ヒノカの実家
ユーマとヒノカを乗せた高級車が、しばらく地下高速を走り続けていたが不意にトンネルを抜けたか、眼下に湖と森林を見下ろす山沿いの道に出た。
開発が行き届いてないわけでは無い。
湖の更に向こう側には恐らくここら一帯を囲っているのであろう、ビルよりも高い壁が遠巻きに確認出来た。
国立公園とか自然保護区域なんて都心の近くにあっただろうか。
等とユーマが考えていると、ヒノカが「久しぶりだなあ」と呟いた。
もうそろそろヒノカの家に着くのだろうかと思ったユーマは、ヒノカに「そろそろ到着するのか?」と聞いたのだが、ヒノカから返ってきた答えにユーマは驚く事になる。
「ん~家まではまだ距離があるかなあ。
敷地内ではあるんだけど」
「え、もう敷地内なのか?」
「そうよ? あの壁が見えるでしょ? あの壁に囲まれてる場所は全部マシロ家の土地なの」
「は? え? 嘘だろ!?」
「まあ普通そう思うわよねえ、でも本当なの」
「はぁ~、スゲェなヒノカの実家は」
この森林地帯の地下に軍の研究施設があるのだが、ユーマはもちろんヒノカすらその事を知らない。
その研究施設内で遺伝子操作され、産み出されたのがカナタとヒノカだが、産まれてからは地上の家で暮らしていた為2人は地下の研究施設の事を知らないわけだ。
カナタは前世の記憶がある為に自分がデザインベイビーとして産み出されたことを知ってはいるが、ヒノカに至ってはそれすら知らない。
ヒノカにとってはこの森林地帯は本当に実家の土地でしかないのだ。
そうこうしているうちに、高級車が止まった。
「着いたみたいね」
「う、緊張してきた。何言われるんだろうな俺」
「ヒノカお嬢様、ユーマ・カザギリ様、到着致しました。こちらにどうぞ」
メディが扉を開き、ユーマがヒノカに続いて車を降りると、目の前に両開きの大きな木の門が佇んでいるのが目に入った。
その門までの道にメイドが数人、頭を下げて待っている。
その前を通ると「お帰りなさいませヒノカお嬢様」と口を揃えてメイド達は挨拶をした。
「皆ただいま、この方はユーマ・カザギリ、私のパートナーです。粗相のないようにね?」
「はい、お嬢様」
こうして門まで来ると、その門がギギギと音をたてながら自動で開く。
その先にあったのは見事な長屋型の日本家屋、嫌、この世界で言うならイーステル風家屋だ。
「城みたいだな」
「お父様がイーステル建築が好きなの。
まあ、私も嫌いじゃないけど」
「和風の家は俺も好きだなあ」
「わふう?」
「ああいや、こっちの話だ」
「そう、じゃあ行きましょうお父様が待ってるわ」
そう言うとヒノカがユーマに手を差し出した。
繋げ、という事かと思い、ユーマはヒノカの伸ばした手を握る。
顔を赤らめるヒノカが照れ臭そうに笑う。
ユーマもそれにつられて微笑んでいた。
引き戸の玄関、石造りの土間で靴を脱いだ三人は、何処か懐かしい気がする艶のある木の廊下を進んでいくと、前を歩くメディがある襖の前で止まった。
「旦那様、ヒノカお嬢様とユーマ・カザギリ様をお連れしました」
「ああ、ありがとうメディ。入ってくれ2人とも」
「失礼します」
メディが襖を開き、ユーマとヒノカの2人は和室に足を踏み入れる。
そこにいたのは着物を着て黒縁メガネを掛けた男性、ヒノカの父親だった。




