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雑談のテクニック

「へー、長月先輩と一緒に居たんだ」

「なんで不貞腐れる?」


 次の日、朝の休み時間に俺の席を挟んで如月との雑談を楽しんでいた。


 いつもの日課だ。昨日別れてから何があったかを次の朝に話す。

 如月が中学生になった辺りから提案したことだ。

 特に俺に不都合もないので今でも続けている。


「だって長月先輩って言ったらこの学校じゃあ有名だよ?長月財閥の長女で頭脳明晰、スポーツ万能。クールビューティーの高嶺の花で今まで告白した先輩達は皆涙を流してる。それでついた渾名は秋時雨」


「………そんなクールビューティーって感じじゃ無かったけどな。気さくな人だったし。そりゃ、綺麗だったけどさ」


「だからボクはまだ半信半疑なんだ!ボクの知ってる長月先輩と君の言う長月先輩が別人すぎるから!」


 机をバンッと叩く音にクラスの全員がこっちに視線を送る。


 やめてくれ………。視線が………、視線が痛い………。

 あ、師走さんもこっち見てる。あ!あんにゃろ外方向きやがった!


「とにかく、そんな正体不明の人と一緒に居たらダメ!」

「オメェは俺の母ちゃんですか?」


 ごく偶にだが如月は俺を束縛しようとすることがある。

 男の、しかもイケメンに束縛されても何ら嬉しくないがもはやこれにも慣れてしまった。


「………ところで零はもう今日の数学の課題やった?」


 急な話題転換。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。


「おう」

「見せて」

「いいぞ。存分に見ろ」


 俺は鞄から課題を取り出して如月に見せる。

 だが課題を見た如月の顔がドンドン強張っていく。


 ………あれ、なんで?課題写せて嬉しいんしゃないの?


「これ、凄く難しい問題もあったのに良く解けたね」

「ん?あぁ、解説見ながらやったからな」


 だって難しいんだもん。何だよこの五次方程式。高一にこんな問題やらすなよ。


「………零」

「ん?」


「今日は放課後、一緒に勉強だからね」

「あ、はい」


 この声色はガチギレしている時の如月だ。素直に従っておこう………。


「………わり。俺トイレ行ってくる」

「うん。いってらっしゃい」


 俺は席を立ってトイレに向かう。


 この教室からトイレは結構遠くにある。


「うひ〜、トイレトイレ」


 まだ朝早いと言う事もあり投稿している生徒は少なくトイレには誰も居ない。


 誰も居ない静かなトイレって怖いな………。なんか出て来そうで………。


 トイレを済ませて手を洗い、ハンカチで拭きながら俺はトイレから出る。


 しかし………。


「ちょっと来て」

「うぉ!?」


 誰かに襟を引っ張られて再びトイレへと逆戻りしてしまった。


 個室トイレに投げ入れられて直ぐにガチャっと鍵の掛かる音がする。


「痛ぇ………。誰だよいったい………」


 ようやく犯人の顔を目視する。


「師走さん!?」


 なんで!?ここ男子トイレだよね!?


「………昨日の続き。アンタ信用できないからこうすることに決めたわ」

「言わないって!」


 何で俺の手握るの!?いったい俺何されるの!?


「静かにしろし。この状況で見つかったら皆どっちの言い分を聞くと思う?」

「!?」


 言われてみればその通りだ。

 

 もしこの状況が見つかりでもすれば皆は人気者の師走さんの言い分を信じるだろう。


 カシャ


 ………カシャ?


「はい。証拠ゲット」

「な!?」


 音が鳴り振り向いてみれば何と彼女はスマホで写真を撮っていた。


「あーあ、これでもう言い逃れできないよね?こればら撒かれたく無かったらわかってる?」

「……………」


 ………最悪だ。

 これじゃあもう言い逃れのしようがねーじゃあねぇか!


