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思い出した記憶

 先の戦闘記録の映像を一通り見終わってから司令官は数度頷きながらコーヒーを口に運んだ。


 「ユーマ・カザギリ候補生。どうかね?改めて自分の戦いを客観的に見て」


 聞かれてユーマは司令官の質問の意味を考えた。

 

 どうとは?

 質問が漠然としすぎじゃないか?

 なんて答えるのが正解だ?

 考えろ、相手はこの基地の司令官だ。

 ……まさか全機撃破が不味かったか?一機は鹵獲すべきだったか?


 様々な考えが頭を巡るが、正解など分かるはずもない。

 なので、ユーマは素直に映像を見た感想だけ言うことにした。


 「正直まだまだですね」


 「まだまだ?」


 「はい。最後の一機など特に粗が目立ちます。

 避けたタイミングでブレードを刺していれば、もう一手早く敵機を破壊出来ていました」


 「え、あ、ああ……そうかね。

 いやはや、初の実戦で3機撃破など前代未聞の事態なのだがね。

 撃墜女王カナタ・マシロですら初の実戦では撃破数2機だったのだが。

 それ以上の戦果を挙げておいて自分にダメ出しとは恐れ入るな」


 司令官は顎をさすりながら映像を繰り返し閲覧する。

 ユーマにとっては何か粗探しをされているようで少し緊張したが、司令官は満足気に先程と同じ様に頷いていた。


 「整備の連中が嘆いておったよ。

 撃破されてしまった訓練機より君の訓練機の方が手に負えない、とな。

 関節部のモーターの消耗が激しいそうでな一旦全てバラさなければならんらしい」


 「それは……なんと言いますか。申し訳ありません」


 「まあ君という逸材を守れたのだ。

 訓練機一機なら安い物だよ……いや、これは無神経な発言だったな。

 後で皆に報せが入るが、あす明朝、殉職した4名の葬儀を行う。

 以降の君とヒノカ・マシロ候補生のこれからの訓練日程は見直しが必要になってしまったので、おって知らせるよ。

 ……カザギリ候補生、初の戦場はどうだったかね?」


 「無我夢中でしたので――」


 「そうか、そうだろうな。

 済まないな疲れているだろうに呼び出して。

 今日はもう下がりなさい」


 「お心遣い痛み入ります司令官、では私はこれで」


 退室の許可を貰ったので、ユーマは敬礼して執務室を出るために扉へと向かう。

 そしてスライドした扉を出た瞬間、ユーマは「ああそうだカザギリ候補生」と司令官に呼び止められて振り返った。


 「同じ歳頃の女の子にはもう少し優しくしてやりなさい、良いな?」


 「う、はい。了解しました」


 恐らくはボイスレコーダーに記録されていた戦闘後の会話を聞かれていたのだろう。

 初老を迎えた白髪の司令官は悪戯な笑みを浮かべるとウインクしてユーマを見送った。


 正直なところ、説教覚悟で執務室に来ていたユーマはホッと胸を撫で下ろしながら今度は自室へと帰っていった。


 自室の扉を開くと、今朝まであった筈の友人の荷物が無くなっており自分の荷物だけが、今朝と変わらずに元の位置に置かれている。


 ここでユーマは改めて友人の死を実感したが、それでも涙は流れなかった。


 すまない、以前の僕なら手向けに涙くらいは流せたろうに、今の俺では泣いてやる事すら出来ない。

 そんな事を思いながらユーマは今朝おはようと挨拶を交わした友人の笑顔を思い返した。

 

 それでもユーマの胸中に浮かんできた感情は悲しみではなく怒り。

 当然のように子供を殺したアステリア軍の軍人達への怒り。

 まだ幼い頃、この世界で自分を産んでくれた両親を殺したアステリア軍への怒り。

 

 ああ、そうだ。そうだったな。

 大丈夫だユーマ・カザギリ、ちゃんとアステリアと戦う理由は覚えてるよ。

 

 目を瞑り、前世の記憶と今世の記憶が混じり合って人格が変わってしまった実感がユーマにはあった。

 しかし、自分がユーマ・カザギリである事に間違いはない。

 それを確かめるようにユーマは祈る様に手を握った。


 自室に戻って、落ち着いたユーマは少しずつ前世の記憶を呼び起こしていた。

 

 対人戦メインのゲームのストーリーなど、あってないような物。

 それでもユーマがそのあってないようなストーリーを覚えていたのはひとえにそのゲームが好きだったからだ。

 

 ストーリーの展開は最終的に物量で勝るアステリアが勝利を収めていた。

 だからと言ってこの世界の歴史がゲーム通りに進むわけではない。


 絶対にそうはさせない。


 ユーマは決意を胸にそう誓った。


 そしてもう一つのストーリーもユーマはこの時思い出していた。

 ゲーム内のヒノカ・マシロというキャラクターについてだ。


 本来ゲームのヒノカ・マシロというキャラクターは序盤のストーリーイベントで命を落とすのだ。

 そのストーリーイベントというのが今回のユーマとヒノカが襲撃にあった事件だった。


 その結果、姉のカナタ・マシロが妹の突然の訃報に絶望して精神に異常をきたし、徐々に使い物にならなくなっていく流れ。

 イーステル軍の戦線維持の要がそうなったので徐々にではあるが確実に戦線を維持出来なくなり、最終的に敗北するといったストーリーがあったのをユーマは思い出していた。


 この段階で歴史は変わっている。ゲーム通りにはいかないぞアステリア。

 ……はあ。司令官の言った通りかもなあ、もうちょっと女の子には優しくしよう。


 ストーリーを思い出した事で、不意に屋上で分かれたヒノカの事を思い出したユーマはこの後、眠気に任せてシャワーも浴びずに眠りに落ちた。

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