出会いのテクニック
「先ずは自己紹介をしていこうか。君の名前は知っているが私の名前を君は知らない。これは凄い不平等だ」
目の前の美少女に引っ張られて俺は身体を起き上がらせる。
「私は長月神奈。趣味は恋愛小説を漁るのとギャルゲーをする事だ。ギャルゲーの説明は………必要ないかな?」
長月先輩の質問に俺は首を縦に振る。
「よろしい。君は中々筋がいいぞ」
ギャルゲーを知っていることがモテる筋に何か影響があるのだろうか?
「だが、身嗜みはいただけないな」
じろじろと長月先輩が俺を眺めてくる。
………恥ずかしい。
「髪はボサボサ、シャツは半分出ているし、何よりズボンの裾が非対称」
長月先輩がため息を吐く。
俺も指摘された箇所を急いで直していくがやはり髪の毛は手では直せない。
「身嗜みはモテる以前の問題だ。キチンとせずにモテるのは顔がいい奴のみだぞ」
「はい、以後気を付けます………」
長月先輩は頷いて教室の扉を開ける。
「先ずは女子と話ができなければ意味がない」
「………?先輩と話せてますよね?」
「………君は私にも惚れて欲しいのか?」
「え!?あ、いや、その………」
正直に言ったらめちゃくちゃ惚れて欲しい。
でもやっぱり俺と長月先輩じゃ釣り合う気もしない。
「ま、そこは君の自由だ。好きにするといい」
「あ、はい。好きにします」
「素直だな君は………」
俺は先に進む長月先輩の後を追う。
偶に生徒とすれ違うのだが、やはり、見た目通り長月先輩への羨望の眼差しが向けられている。
しかし、中には俺みたいな冴えない男が一緒にいる事に疑問や敵意の眼差しを混ざっていた。
「神奈様よ!」
「今日も美しいわ」
「アイツだれ?」
「知らねー」
「何で神奈様と一緒に?」
「私達なんて一緒に歩いたことすらないのに………」
………やっぱり、冴えない奴って人権とか無いんだな。
きっと帰り際に呼び出されたりして校舎裏に引っ張られてヤキ入れられるんだ………。
「………」
俺は言葉が出なかった。
彼女がカースト上位じゃなければ俺だって周りの奴らと同じことを思っただろう。
でも、やっぱり何か辛いな………。
「………着いたぞ」
「ここは………」
教室の扉の上にある教室名に俺は目を丸くする。
1-3………、って。
「俺の教室!?」
「ほう、そうか。君は実に運がいいな。今回のターゲットはこの教室にいる」
「マジですか!?」
長月先輩がポケットから何かを取り出す。
直ぐにそれが何か理解ができた。
「雪姫アイスの限定キーホルダー!?しかも雪玉君と一緒だよver!?激レア中の激レアじゃないですか!今なら億は行くプレミア物ですよ!」
雪姫アイス。Vtuber界隈では最も登録者を保有するVtuber界の女帝である。
しかも彼女の場合個人で上り詰めている。
俺も彼女の動画を見始めてからはすっかりファンになってしまった。
今長月先輩が持っている彼女のキーホルダーは一年に一度行われるVtuberの祭典Vフェスにて百名限定で販売された物だ。
「君は雪姫アイスのファンなのかい?」
「当たり前です!俺グッズ全部持ってますもん!」
「このキーホルダーも?」
「勿論!」
あの時は本当に苦労した。
会場に深夜から泊まり込みで並んでいた非常識な連中を押し除けて手に入れた逸品だ。
「そんな貴重な物を落とした人間がこの中にいる」
「そうだった!早く届けてあげないと!」
長月先輩からキーホルダーを受け取って急いで教室に入る。
既に教室は夕方と言うこともあり先輩が言っていたターゲットしかいない。
「………」
いきなり入って来た俺に驚いたのかターゲットは言葉を発せずに俺を見る。
一方俺も目の前のターゲットに驚いていた。
………マジか。コイツが………。
ウルフカットの金髪に腰に括られた学校指定の黒いセーター。
一つだけ外されたシャツのボタンからは谷間が見えるいかにも私はギャルですと言うかの風貌。
そんな彼女は如月に並ぶ女子のカーストトップ………。
「師走さん………?」
師走六季だった。
………え?彼女がこのストラップの持ち主?
