デートのテクニック
「デートのテクニックを教えて欲しい?」
あれから数日。
如月による地獄の勉強会が終わり、それを祝って俺が如月を誘い映画を見にいく事にしたのだ。
いつもの三階の隅の教室で、いつもの窓の縁に座って恋愛小説を読んでいた長月先輩に俺は相談したのだ。
デートのテクニックを教えてほしい、と。
「はい。やっぱりデートのエスコートの上手さもモテに関係すると思うんですよ!」
「その如月君と言う子はその………男子、何だよね?あ、いや、別に否定するつもりはないんだ。人それぞれだし」
長月先輩が慌てて自身の質問にフォローを入れる。
このような先輩は初めて見た。
「まぁ………そうだね。後は身嗜みも必要だ。君の場合はその癖毛。セットするのは大変そうだけどね」
「ワックスで何とかします!」
「後服も………」
「昔行きたくも無い財界のパーティーに着て行った奴があります!」
「………君はいったい何を相談しに来たんだ?」
長月先輩が眉を顰めてため息を吐く。
本を閉じてじっと俺を見ながら俺の答えを待つ。
「いや、今までデートとかした事なかったから………。この際だしどう言うデートが理想なのか聞いとこうと思って………」
「あぁ………なるほど」
長月先輩が窓の淵から降りて、黒板のチョークを手に取り、文字を書き始める。
「確かに、デートには遊園地やテーマパーク、動物園、水族館、映画館など特別感のあるレジャー施設がオススメだ。相手が女子なのだとしたら今回の君の采配は無難だと言えるだろう。君にしてはよく思いついたな」
「あれ、今さらっと貶された?」
俺の疑問を無視して長月先輩は話を続ける。
「………一つだけ確認したいんだが、もしデートに行くなら映画は何を見るつもりなんだい?」
「え?そうですね………。仮面ラ◯ダーか、プリ◯ュアか、まぁ、そこら辺です」
「それは、君が決めて?」
「あ、はい」
再び先輩がため息を吐いてチョークを置く。
「いいかい?別にそれを見るのを辞めろと言うつもりはないが、少なくとも相手が何を見たいかは聞いたほうが良い」
「………!確かに………」
「君は少し相手の気持ちを考える努力をするんだ」
「はい………」
相手の気持ちを考える………。
俺は先輩の注意を頭に反復させる。
「デート中は常に相手に気を遣え。でなければ付き合えたとしてもフラれるぞ」
「はい!」
「後、約束よりも前にはちゃんと行くように」
「はい!ありがとうございました!」
俺は一度先輩に頭を下げて教室を後にする。
既に時刻は夕方五時。
時間もそこそこなので俺はそのまま帰路に着く事にしたのだった。
◇
休日の始まり、土曜日。
今日はボクの親友である天野零と映画館に行く日だ。
駅前のよく分からない鎧を着た少年の像、通称奈浪主人公像の前でボクは彼の到着を待つ。
………楽しみすぎて約束の二時間前に着いちゃった。
ボクはいつもこうだ。
零が約束の時間ギリギリにしか来ないと分かっていても何を期待しているのか、いつも二時間前には来てしまう。
「………暇だなぁ」
「そんなに暇ならどっかで時間潰すか?」
「そうだね、そうしようか。………?」
ボクの呟きに聞き慣れた声が反応して、ボクも自然と返事をしてしまう。
でも、やっぱり何かおかしいと声が聞こえた隣を見てみることにする。
「うわぁ!?」
ボクは驚いて尻餅をつく。
しかし、ボクの視線は声の主に釘付けだった。
「大丈夫か、如月?」
「れ、零………?」
そこには心配そうにボクに手を差し伸べる零がいた。
………零がいた!?
あの時間にはほとんどギリギリでしか来ない零が!?
二時間も前の今の時間帯に!?
