弔い合戦の準備
現在のユーマとヒノカの上官は一応北方基地の司令官だ。
しかし、北方基地の司令官は北方基地の抱えていた問題を解決したユーマ達に独自行動の権限を与えている。
故にユーマが申請した北方基地より南、ユーマ達が元いた基地よりは北、丁度2つの基地の間にある工業地帯への偵察を北方基地の司令官は止めなかった。
「マシロ、解析班から送られてきたデータは見たか?」
「ホログラム化してくれてたわね、見やすくて助かったわ」
ヒノカが通信端末内のデータを宙に表示させながら言ったのを見て、ユーマは自らの通信端末を開き、ブリードを追った先で見つけたデータを閲覧し始めた。
作戦会議と言うほどの物でもない、2人の会話は自室で行われていた。
次の出撃も2人で行うつもりだからだ。
作戦会議室を使わせてもらうのもなんだか申し訳ないと思ったからというのもある。
「6人中、3人の顔写真のデータにアウトの字。
俺達を襲った部隊は3機だった、人数は合ってる。
データが正しければ残り3機がまだ工業地帯の何処かに潜伏している訳だ」
「部隊長の男の名前は、アーシュ・ヴィラ・リーラ。
私達を襲った部隊を指揮していた男。
元傭兵か、こいつ……目つき悪いわね」
「人殺しの目だな…………今の俺もこんな目つきなんだろうか」
「そんな訳ないじゃない! あなたの眼は、優しくて素敵よ」
「あ、ああ、それはなんというか。ありがとう」
「べ、別にお礼を言われるような事は言ってないわよ」
顔を背けるヒノカを見て、ユーマは苦笑する。
そしてユーマは端末に視線を戻すと今度は潜伏しているであろう工業地帯の地図のデータを開き、一帯の操業状態のデータと見比べていく。
「この辺り、戦前に別の場所に移転した会社の工場が取り壊されずに残ってる場所があるな」
「敷地も広いから機体を隠すにはうってつけね。
まだいると思う?」
「どうかな。それも込みで偵察に出るからな。
いなければそれは仕方無い。
でも、もしいたらその時は――」
「弔い合戦ね」
「そうだ、死んでいった同期や教官の無念を、俺達が晴らす」
例えそれがエゴだとしても。
とはユーマは口に出さなかった。
そして次の日の朝。
ユーマとヒノカは格納庫にて出撃準備を開始。
工場の敷地内での戦闘を前提に装備を選んでいた。
「基本装備のライフルと盾は持っていくとして、銃剣付きサブマシンガン2丁をマウントラッチに、ショートブレードは腰に2本、俺はコレで行くか。
マシロ、準備はどうだ?」
「予備弾倉コンテナの接続待ち。もう少しだけ待って」
「了解」
マシロのハガネへの装備の換装終了を待って2人は北方基地から出発。工業地帯への移動を開始した。
敵に察知されるリスクを抑える為と、日中は近くの工場で働く民間人も多い事から到着する時間を夜に設定した2人は比較的ゆっくりと件の工場へと向かっていく。
目的地に向う途中、街の近くを経由した際の事。
ユーマはカメラに映る車の後部座席に乗った子供が此方を見て手を振っているのを見掛けたので、シロガネの手を振って応えた。
「サービスするじゃない?」
「良いだろ別に、減るもんじゃなし」
「あの子が大きくなる頃には戦争が終わってたら良いわね」
「ああ、そうだな。俺達の子供には戦争の無い世界を見せてあげたいな」
「なんで私がカザギリと子供を?!」
「……ん? マシロと俺の子供って意味じゃ無かったんだけど?」
「あ、え、違うの? じゃなくて! 紛らわしい言い方しないでよ馬鹿!」
一方的に怒鳴られ、通信を切られたユーマは急に大声を出されたので耳を塞いで、困ったように眉をひそめた。
「……帰ったら俺の気持ちを伝えるかなあ」




