2-6<二人の殺人者>
数日後、俺は被害者の夫に廃倉庫へと呼び出された。その理由は「妻を殺したかもしれない男を見つけた。あとをつけたら廃倉庫へと入っていった」ということである。
「ここに奥様を殺したかもしれない男が入っていったと?」
「ええ、依然見せていただいた似顔絵に似ていて、男のあとをつけたんです」
廃倉庫に俺と夫の二人で入ると、そのまま倉庫の奥へと進んでいく。俺を殺す算段を盗み聞きした卯早美刑事によれば、このあと夫が俺の気を引いているうちに背後からもう一人が鉄パイプで襲うということで、そうなる前にこちらから夫に声をかけてやる。
「それでここに入っていった『あなたのお友達』はどこにいるんですか」
「え?」
「この倉庫に色々と証拠もあるんですかね。あなたのお友達があなたの妻を殺した証拠とか、あなたがその人の妻を殺した証拠とか」
夫は俺の言葉に真顔になったかと思うとニヤリと笑って大声で笑いだす。
「ははははは、やはり気づいていたか」
「似顔絵を見せた時にあんなに動揺していて気づかない方がどうかしていると思うが」
さて、そう言って倉庫の壁を背後なるように立ち位置を変えると、夫のほかにもう一人の鉄パイプを持ったお友達が静かに登場である。俺はその姿を確認すると倉庫の壁を背にして、俺はそれぞれ包丁と鉄パイプを持った男と対峙する。
「お互いアリバイを作って、それぞれの妻を殺し合ったというところかな」
「ああそうだ、お互い妻をどうにかしたい思っていたからな。馬が合ったんだ」
「人一人を殺せばその報酬として妻を殺してくれるし、おまけに保険金まで手に入る。これほど完璧な計画もないだろう」
まったく勝手な奴らである。
「よくもまあ、見ず知らずの相手を殺せたもんだ」
「目の前の女が妻だと思えば簡単だったさ。妻に聞かせてやりたい罵倒をしながら殺してやったよ」
まったく、うれしそうな顔をして言いやがるものだ。その顔は生理的な嫌悪すら感じさせる。そしてそんな奴らに怒りを覚える人物がもう一人・・・。
「そろそろ無駄話は終わりにゃ」
その無駄話だという話も無駄なような気がするが、猫柳刑事は怒りに満ちた表情のまま男たちとの距離を詰めていき、その猫柳刑事の隣には卯早美刑事も付き添う。
「警察よ、ここでの出来事は最初から見ていたわ。何か言い訳はあるかしら」
「うわぁぁぁ!」
とことん肝の座っていない男たちである。何をトチ狂ったのか、包丁男と鉄パイプ男はそれぞれ猫柳刑事と卯早美刑事へと襲い掛かる。しかし、猟銃を持った強盗犯を叩きのめす相手にあんなもので立ち向かったところで・・・である。
「ぐへっ!」
という声を上げたのは鉄パイプ男である。両手で勢いよく卯早美刑事に振り下ろした鉄パイプは難なく左手で受け止められ、卯早美刑事の右ストレートが顔面のど真ん中に入ってノックアウト。・・・あれはたぶん、鼻の骨が折れてる。そしてもう一人の包丁男はというと・・・。
「包丁を離すのにゃ!離さないなら、こうなのにゃ!」
「ギャー!」
うん、俺はたぶん何も見ていない。たとえ女とはいえ力では獣人には勝てません。腕力のやり合いとなったらあまり彼女たちを怒らせたくはないし、敵にはしたくないものである。