状況終了
ユーマの次なる一手は敵CFを串刺しにしたまま、盾代わりにしての突撃だった。
猛然と迫るユーマの訓練機に恐れをなしたか、髭面の男は目一杯両足のペダルを踵で引き、ユーマの訓練機に銃撃しながら全力で後退する。
「なんなんだ貴様は!新米以下の候補生がなんでこんなに動ける!?」
混乱している訳ではない。
ただただ目の前で起こっている現実を否定しようと、髭面の男は声をあげたのだ。
足裏の無限軌道がアスファルトを削りながら、アステリアのサイクロプスは後退するが、後退よりは前進の方が速度で勝るのは当たり前だ。
仲間の亡骸などお構いなしに髭面の男はトリガーを引いたが、ユーマの機体に銃弾が届く事は無かった。
「馬鹿な、候補生ごときにこの俺様があ!」
ユーマは敵CFの弾切れを狙い、両足のペダルを一気に踏み込む。
それに呼応し、訓練用CFの背部とふくらはぎに搭載されたスラスターユニットが火を噴いた。
空を飛ぶ為の物ではないが、その加速力たるや、有に通常速度の倍を叩き出す出力はユーマをコックピットシートに押し付ける。
それでもユーマはお構いなしに速度をあげた。
「こいつ!死ぬのが怖くないのか!?」
このまま突撃すれば敵CFを巻き込んでビルに突っ込む。
襲撃の初手でユーマを襲ったCFのように単騎ならば出力に物を言わせて突破することは出来たかもしれない。
しかし、このまま行けば3機分の質量を伴ってビルに突撃する。
そうなれば基礎部分を破壊されたビルの倒壊に巻き込まれる可能性がある。
そうなるのはゴメンだと言わんばかりに、サイクロプスのライダーである髭面の男は押し合いに持ち込もうと後退を止め、両足のペダルを踏み込んだ。
だが、それこそユーマの狙いだった。
ユーマは敵が残骸に触れたのを見計らって先程と同じ様に機体を回転させた。
さながらマタドールのように、突っ込んできたサイクロプスを残骸を手放して避けたのだ。
結果、サイクロプスは前のめりに転倒する事になった。
「が、っば、馬鹿な。俺は俺達は何を相手に――」
髭面の男はこの言葉を最後に意識を手放した。
比較的装甲の薄い背面を晒したのだ。
ユーマはそこを訓練機の背面に備え付けられている実体剣にて背面からコックピットを突き刺し、髭面の男ごと潰して本日3機目の敵機体を撃破した。
「はぁ、はぁ……っつ。これで全部か?」
実体剣を引き抜き、サイクロプスが落としたライフルと弾倉を拾うと、実体剣は背部にマウントして、ライフルは銃弾を装填してビルの影に機体を移動させた。
レーダーに反応は無い。
どうやら3機で全てだったようだ。
「聞こえますかガザギリ機!マシロ機!」
不意にユーマの耳に聞こえてきた女性の声。
それは指揮車に乗っていたオペレーターの声だった。
指揮官機は襲撃当初、3機に襲われ敢え無く撃破されたが、指揮車は離れた位置で待機していたために襲撃を免れていた。
「こちらユーマ機、聞こえます」
「良かった、ああ、本当に良かった!無事ですか?状況は?」
「落ち着いてくださいオペレーター。
敵3機、撃破完了しています。
マシロ機は無事です、外観からは損傷は確認出来ません。
しかしライダーが気を失っているようなので一旦救助に向かいます」
「敵3機撃破、ですか?」
「報告は後ほど、今は人命を優先します」
「り、了解」
この時、オペレーターはユーマの異変に気が付いていた。
普段の彼は物腰の柔らかい少年で、誰に対しても優しく接していた。
しかし、今の彼からはまるで機械のような印象を受けたのだ。
ユーマは機体をマシロ機に近付けると、コックピットハッチを開き外に出て、CFの腕を伝い、倒れているマシロ機に取り付き、コックピットハッチの外部にある強制開放用のパスを入力。
マシロ機のコックピットハッチを開いた。
「なんだ。起きてるじゃないかヒノカ・マシロ。大丈夫か?」
「いや!来ないで!」
「落ち着け。俺だユーマだ、助けに来たぞ」
「敵、敵は!?」
「倒した」
「嘘よ!」
「じゃあなんで俺が此処にいるんだ?……無理もないか。
嘘だと思うなら機体を起こして状況を確認しろ、俺は戻る」
「ち、ちょっと待って!」
「うるせえ、餓鬼のお守りなんかしてられないんだよ」
ぶつけて痛む頭と突然思い出した前世の記憶と今世の記憶のせいで意識が混濁しそうになるのを必死に堪え、今はまず基地へ帰らねばとユーマは機体に戻ったのだった。