「なんだお前。零さんがいたらそんなびっくりか?」
「びっくりだよ!どうしちゃったの!?風邪でも引いた?病院行く?」
「行かねーよ。オメェは俺を何だと思ってんだ………」
いつもの調子、いつもの会話。
そんな最中にふと、何かを思い出したかのように頭を掻きながらボクを起き上がらせた零が気恥ずかしそうにボクを見る。
「その、なんだ。その服、似合ってるぞ。うん」
「もー、ボク男なんだからそんなの気にしなくていいんだよ?」
きっと気を遣って言ってくれたのだろう。
でも、そう言うのは彼女に言ってあげるべきなんだとボクは思う。
「じゃあ行くか」
「もう?映画までまだ時間があるんじゃ………」
「別に見るやつ決めてるわけじゃ無いしな」
そうは言っても彼が見る映画が決まってアニメーション映画だ。
だから今日もおそらくアニメーション映画なんだと思う。
「見たいやつ如月が選んでも良いぞ」
「え!?」
やっぱり今日の零は変だ。
いつもならボクの意見を取り入れようともしないのに………。
「なんか変な物でも食べたんじゃ………」
「あ?今日の朝はバタートースト一枚しか食ってねーぞ?」
「じゃあ何で今日はボクの見たい映画だったり待ち合わせ場所に早く来るなんて奇跡を起こしてるのさ?」
面倒くさそうに零が目を泳がせる。
ボクに言えない事なんだろうか?
「言いたく無いなら別に言わなくても………」
「いや、言う。ずっとやってたら失礼だし」
ゆっくりと零が口を開き語り出す。
曰く、零は女の子とデートする時の予行演習をボクでしていたのだと言う。
女の子相手にするのは引かれそうで嫌だったらしく男のボクで試したらしい。
それを聞いてボクは呆れてものも言えなかった。
「あのね、そう言うことは先に言って欲しかったかな」
「だよな………。すまん」
「………これからは隠し事はしないこと。後、長月先輩に入知恵されてもボクにはしないこと。ボクが一緒にいたいのはいつもの零なんだから」
「………分かった。もうしない」
「うん!それじゃあ、映画を見に行こうか」
「おう!」
ボクの言葉にいつもの調子に戻ったのか零が機嫌良くスキップをして進み出す。
目的地は駅と併設された大型ショッピングモールの中にある映画館だ。
「で、結局何見るんだ?」
ショッピングモールを道なりに進んで映画館のチケット売り場にたどり着いた所で零がスキップをやめて聞いてくる。
「本当に選んでいいの?」
「まぁ、一度言っちまった事だし………。元々如月へのお礼も兼ねてるし」
「じゃあボク最近始まったロマンス映画がいい!」
「あぁ、あの最近流行りの?」
「零にとったら興味ないかもしれないけど………」
「いや。モテモテになる仕草ってのを学べるかもしれない。それにしよう」
零がチケット売り場の列に並びんで、ショルダーバッグから財布を取り出す。
………ボクもポップコーンと飲み物買ってこよ。
結構長そうな列だったのでボクもすぐに動けるように飲食店の列に並ぶ。
「いらっしゃいませ」
「ポップコーンペアセット一つ」
「ソフトドリンクはいかがなさいますか?」
「カルピスとメロンソーダで」
「畏まりました」
店員さんが奥にポップコーンと飲み物を用意しに行ったのを確認して零の方を見る。
今は列の中盤ほどでスマホを見てニヤついている。
「お待たせしました。ポップコーンペアセットです」
ポップコーンと飲み物を受け取ってボクは零が来るのを待つ。
それから数分後………。
「悪ィ。待たせた」
チケットを買った零がボクの前に現れる。
「ううん。食べ物と飲み物は買っておいたよ」
「マジか。いくらだった?」
「お金は別にいいよ。ボクの奢り。お小遣い少ないんでしょ?」
「おお………。ありがとう」
零はボクの持っていた食べ物と飲み物が乗ったお盆を受け取る。
そう言う気の利くところが長所だ。
本当に、世の女子たちは見る目がないと、そう思う。
こうしてボク達は映画館の中へと入っていった。
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