2-5<ウサギの耳>
「どうも、お久しぶりです」
「ん?確か探偵の人。今度は何ですか」
さて警察と協力することになった翌日、俺は再び被害者の夫を訪ねた・・・というより訪ねさせられた。もちろん夫の方は俺のことを見て面倒くさそうな反応をしてくるが俺は話を続ける。
「実は奥様が殺されたとき、近くで怪しい男が目撃されていたんですよ。年齢はあなたと同じぐらいで天然パーマの男なんですが、そんな感じの男になにか覚えはありませんか?これがその似顔絵です」
「い、いいや、何も見、見覚えないな」
わかりやすく動揺してくれるものである。俺が見せた似顔絵はもう一人の事件の被害者遺族の男の似顔絵だ。
「そうですか。まあ私としては乗りかかった船ですからね。とりあえずその男について調べても何もなかったらこの依頼を打ち切るつもりなので、それでは」
こうして揺さぶりをかけた俺は早々にその場を去るとすぐそこの路上で卯早美刑事と合流する。
「動揺してたな」
「ええ、あれぐらいの距離なら私にだって動揺してるのが聞こえるわ」
人間ならあの距離での会話は到底聞こえないが、流石ウサギの耳が頭についているだけのことはある。
それはともかくとして、こうなれば目撃者の話を実行犯に伝えるために夫は妻を殺させた男と連絡を取り合うはずだ。だが、卯早美刑事が言うには俺の協力は今はここまで、あとは事務所にいるようにとのことである。ずいぶんと中途半端な協力のさせ方だが、今回の作戦は全て卯早美刑事の発案であり、俺はそれに大人しく従うことにする。
・・・・・
翌日、探偵事務所に卯早美刑事と猫柳刑事の二人が訪問してきた。どうやらさっそく二人が接触したとのことでその報告である。
「二人は昨日のうちにもう会ったわ」
「そうか、何時頃だ」
「昨日無言電話があったでしょう、その時よ」
確かに昨日の夕方に無言電話があった。どうやらあの電話は、二人は接触したものの探偵の俺に尾行されていないか心配になり、俺の居場所を確かめるためにかけてきたのだそうだ。昨日、卯早美刑事にあとは事務所にいて電話が来たら出ろと言われていたが、そこまでわかっていて言ったのだとしたら大したものである。
「確かに無言電話があったな。それで奴らは何を話したんだ」
「一つはあなたが事件の実行犯の男を特定しかけていること、あと一つはあなたを殺す算段についてね」
まったくずいぶんとしたことを計画してくれるものだと思うが・・・一方で、である
「よくそれだけの話が聞けたな。大声でそんなこと話してるわけでもねえだろう」
「同じ空間にいる限りこのウサ耳に聞こえないものはないのにゃ。それこそ変なことは考えない方が身のためにゃ」
俺の言葉に終始不機嫌な猫柳刑事が割り込んで答える。まあ、猫は気まぐれな生き物なので気にしないでおこう。
「それで俺はどうしたらいいんだ?」
「あとは向こうの計画どおりに動けばいいわ」
そう言って俺は奴らの計画について盗み聞きした卯早美刑事から詳しく話を聞き、その計画にどう乗ってやるのか、どうつぶしてやるのかという話をしていくこととなったのである。