「………分かった」

「約束、破んなよ?」


 そう言って師走さんはそそくさとトイレを出て行った。


 しばらく俺は放心状態になってその場に座り込む。


「零?いるの?」


 ふと、聞き覚えのある声が聞こえて我に帰り立ち上がる。


「あ、いた!全然戻ってこないから心配したんだよ?」

「………」


 声の主は案の定如月だったが今は彼に構っている暇もない。


「?どうしたんだい?」

「いや。何でもねぇ」


 頭を抑えて手をもう一度洗いトイレを出る。


 とにかく如月さんだ。あの写真を消してもらわねーと!


「悪い、俺用事あるから先戻っててくれ」

「ちょ、ちょっと!?」


 俺はとある人物の知恵を借りるべく足早にその人物がいるであろう場所に向かった。





 私立奈浪高校の三階にある使われていない教室。


 その教室のいつもの場所で外を偶に眺めながら私はお気に入りの恋愛小説を読んでいた。


 そんな中、教室の扉が音を上げ、見知った顔が入ってくる。


「長月先輩!」

「やぁ、天野君。来ると思っていたよ」


 彼を置いて帰ってしまったのだから文句の一つ二つ彼の口から飛び出るだろう。

 門限が迫っていたとは言え彼には悪いことをしたと思う。


「俺、社会的に抹殺されるかもしれません!」

「んん???」


 しかし彼の口から飛び出たのは文句でも恨み言でも無く意外な言葉だった。


 いったい私が帰ってから今までに何があった………!?


「お、落ち着いてくれ。ゆっくりで言いから事情を説明してくれ」


 何とか彼を宥めて事情を聞いていく。


 話しはできたが当の本人は嫌な性格で自分とは馬が合わない事。

 男子トイレに押し入って無理矢理天野君が彼女を襲ったように見せかけた写真を捏造され脅された事。


「それは………大変だったね」

「大変だったね、じゃないですよ!モテモテになる前に学校の嫌われ者になっちゃいますよ!」


 もはや涙目の天野君。

 確かに少し可哀想に思えてくる。


「そうだね………。だが、当初の目的は達成できたんじゃないかい?」

「目的………?」


「女子と話す。昨日見た感じそれはできているんだ。まぁ、今回は運が悪かったと思って次に向かうとしよう。恋愛なんてそう言う物だよ」


 諭すように私は天野君にそう言う。

 まるで子供のような彼を見て私は少しだけ何かをくすぐられる。


「うう、そうですよね………。でも本当にあの写真はヤバいんですよ」


「彼女を雪姫アイスのファンだとバラさなければ良いんだ。モテる男は女の言葉を信じるものだよ」

「はい!」


 涙を拭って天野君は笑顔を見せる。


 感情の起伏が激しいと思う。でも、それが彼の美徳でもあるのだろう。


「じゃあ、少しだけ講義をしよう」

「おぉ!」


「と、言っても君はもう殆どできている。雑談についてだ」

「雑談………」


 私は頷く。


 彼も気持ちを切り替えたようでしっかり私の話に耳を傾けてくれている。


「例えばだが君が誰かと話すとして相手がしどろもどろで全然話が進まなかったらどう思う?」

「………イラつきますね」


「だろ?だから話す時はなるべく詰まらないようにしなければならない」

「なるほど………」


 天野君が教室中を歩き回り、ふと、私の顔を見る。


 どうしたのだろうか?


「先輩は異性と話す時緊張とかしないんですか?」

「………」


 いきなり何を言い出すのかと思えば………。


「しないよ。そもそも私は男と会話をしようとは思わない」

「じゃあ、俺は?」

「君は特別だよ」


 顔を赤らめて動きを止める天野君に私は言葉を続ける。


「君だけだよ。私事で話す家族以外の男は………」


 そこまで話し終わったところで朝のホームルームの五分前を知らせるチャイムが鳴り響く。


「………時間だ。今日の授業はここまで。教室に戻るように」

「はい!ありがとうございました!」


 彼が教室を飛び出して自身の教室に戻るのを見送って再び定位置から見る景色を見る。


 ………まだまだ天野君のモテモテには程遠い、かな。

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