、カメラ男とサイレン男ねパントマイムショーが始まった。


 またしばらくしてようやく映画が始まる。


 内容は最近人気な分、結構面白いと思う。

 

 舞台はとある高校で主人公はそこに通う冴えない男子学生。

 主人公の男子の方は学校では存在すらあやふやなヒエラルキーでもぶっちぎりの最底辺。


 ヒロインの女子の方は学校でも一番の人気者の美少女。


 交わることも無さそうな二人だが、あることがキッカケで縁ができることになる。

 

 そこから何度ものデートを繰り返し、喧嘩をして仲直りをして、終盤には不良に絡まれたヒロインを助ける為に主人公が立ち向かう。


 不良にボコボコにされながら、地面に顔面を擦り付けながら、立ち向かうところは正直にすごく胸が熱くなった。


「………面白かったね」


 エンドロールも終わり劇場も明るくなると、如月が俺に話しかけてくる。


「そうだな。たまにはドラマ映画もいいかもな」

「零が楽しんでくれてよかったよ」


「特筆するものも無い主人公が大切なものの為なら悪に立ち向かえるってのはこう………グッと来るものあるよな!」


 だから俺は◯NE PIECEの監獄の副所長と海軍の無法者達、とある国に実況者が好きだし、◯ョ◯ョの奇妙な冒険なら自称ミケランジェロの彫刻以上にカッコよくて美しい容姿を持つナルシストが好きだ。


「零って本当にそう言うキャラ好きだよね」

「あぁ。何か黄金の精神滲み出てるじゃん」

「よくわかんないけど………」


 ………やっぱり分かんないか。


 俺はゴミをゴミ箱に捨てて、ゲートを出てから身体を伸ばし、次に何処へ行こうかと考える。


「如月、次どこ行きたい?」

「ん?ボクはどこでもいいよ。零と一緒なら」

「またお前はそう言うことを………」


 たまに如月はそう言うことを言い出す。

 おかげでクラスの腐女子にカップリングされてしまっているのだ。


 当然、嫌ではあるがそれを俺からやめてくれと言うのも何だか意識しているようで嫌なので今の今まで言えてはいない。


「んじゃ、本屋に行っていいか?ラノベの新刊出てんだよ」

「それはいいけど………お金あるの?」

「それは大丈夫だ。ちゃんと計算して先に取ってるから」


 俺は笑いながら答える。


 俺の小遣いは月に五千円で基本その中でしか私的な物を買うことはない。

 

 新刊が発売されない月は特に私的な買い物もすることが無く溜まっていく。


 しかし、一度新刊が発売したり推しのグッズが発売されれば虚しくも財布の中身は吹き飛んでしまう。

 それが重なったなら尚更だ。


「………ボクにはよく分からないけど、本当に零はいつも幸せそうだね」

「そうか?」


「うん。こう、悩みなんて無いって言うのかな?君を見ていると自分の悩み事もちっぽけに感じる時があるんだ」

「何か悩んでんのか?」


 俺の質問にハッとしたのか、如月は俯いて答えない。


 ………どうしたんだ、如月のやつ?


「………今のは、忘れて」


 ゆっくりと如月が口を開いとただそう言った。


「?」

「ごめんね。ボクこれから用事があるから………。映画、ありがとう」

「お、おう………」


 如月が踵を返して群衆の中へと消えていく。

 俺はただ、その背中が見えなくなるまで見送るしかなかった。





 如月と微妙な別れ方をした後、俺はショッピングモールの橋にある書店で目当ての本を探していた。


「えーと、会社的にはここで合ってんだよな?既刊はあるし………」


 しかし、俺はそれを見つけられずそのコーナーをウロウロしていて、側から見ればきっと不審者にも見えただろう。


 何せ俺はここの書店は初めてだ。


 いつもなら商店街の方に行くが今日はこっちの方が近かったからここの書店を選んだ。


 選択ミスったか?


 いや、でも早く読みたかったし………。


 そうだ、店員さんに………、聞く勇気もねェ………。


 同じくらいの歳ならいざ知らず、相手は完全な大人だ。とてもじゃないが話きかける勇気はない。


 ………諦めていつもの書店で買お。


 そう思った時だった。


「何かお探しですか?」


 一人の店員が俺に話し掛けてきたのは。


「あぁ、はい。実はそうなんですけど………」


 振り向き様に店員の姿を目視する。


 ……………………………………………。


 ………最近俺はつくづく彼女に縁があるらしい。


 よりにもよって彼女が、俺の同胞であり、俺の弱みを握っている彼女が、師走六季が書店のエプロンを着けて俺の目の前に笑顔を引き下げながらやってくる。


「………ゲ」

「あれ、今ゲって言った!?」


 師走さんも俺に気付いたそうで先ほどの笑顔は何処へやら既に不機嫌そうな顔を浮かべている。


「何でここにいるわけ?」

「………ラノベの新刊買いに来たんだけど見つからないんだよ。今日発売のはずなんだけど」


 怪訝そうにしながら俺が指差した棚を見る。

 するとスタスタと何処かに歩いて行き、戻った時にはその手に一冊の本を持っていた。


「これでしょ?」


 手渡された本の表紙を見ればそれは俺が欲しかったラノベの物だった。


「うお!?あった!なんで!?」

「アンタ、目的以外何も目に付かないタイプでしょ。最新刊は初日だけ店の入り口に設置されるの」

「そうだったのか………」


 確かに入り口なんて見向きもせずに棚の看板を見ていた気がする。


「じゃあ、とっとと会計済ませてとっとと帰って」

「………いや、待って」


「何?」

「師走さんいつ仕事上がる?」

「何でそんなこと聞くのよ。警察に突き出されたい?」


「お、お礼したくて………」


 師走さんが居てくれたおかげで時間を無駄にせずに済んだのだ。

 お礼くらいはしても当然だと思う。


「………そうやって女子に言いよってるわけ?」

「え?」


「アタシ知ってるんだから!アンタが最近長月先輩と放課後ずっと一緒にいるの」

「お、おい」


「そうやってド◯モモタロウよろしく勝手に縁作ってそこから女の子を手籠にしていくつもりでしょ!?」


 ドンモモ◯ロウ!?待て待て待て待て!

 

 今俺を見たな?これでお前とも縁ができた!ってか?喧しいわ!


「いや、そんな事思ってねーよ!第一長月先輩には俺がモテモテになる手伝いをしてもらってるだけで………」


「モテモテ?やっぱりそうじゃん!一人を好きになってその一人を幸せにしようとか思わないわけ!?」


 そろそろ騒ぎがでかくなってきたのか、周りのお客さんが俺たちに集まってくる。


「なになに?修羅場?」


「若いわね〜」


「おう、兄ちゃん!男ならハッキリしてやんな!」


 なんか知らんが周りもヒートアップしてきやがった!

 

 ………ええい!ままよ!


「明日、一緒に映画見に行かない?」


 俺の誘いに周りが歓声を上げる。


「よく言ったぞ兄ちゃん!」


「ほら、店員のお姉さんも答えてあげなって!」


「あんたら、静かに!返事が聞こえないよ!」


 誰かの言葉に周りが一気に静まり返る。


 ………いや、よく見たらあの人店員じゃん!何やってんの!?


 周囲はまさに緊張状態。まるで公開告白をして相手の返事を待っているようだ。


 そんな緊張感を破るかのように師走さんが口を開く。


「いや、アタシ店員だし………。お客様の求める本を差し出すのは当たり前だから………」


『あ〜、確かに』


 周りが一斉に納得した瞬間だった。

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