ムラクモ
格納庫でユーマを待っていた新型はユーマの要望通りの外見だった。
ヒヒイロカネと同様に戦車の様に鋭角的な装甲は雪を思わせる程に真っ白に輝いている。
ハニカム状のカメラをバイザー型の保護シールドに収めた頭部の両側面には通信用のブレードアンテナが伸び、額にあたる部分からも剣の様なアンテナが伸びていた。
そして背面にはウエポンラック兼用したイーステルの最新型スラスターが搭載されており、肩に搭載されたスライド移動用のバーニアや機体背面に集中して配置されたスラスターによってヒヒイロカネよりも機動性を高めている。
「おー。格好良いなあ」
「機体名はムラクモというそうだ。ユーマ君、マニュアルを確認しておいてくれ」
「もう乗って良いんですか?」
「ああもちろん、コックピット辺りの整備は万全だからね」
「ありがとうございます機付長」
格納庫でヒノカがシロガネに搭乗するのを見送ったユーマは、ユーマの専用機になる新型CFムラクモの機付長、専属の整備兵と話をしていた。
「稀代のエースライダーもそんな顔で笑うんですね」
「そりゃあね。専用機となると嬉しくもなります」
「ムラクモはヒヒイロカネの強化改装型でもあります。リアクターも胸部とスラスターの2つを直結した新仕様。ヒヒイロカネよりも扱いは難しい事は確実。実際、テストパイロットはムラクモの加速性と機動力が怖くて100%の性能テストは出来ませんでした」
「良いですね、そういう機体好きですよ」
「くれぐれもお気を付けて。このCFはイーステルの科学力の結晶、もはや二足歩行戦車とは呼べない代物です」
「この世界の二足歩行機動兵器としての始祖になる機体ですからね」
機付長の話に頷きながら、ユーマはボソッと呟きながら地球での記憶に思いを馳せる。
カナタとユーマが地上でCFを縦横無尽に操るのは例外と言える。本来CFという兵器は発展した戦車なのだ。
しかし、このムラクモは違う。
各所スラスターの使用による出力任せな物ではあるが、短時間ながらに飛行すら可能にしている機体だ。そんな物はもはや戦車とは呼べない。
ゲームではこのムラクモからCFは戦車というカテゴリから外れ、CFという独立したカテゴリに分類されるようになる。
それ程にムラクモはヒヒイロカネ以上に高性能の機体としてゲームの歴史では認知される事になっていった。
「さて、俺がそんなムラクモの性能を引き出せるかどうか」
機付長を残し、ユーマはムラクモのコックピットに向かった。
開かれたコックピットの中に入り、シートに座る。
シートに座るとコックピットハッチが閉じ、目の前の一面がモニターとなり外の景色が浮かび上がる。
コックピット内の前半分がモニターである為に宙に放り出された様に感じるが、ユーマはその感覚が好きだった。
シートの左右から伸びる操縦桿を握るユーマはその感触に懐かしさすら覚えていた。
前世でカナタと戦った世界大会で使用した機体がムラクモだったからだ。
「ただいま。ってのは何か違うか。でも、ああ、やっぱり良いなあCFのコックピットはワクワクしちゃうなあ」
決戦前に不謹慎だとは思うが、ユーマは機体のシステムを呼び出し、目の前に表示された量子ディスプレイを操作して機体の性能の確認をしていく。
数字の上では要望通りの性能だ。
ユーマはその表示された半透明の量子ディスプレイ上の数字に満足気に微笑むと次の攻略対象である要塞基地、いや、フォートレス級機動兵器、通称キャンサーの攻略法を模索する。
ただ、ユーマが考えるのはどうすれば攻略できるか、では無く、どうやって料理してやろうかという物だった。
「キャンサーを沈めてからが本番だからなあ。はぁゲームならコンテニュー出来るんだけどなあ、まあ頑張るしかないよな」
自信無さげにそんな言葉を溢すユーマだが、その表情はどこか楽しげだ。
イーステルの上層部だけでなく、アステリア軍の上層部ですら知らない最終決戦の開幕は間近に迫っている。
その事を知っているのはユーマとカナタ、そしてーー。
ユーマはこの後、カナタから許可を得てムラクモのテストの為に基地を出る。
そして数日後、作戦名ホワイトアウトは発令されるのだった。