このオタクを嫌ってそうはリア充系女子が?
「アンタ………誰?」
「同じクラス何ですけど!?」
これは驚いた。クラスメイトなのに名前すら覚えられていないなんて………!
「あっそ。で、何か用?」
「あ、そうだ。これ」
俺は手に持ったキーホルダーを師走さんに見せる。
キーホルダーを見た師走さんが目を見開いて駆け寄って来てキーホルダーを俺から奪い取った。
「これ、アタシの………。え、なんで!?ずっとカバンに入れてたのに!」
ハッとした師走さんが俺を睨みつける。
「まさかアンタ………!」
「待って、誤解だ!偶然拾っただけなんだって!」
「………何でアタシのって分かったわけ?」
意外な質問だ。
でも確かに言われてみれば何故長月先輩はこのキーホルダーが師走さんのだと知っていたのだろうか。
わかんないことだらけだぜ、ったく。
だが、今俺にそれを答えられるわけもない。
何とかして話題を逸らそうと俺は思考を巡らせた。
「そ、そんなことよりも………。それって雪姫の………」
「!?アンタ、この事は絶対に誰にも言わないでよね!」
「いや、そりゃ言わないけどさ………」
「アタシ、アイスは好きだけどアンタみたいなキモいオタクと一緒にされるのは死んでも嫌だから!」
「さっきまで俺のことも知らなかったのに随分な言い草だなおい!」
何だコイツ?カーストトップだか、何だか知らないけど無くしもん届けて貰って礼もないし挙句に罵倒?
仲良くなれると思ったのにとんだどんでん返しだ。
「あーも、埒あかねーわ。悪かったなキモいオタクが話し掛けてよ!」
だから嫌味ったらしく言ってやる。
この口論が一体俺のモテの何の糧になるかは知らないがやることはやったのだ。長月先輩も文句はないはずだ。
「じゃーな!」
教室の扉を強めに閉めて廊下に出る。
「あれ?」
しかし、いるだろうと思っていた長月先輩がいなかった。
「さっきの教室に戻ったのか………?」
結局その日これ以上彼女に会うことは無かった。
ただ、戻った教室の机には外に投げ捨てた筈の俺の学生鞄が置かれていた。
◇
その日の夜、俺は学校から徒歩十五分に位置する我が家へと帰宅していた。
俺の家、と言うより家系は昔っから海外での仕事が多い。
だから家には親父もお袋も居らず完全に一人暮らし状態だ。
特段困ったことがあるわけじゃないが少なくとも寂しさは感じてしまう。
「………………………飯食って風呂入って寝よ」
ゲームをするにももう時間も時間だ。料理して風呂に入ればあっという間に日付は変わるだろう。
だがしかしYO!TUBEだけは料理をしていようがご飯を食べていようが見れる。
「そろそろアイスが配信する時間か………」
そんなことを呟きながら俺は自身のスマホとは別に持っているタブレットを立てかける。
『家臣の皆!こんアイス!』
【今アイス〜】
【こんあいす!】
【今アイス】
『今日はゲーム配信をやっていくよ〜!タイトルはな、な、な、何と最近流行りのスイカゲームをやっていくよ!』
【おぉ!】
【何かと流行りのやつ!】
「スイカゲームか………。今日はフルーツ盛りにしよ」
もう料理を作るのすら面倒くさい。
………風呂もシャワーだけにしよ。
『やったー!スイカ出来たぁ!』
【おぉ!】
【おめ!】
【一発はすごい!】
「え、マジで?俺一回もできないんだけど」
こう言うゲームの才能も人気の一つなのだろう。
愛嬌も、才能も、俺には無いものを全て持っている彼女だからこそ俺は惹かれたのかもしれない。
「………ご馳走様でした」
『それじゃあ今日はここまで!家臣の皆またね〜!』
丁度生配信も終わり、俺はシャワーを浴びてベッドに入った。
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