4 <なんだかんだで腐れ縁>
さて、あれ以降ヤクザがやってくることも無くなり、それなりに警察とは関わらなくなった生活が続いている。と思ったのもつかの間である。
「それで、どうして捜査一課のお二人さんがやってくるのかね・・・」
「それはこっちのセリフにゃ、どうしてにゃあ達がこんなところに来ないといけないのにゃ」
まあ警察を呼んだのは俺なのだが、どういうわけか例の二人が来て卯早美刑事はソファに座り、機嫌の悪い猫柳刑事は背もたれ越しに卯早美刑事の真後ろに立っている。
「うちの係長が前回の殺人事件の件であなたに一目置いているのだけれど、そんなあなたが警察が自殺だとした案件を殺人だと言っているから私たちが駆り出されたのよ。殺人となれば私たち一課の管轄になるということでね」
そう、すべては俺の下に来た一件の依頼だった。一人暮らしの息子が自殺したが、遺書を呼んでもその原因がわからない。そこで俺に直接的な自殺の原因を解明してほしいという依頼が来たのだ。
そんなわけで自殺した息子の家を家探ししていた俺は、警察から親元に返却された遺書とは別の二通目の遺書を発見したのである。
遺書には小さな子供をひき逃げして殺したことが書かれており、色々調査をしたのである。それにしても・・・
「ちょっと、私の耳でイタズラしないで」
「これぐらい我慢するのにゃ。先輩命令にゃ」
猫柳刑事は目の前にある卯早美刑事のウサ耳を先端から根元まで器用にクルクルと巻いていく。
「こうでもしてなきゃやってられないのにゃ」
俺がイライラしているときに緩衝材のプチプチをつぶしているようなものだろうか。それにしても長い耳もあそこまで巻かれると思いのほか短くなるものである。
「夜寝るときはその方が楽そうだな」
「冗談じゃないわ。耳は立っていてこそよく聞こえるのよ」
「それにしても、なんでそいつはそんなに機嫌が悪いんだ」
冗談ついでにその流れでネコのことを聞くが、聞かれた相手より本人の方が先に口を開く。
「そんなの簡単にゃ!お前が気に食わないのにゃ!あんな言葉窓に書いて、警察に喧嘩でも売ってるのにゃ」
まあ堂々と警察署の目の前で『警察の捜査に不満なら』と書かれているので気持ちはわからなくはない。というよりいつも機嫌が悪いのはそれが理由か・・・。
「ロールケーキでも買ってやるから機嫌直せよ」
「それ、私の耳を見て言ってない?」
そりゃあ、誰かさんの丸められたウサギの耳が(略)。
というよりまたバレてる。
「たとえこんな太いロールケーキを食べさせられてもにゃあの機嫌は直らないのにゃ」
そう言って猫柳刑事は卯早美刑事の耳に嚙みつこうとするが、そんな猫柳刑事の鳩尾に卯早美刑事の肘打ちが完璧に入る。
「うにゃー」
「本題に戻りましょうか」
「・・・そうだな」
それからネコを無視して俺たちの話は進む。これも俺にとって大事な仕事だ。殺人の可能性を遺族に伝えたところ自分たちにはもう何がどうなっているのかわからない。ということで警察への説明まで俺がすることになったのである。
「簡単に言えば前に事件のように、ひき逃げの被害者遺族が犯人だとすると辻褄が合うんだな、これが」
こうして俺は卯早美刑事へと事件のストーリーを説明する。あとはそれをどう受け取って捜査していくかは彼女たち次第だが、卯早美刑事は自分がやろうとしていることがさも簡単そうに言う。
「この遺書さえあれば十分よ。あとはその人に自供してもらう」
それだけ言うと俺から二通目の遺書を預かってどこかへ行ってしまった。
そして、卯早美刑事はその日の夜までに自供と証拠を持ってひき逃げの被害者遺族を警察署へ連行してきたのだから大したものである。
だが、できることなら出ていくときに、ここにいる限りずっと機嫌が悪くて扱いにくいネコも一緒に連れ帰って欲しかった。