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仲直り

 翌朝、殉職した教官と同期生の葬儀はつつがなく行われた。  

 その葬列に兵士の1人が「今にも誰かを殺しそうだな」とユーマの表情を見て呟いた。

 隣にいた別の兵士もその呟きに、対面に立つユーマを見て冷や汗が額に滲む。


 「あの優しそうな坊主が、あんな顔するなんてな」


 「怖いや、悲しいよりも腹立たしい、許しておけん、復讐心が先立つか。

 危ういなあ。まあ頼もしくもあるが――」


 葬儀が終わった後、ユーマは再び基地の屋上に1人で訪れていた。

 この場所は同期生と4人で良く来ていた場所でもあった。

 設置されたベンチに座り、良く将来の話をしていた。


 こんな軍人になりたい、戦場で活躍したい。

 戦争が終わったら何がしたいとか、退役したらとか。

 こんな恋人が欲しい。

 志望した基地に配属されたい。

 充てがわれた自分の機体を改造して専用機にしたい。


 そんな事を笑い合いながら話していたのだ。

 昨日までは。


 「もっと、苦しませてから殺すべきだったか」


 つい漏れ出てしまった声にユーマは苦笑いした。

 昨日まで候補生最弱だった彼はいつもどうすれば皆の邪魔にならないか、どうすれば被弾を減らせるか、どうやって戦場で生き残るかを考えていた。


 それが、前世の記憶を取り戻してからというもの、どうやって戦場で敵を殺すか、としか考えていない。


 浅ましい、CFに乗っていなければ弱い人間でしかないのに。


 「あの、カザギリ候補生」


 空を仰ぎ、自分に嫌気がさしているユーマの耳に聞こえてきたのはヒノカの声。

 昨日同様、屋上に向かうユーマを見つけ、追い掛けてきたようだ。


 「マシロ候補生か、俺に何か用か……いや、すまない。そうじゃないな。

 俺から謝りに行くべきだった。

 昨日はすまなかった、君に辛くあたってしまった。

 この通りだ、許してくれ」


 ヒノカに振り返り、頭を下げるユーマ。

 そんなユーマの態度にヒノカはアタフタしている。

 

 「頭を上げて下さいカザギリ候補生!私はそんな事気にしてませんから!」


 「……すまない」


 頭を上げたユーマの表情は暗い。

 歳は変わらないが、ユーマには前世の世界で、生きた二十年以上の記憶がある。

 ユーマからすれば年下の女の子にうるさいだのなんだのと言ってしまった様な状態になっていたからだった。


 「私の方こそ助けて頂いたのに、来ないでなんて」


 「あんな目に遭えば混乱もするさ。

 これで手打ちにしよう。

 生き残った以上は殉職した教官や彼奴等の分も生きないとな。

 同期のよしみだ、これからもよろしく頼む」


 「……はい。こちらこそよろしくお願いします」


 手を伸ばし、握手を求めるユーマの手に応え、ヒノカはユーマに近付くと手を伸ばしてユーマの手を握る。


 そんな彼らの様子は監視カメラにて執務室の司令官に覗き見られていた。


 「ふむ、どうやらカザギリ候補生とマシロ候補生は仲直りしたようだ」


 「覗き見は感心しませんよ司令」


 「んー、しかしなあ。気になるではないか若者達の逢瀬は」


 「そ、れ、が!感心しないと言っているのです!」


 執務室に司令官の秘書の声が響く。

 司令官はそれを笑いながらいなすと「で?本題は?」と急に顔をしかめて秘書の女性に聞いた。


 「全く……敵の侵入経路ですが、残骸から回収出来たデータには何も残っていませんでした。

 明日、ご命令通り調査隊を送らせます」


 「明日か……ちょっと遅いな。

 今夜だ。夜通しの調査になるが、第二陣が無いとも言えん、早めに調査隊を出してくれ」


 「了解しました」


 「カザギリ候補生とマシロ候補生の訓練課程の見直しはどうなっている?」


 「その件ですが、カザギリ候補生の戦果を見るに訓練の必要は感じません。

 省略してもよろしいのでは?」


 「カザギリ候補生は確かに大丈夫かも知れんが、マシロ候補生はまだ必要だろう?

 1人で訓練させるわけにもいかない……そうだ!少し早いがバディを組んでの共同訓練に移行させよう!」


 「……司令官、楽しんでません?」


 「……いや?マシロ候補生もシミュレーターでの成績は上々だったろう?

 なら後は若い2人で自主的に訓練してもらって相乗効果を期待しようと、な?」


 「ああ、まあはい。分かりました。ではそのように」


 何か腑に落ちないと言わんばかりに秘書官は司令官に言われるまま、紙の様に薄いタブレットを操作。

 ユーマ、ヒノカ両名に指令として明日からは2人で訓練をする旨を伝えると、タブレットを筒状に巻いて胸ポケットに戻した。

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