出撃前のブリーフィング
ムラクモがユーマの元に届いた数日後、ユーマはカナタ、ヒノカと共に最前線へと帰ってきた。
もちろん要塞基地イージス、もといフォートレス級機動兵器キャンサー攻略のためだ。
「キャンサー? 何故蟹なのです?」
「さてな。まあシルエットだけ見たなら蟹に見えなくもないが」
最前線に程近い街、接収したアステリアの基地でカナタが率いる特務隊グレイス含むイーステル軍CFライダーの面々は出撃前のブリーフィングを行っていた。
作戦の概要は単純な物だ、巨大移動要塞を少数精鋭で引きつけ、その間にキャンサーを迂回する形でイーステル全軍で最終防衛拠点へ向かい、攻略を行う作戦だ。
「少数精鋭、となると我々グレイスがキャンサーを引きつける訳ですね? いやあイーステルのお偉方は中々手厳しいっすなあ」
カナタの部下の1人が茶化すように笑い、それに釣られてグレイスの面々から笑いが起こる。
カナタも笑うがその直後「いや、キャンサーを引きつけるのは私とヒノカ、そしてユーマの3名のみで行う」と言った事によって場の空気は凍り付いた。
「は、ははは。流石隊長、冗談がお上手だ」
「だ、だよなあ。3機であんなデカいの相手にするなんて」
カナタの部下達はカナタの言葉を冗談だと思い笑い飛ばそうとするが、ブリーフィングルームの大型モニター前に立つカナタは腕を組んで立ったまま笑う部下達を睨み付けた。
「これは軍上層部が決めた作戦だ。作戦名はホワイトアウト。私達3名がこの先の荒野地帯で戦闘している間にお前達は更に後方まで進軍しアステリアの最終防衛基地を制圧しろ。グズグズするなよ? 先に私達がキャンサーを仕留めて合流した時にまだ基地制圧が完了していなければ私とユーマとヒノカの3人で貴様らをシゴいてやるから覚悟しておけ」
カナタの言葉に本来なら部下達は返事をするのだが、部下達は押し黙ってしまっていた。
それと言うのも現在拠点をおいているこの街に迫りつつあるキャンサーにイーステル軍が何もしなかった訳もない。
空軍やグレイスや一般のCF部隊が何度かキャンサーに攻撃を仕掛けたが、空軍はキャンサーの対空兵器に為すすべなく多数が撃墜され、イーステル軍CF一般機とグレイスのCFにも被害がでている。
それどころかキャンサーには接近することすら出来ていない。
そんなキャンサーの攻略を3機で行うと言うのだ。誰が「ああ了解です」などと言えようか。
しかし、イーステルのエースであり上司であるカナタから「返事をしろ馬鹿共!」と怒鳴られては仕方なく皆一様に「イエスマム‼︎」と立ち上がって敬礼する他なかったのだった。
「おー怖」
「ちょっとユーマ」
「ああ、ごめんごめん」
「作戦開始は明朝0500に開始する。迂回する部隊は今より行動開始、ユーマ、ヒノカはここに残れ」
「了解」
2人を残し、基地が慌ただしくなる。
ミーティングルーム内にはカナタとヒノカ、そしてユーマが残り、ミーティングルームのモニターにはキャンサーの詳細図が映し出されていた。
「さて、じゃあキャンサー攻略会議といきましょう」
先程までの鬼教官のごとき雰囲気のカナタはどこへやら、2人に笑顔を向けるカナタはいつも通りの2人の姉の雰囲気そのものだ。
「姉様、本当に軍は私達だけにアレを攻略しろと?」
「ええ、その通りよ」
「隊長、アレって縦に割れると思います?」
「ふむ、あの移動要塞キャンサーだが、その巨体を支える為に機体中央にGFSが搭載されている筈だ。重力子反応が確認出来た事からも確定だろう。GFSは未だ開発途上の技術だ。イーステルの技術でもこの惑星の引力圏での飛行を簡略化する技術は完成には至っていない。恐らくキャンサーの中に搭載されているGFSも大型で尚且つ不安定な出力の物の筈。私達はそれを破壊してキャンサーを自壊させるつもりで事に当たる。結果、確かにあの巨大な蟹は縦に割れるかもな」
「じゃあ装備は装弾数の多いガトリング、あとは装甲打ち抜く為のパイルバンカーやらバズーカが必要になりますかねえ」
「そうだな、予備の武器コンテナや予備弾倉はヒノカのシロガネに担当してもらうが、良いわね?」
「俺達でフォワードっすね、了解です」
「そういう事よ。義弟君は聞き分け良くて助かるわぁ。部下達にも見習わせたいわねぇ。ねえヒノカ」
尊敬する姉に同意を求められてしまっては「はい」としか言える筈もなく。
この日はこれにてブリーフィングを終了翌朝まで休む事になった。




