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地獄行きの切符

 「今晩は2人に食事を用意させているから食べて行きなさい。

 ヒノカ、久々に帰ってきたんだお風呂も用意させたから入ってきなさい。

 ユーマ君、ちょっと男同士で話をしないかね?」


 ヒノカの父親の言葉にユーマとヒノカは顔を見合わせて頷く。

 そしてヒノカは立ち上がると「ではお言葉に甘えます」と言い残して部屋を後にした。


「ちょっと歩くが、構わんかな?」


「ええ、お付き合いしますよ」


 ヒノカが部屋から出て行ったのを見送り、その後ヒノカの父親も立ち上がったのでユーマも立ち上がり、ヒノカの父親の先導で部屋を出ると廊下を進んだ。


 そして2人は庭園の見える縁側に辿り着く。


「綺麗な庭園ですね」


「ほう、その歳で分かるかね。

 実はこだわっていてね。あそこの岩もわざわざ……ああいや、今はそんな事は良いんだ。さて、ユーマ君」


「はい。なんでしょうか」


「君は何者だ?」


 そのヒノカの父親の質問の意味が、ユーマにはなんとなく分かっていた。

 カナタとヒノカはCFに乗り多大な戦果を挙げられる様に造られたデザインベイビーだ。

 普通の人間ではないある種の改造人間である。

 

 しかし、ユーマは正真正銘のナチュラルな人間。

 そんなただの人間がシミュレーションとは言え、惜敗したとは言え、カナタを追い詰め、ヒノカの世代の候補生ではヒノカを抑えて最優秀成績を叩き出し、あまつさえ訓練機にて型遅れとは言え、実戦配備されている敵正式量産機を単機で複数機撃破した。


 ユーマの存在自体がカナタとヒノカを造った父親からしてみれば当然の疑問なのだ。


 この質問にユーマは困ってしまった。


 前世で何万回も実戦さながらのゲームをしていた記憶があるから、と言って信じて貰えるはずもないからだ。


「何者か、ですか。

 そうですね、十年前、僕を助けてくれたCFのライダーに憧れてCFのライダーになりたくて、血の滲むような努力と勉強をしたCFが好きな奴としか言えませんね」


 嘘は言っていない。

 ユーマ・カザギリという少年がCFのライダーを目指した根底にある想いは本当にそこにある。

 ただ、その少年がちょっと変わった前世の記憶を思い出しただけだ。


「血の滲むような努力と勉強、か。

 人の想いとは時に変わった現象を引き起こすというが、まさか娘達を超え得るライダーすら産み出すと言うのか? それも後天的に」


 ユーマに聞こえるか聞こえないかの声でブツブツ呟くヒノカの父。

 そのヒノカの父親にユーマはなんと言って良いか分からずオドオドしてしまう。


「いや、変な事を聞いてしまったな。

 君は娘を助けてくれた恩人でもあると言うのに」


「ああ、いえ。大丈夫です」


「質問を変えよう。

 なあユーマ君、君はイーステルがアステリアに勝てると思うかい?」

 

「……僕は、いえ俺は、絶対に勝つつもりです」


 ユーマを見るヒノカの父親の目を真っ直ぐ見返し、ユーマは言う。

 そんなユーマの目を見て、ヒノカの父親はしばらく腕を組み、何かを考え込んだ。


「……この話は他言無用だ、良いかな?」


「……はい」


「イーステル軍の上層部はオペレーションホワイトアウトを予定している。

 本来ホワイトアウトとは気象学分野において、雪や雲などによって視界が白一色となり、方向・高度・地形の起伏が識別不能となる現象の事を言うが…………軍が言うホワイトアウトとは白を外す事。

 詰まるところ優秀なライダーである“マシロ”のライダー2人を囮に使って敵を誘い出し、手薄になった重要拠点を襲撃する作戦だ」


「姉妹2人を犠牲にするつもりなんですか」


「あの娘達、特にカナタはアステリアにとっては目の上のタンコブだ、そのカナタが孤立しているとなると奴らは確実に食い付くだろう」


「ヒノカのお父さんはそれに納得してないですよね、じゃなきゃわざわざ俺にこの話はしないはずですから」


「ああ、その通りだ。察しが良いなユーマ君は。

 君が注文した新型機を私達は急ピッチで開発している。

 それこそホワイトアウトに間に合うように」


「俺にも囮になれと」


「すまない、こんな事を頼みたくはない。

 だが君をホワイトアウトに組み込んだ場合、シミュレート値ではあるが、娘達の生存確率が大幅に上がるのだ」

 

「確率を教えていただいても?」


 ユーマの言葉に、ヒノカの父親は悲しそうに顔をしかめて下を向く。

 それだけの行動で、2人の生存確率が低いのだとは理解出来た。


「2人を犠牲にする作戦だ、ホワイトアウト発令時の2人の生存確率は0。

 だが、ユーマ君を組み込んだ場合の2人の生存確率は15%に跳ね上がる。

 頼む、どうか娘達を助けてくれないか」


「15%ですか」


「厳しい事を言っているのは分かる、だが――」


「軽口と思われるかも知れませんが、敢えて言います。

 任せて下さい、2人は絶対死なせません。

 生存率15%? 冗談じゃありませんよ、俺が2人の生存率を100%に引き上げてみせます」


「ありがとう。出来る支援はなんでもする。

 君はヒノカの婚約者、私にとっては息子も同然なんだから」


 今にも泣き出しそうなヒノカの父親が縋るように手を差し出す。

 コレは契約だ、この手を取ればユーマの地獄行きは確定する。


 しかし、迷う理由が何処にあろうか。


 ユーマは今も前線で戦っている友の為、そして愛するヒノカと同じ戦場に立つために、その手を喜んで握り、地獄行きの切符を手に入れた。

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