逆襲
この日、とある任務の為にアステリア軍から隠密行動に長けた部隊がイーステルの領土内に侵入していた。
その任務とは、いわゆる初心者狩り。
国力ではアステリアが大きく上回るが10年ほど戦局が拮抗したままなのはイーステルのCFの性能がアステリアのCFの性能を上回る事が理由の一つとなっている。
そしてもう一つの理由にライダーの腕の差が挙げられる。
イーステルはCFの開発当初からライダーの教育にも力を入れていた。
結果、物量の差をライダーの強さ、CFを操縦する上手さで埋める事に成功しているわけだ。
とはいえ、十年戦えばアステリアもライダーの教育は滞りなく行われ、今やイーステルがライダーの質、CFの質でやや優勢程度にまで追い付かれてしまっているのもまた事実。
そんなおり、アステリア軍上層部が始めたのが各地域に点在する基地の新戦力狩りだった。
まだ実戦慣れしていない候補生を狩り、新戦力の補充を行えないようにする。
気の長い作戦ではあるが国力に、人材に余裕のある大国アステリアにとっては確実に、そして安全にイーステルの戦力を削れる。
そんな作戦だったのだ。
この日までは。
「α2の反応が途絶だあ?馬鹿が、雑魚相手だからと油断するから」
「どうします隊長、せっかくの女ライダーっすよ?」
「殺せ」
「えー。もったいないっすよ」
「女なら任務の後にでも買えα3」
髭を蓄えた髭面の男がやれやれと単眼の愛機であるCFのコックピット内で、部下である軽薄そうな男の言葉に首を振った。
そんな時だ。
髭面の隊長と呼ばれた男とα3と呼ばれた軽薄そうな男の機体に警告音が鳴り響いた。
「残った訓練機がこっちに来る。
馬鹿な奴だ逃げれば自分は助かったろうに」
髭面の隊長はコックピットのモニターの端に映るマップに敵を示す赤い点が此方に向かって来るのを見て呟いた。
しかし、言葉とは裏腹にその口角は釣り上がり、意地の悪い笑みを浮かべている。
「α3!お客だ!鉛玉をくれてやれ!」
「うぃーす隊長。まあ、あっちのお嬢さんは後で頂ますよう」
L字の角から撃ち漏らしたCFが生きている仲間を助けに出てきた所にライフルの弾丸を浴びせるだけの作業。
飛び出してきた敵CFに合わせて引き金を引く。
正規の軍人でなくとも、なんなら子供にすら出来る簡単な仕事だ。
そしてそれはつつがなく実行された。
ビルの影から飛び出してきた機影に単眼のCF2機がマニピュレータに握らせているライフルの照準を合わせて、引き金を引いた。
無数の銃弾がビルから飛び出してきた機影を撃ち抜き、瞬く間に穴だらけにしていく。
「おい待て!コレはα2の!」
異変に気がついたのは髭面の隊長だった。
ビルから飛び出してきたのは反応が消えた筈の味方の機体だったのだ。
鳴り響く警告音は消えない。
宙を力無く舞うα2の機体。
いつの間にか眼前に迫る標的だったはずの訓練機。
ビルの影から標的の訓練機が飛び出したのは誤って味方の機体を穴だらけにしている最中だった。
「アステリアのサイクロプス!仲間を殺したなあ!!」
ユーマは操縦桿を引き、右足のペダルを踏み込み、左足のペダルは踵で引っ掛けて引き込む。
そのユーマの操作に応え、訓練機はかがみ込むと同時に回転。
アステリアのCF、サイクロプスの横をすり抜けた。
髭面の隊長が乗る機体もα3の機体も先に飛び出した味方の残骸に照準を合わせて発砲した為、ユーマの訓練機に照準を移そうとしても、屈んだ機体に照準が間に合わなかったのだ。
すり抜けると同時、倒れるヒノカの訓練機とα3の間に割り込んだユーマは、振り返ろうとしたα3のサイクロプスの脇腹に奪ったライフルの銃口の下に装着されていた銃剣を突き刺す。
ユーマはサイクロプスのコックピットごとα3を潰し、この日2機目の敵を撃破した。