初めのテクニック
少子高齢化が騒がれている昨今、この俺、天野零十五歳は足りない脳みそで考える。いったい何が原因なのかと。
金が無いから育てられないから?一人の時間がなくなるから?
そう言うのもあるだろう。
だが!しかしだ。
もっと根本的な物なのでは無いのか?そもそも若者が恋愛をしようとしないのが問題なのでは無いのか!?
「長い。もっと簡潔に」
「おにゃの子とラブラブしたい!」
春シーズンの昼休み。私立奈浪高校の空き教室。
クラス屈指のイケメンにしてカーストでもナンバー1を誇る如月彌生と共にそれぞれの弁当を突く。
「別にモテなくてもいいでしょ」
「おいおい、如月君?」
モテる如月君にはモテない憐れな天野君の切なる願望は分からないらしい。
そもそもカーストトップの彼と二人きりで昼ご飯を食べているのが奇跡に近い。
「そもそも、モテてどうするつもりなのさ」
「決まってんだろ。彼女いない歴イコール年齢の汚名を返上するのよ!」
「理由しょぼいな〜」
唇を尖らせながらそう呟く如月。
呟いたとしても俺の耳はその発言を逃さない。
「しょぼくて結構!」
「小学校からのよしみだから言っとくけどその性格を治さないことには絶対に無理」
絶対と付属した断言をされてしまい俺は机に頭を擦り付ける。
………確かに、アニメやゲームの話ばかりをするのはいただけないかもしれない。
「うぅ………。俺に恋愛を教えてくださいMr.キサラギ」
「ヤダ」
即答されてしまった………。
「俺だってさ、彼女の一人くらい………」
「いや、ボクにもいないって………」
「毎日のように告白されるような奴は彼女居るのと一緒だバカ」
俺は椅子から立ち上がって時計を見る。
そろそろ昼休みが終わって授業が始まる時間だ。
「………戻るか」
「だね」
この時の俺は思いも寄らなかったのだ。
このお先真っ暗な高校生活が………。
一人の高嶺の花クールビューティーにより。
一変される事になろうとは………。
◇
誰に向けてかは知らないけれどやりたいと思ったからやらせてもらう。
俺の名前は天野零。十五歳。
今年からこの私立奈浪高校へと入学し、今をトキメク男子高校生へと成り上がった冴えない一オタクだ。
入学シーズンも過ぎて今は授業を受けて駄弁って帰る日々を延々と送っている。
「今日も学校終わり!帰ってゲームしよ」
「また?偶には皆と遊びにいかないとダメだよ?」
親友の如月はそう言うが俺には正直外でワイワイするのは性にあっていない。
「いーんだよ。休日はお前と外に遊びに行くんだから」
「高校生になって外で遊ぶ友達もいないのは悲しいよ」
「ほっとけっての」
そんなことは俺にも分かっている。
最近はゲームをしてもアニメを見ても退屈になることが多くなった。
「じゃあボクは皆とゲームセンターに行くけど………。あまり寄り道したらダメだからね!漫画とかラノベの最新刊があっても………。書い過ぎちゃダメだからね!!!」
お前は俺のお袋か!
校門前で待っていた女子に囲まれて男子と駄弁りながらゲームセンターに向かう如月の背中を見て俺も逆方向へと歩いた。
しかしふと、足を止める。
「何だ………?あれ?」
学校の三階の隅にある空き教室。
いつも俺と如月が弁当を食べる教室。
その部屋の窓に一つの人影が見える。
その人影が、窓を開けて、窓枠に片足を乗せて…………。
「おいおいおいおいおいおい!!!」
もはや最後まで俺がそれを確認することはなかった。
自身の学生鞄を投げ捨てて一目散に三階の端の教室へと向かう。
「おい!廊下を走るな!」
「すいません!」
「じゃあ走るなよ!」
生徒指導の先生に注意されるが当然無視。
目の前に自殺しそうな人間がいるのに走るなと言われても無理だ。
「おい、新入生。焼きそばパン買ってこい」
「喧しい!今時流行らねーよその構文その髪型!」
不良なんかに構ってる時間も今は惜しい。
「お!脚が速いな君!陸上部に入ってみないか!?」
「遠慮しておきまぁぁぁぁぁぁぁぁす!」
部活など最初から入るつもりもない。
だから近寄ってくるんじゃあない部活勢!
「ちょっと待ったァァァァァァ!!!」
「ん?」
ようやく教室に辿り着いて勢いよく扉を開ける。
そのままの勢いで教室へと飛び込んで今にも飛び降りそうな………飛び降り、そうな………。
「………あれ?」
「……………?」
………飛び降りてない?
「よ、よかったぁ………」
ヘナヘナと床にヘタレ込んで安堵の息を吐く。
本当によかった。身投げしようとしたわけじゃなかったんだ。
安心と同時によくよく目の前の人物に目を向けてみる。
綺麗な人だな………。
初めに彼女を見た時に浮かんだのはそれだった。
先ほどは人影だけだったからだろうか、いっそうそう思う。
腰まであるだろう長い黒髪にスピネルのような綺麗な瞳。スラっとしていてそれでも出るところは出ている。
「………何か、私に用かな?様子を見るにただならない感じだけど」
声も透き通っている。いくらでも耳に入れたいような声だ。
窓枠に右足を乗せて窓に背を預けながら座る彼女に俺は言葉を失ってしまった。
「困ったな………」
………いかん!第一印象は肝心だ。
「あ、あの、先程外で身投げしそうな人影が見えて………」
「身投げ?………あぁ。それはすまないね」
何を言おうとしたのか理解したのだろう。
彼女は本を閉じながら俺を見る。
「私はここの景色が好きなんだ」
外を眺める彼女の鼻に風で舞った桜の花びらが付く。
それを取りながら彼女は外を眺めて再び俺に視線を向ける。
そんな彼女もやはり絵になるな………。
「君、名前は?」
「え!?」
ふと、尋ねられて俺は素っ頓狂な声を出す。
こんな綺麗な人が俺の名前を聞いてくれるのか?
「あ、天野零です!現在彼女募集中です!」
「彼女?」
「あ………」
やってしまった………。
昼間に彼女が欲しいって言いまくったからつい反射で行ってしまった………。
絶対引かれた………。
がっくしと項垂れてこれはこれからの教訓にしようと諦めていると目の前から笑い声が聞こえて来た。
「ハハハ。いやー、すまない。そうか、君は彼女が欲しいのか!」
俺が見た目からモテそうに無いからってそこまで笑わなくても………。
笑い続ける彼女を見ながら俺は目尻に涙を浮かべる。
「そうだな………。心配してくれたお礼と笑ったお詫びだ。君の彼女作りに協力しよう」
「??????????」
彼女の言ったことがいまいち理解できなかった。
俺の彼女作りに協力?なして?
「おや、いまいち理解できていないと言った顔だね。ならばもう一度言おう」
窓枠にから降りて彼女が俺の目の前まで寄ってくるとへたり込んだ俺に合わせるようにしゃがみ込み自身の胸へと手を当てる。
「私が、今までの人生で積み上げて来た恋愛のテクニックを君にレクチャーしてやる!」
暖かい春風が窓を通り、彼女の脇を抜けて俺に直撃する。
風に靡く彼女の挑発からは仄かにモモの匂いが漂って、俺はその香りを一生忘れないようにと心に誓った。
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