呼び出し
ユーマはヒノカを屋上に1人残し、基地の廊下を司令官の執務室に向かって歩いていた。
はぁ、何で女の子相手にイライラしてるんだ俺は。
髪をガシガシ掻きながら、すれ違ったヒノカの事を思い出してユーマはため息を吐く。
マシロの姓が示すような白い髪と、紅い瞳が印象的な少女だ。
整った顔立ちは年相応に可愛らしいが、将来美人になるだろうということは想像に難くない。
そのヒノカの白い髪と紅い瞳には理由がある。
イーステルのマシロ家と言えば、敵国アステリアにもその家名が轟く程の名声を誇る。
その最たる例が十年前にイーステルの危機を救い、アステリア軍を大量撃破したカナタ・マシロ。
ヒノカの姉の存在である。
カナタ・マシロ、ヒノカ・マシロ。
この姉妹はイーステルの技術によってフレームライダーとして最適化されるように遺伝子レベルで改造されたデザインベビーとして産み出され、その影響でカナタ、ヒノカ両名共に白髪、紅眼となっている。
前世のゲームのストーリーにもいたなあ。マシロシリーズ。
本人達は知らないんだっけか、自分の出自。
まあそれはゲームの話だし、この世界がゲームの世界と同一とは限らない。
余計な詮索はよそう。
などと考えているうちに、ユーマは司令官の執務室の扉の前に辿り着く。
そしてユーマは扉の横のコンソールを操作して中に居るであろう司令官に声を掛けた。
「司令、ユーマ・カザギリ参りました」
ユーマの声は司令官に届いたのだろう。
扉のロックが外れ、スライドして開く。
「やあ、カザギリ候補生。よく来たね、入りなさい」
「失礼します」
敬礼してからユーマは執務室へと足を踏み入れた。
執務机を挟んで相対する2人。
司令官は「コーヒーでも?」と言いながらタッチパネルを操作。
それに対してユーマは眉をひそめながら首を横に振った。
「そうか、では私だけ頂こうかね」
タブレットをタッチしてコーヒーを頼むと、執務室の壁が稼働して一部開き、中から淹れたてのコーヒーが出てきた。
ユーマは立ち上がろうとした司令官を制止し、コーヒーを受け取ると、司令官の元へと運んで自らは再び司令官の対面へと移動した。
「若いのに気が利くな」
「恐れ入ります」
「ふむ、では本題に入らせてもらおうかな」
司令官は小さな円筒状の装置を机の上に置いて、続いてタブレットを操作した。
その操作に連動して円筒状の装置から映像が宙に浮かび上がる。
映し出されたのはユーマの訓練機が記録していた戦闘中の映像と、マシロ機から見たユーマ機の戦闘中の映像だった。