追撃叶わず
ブリードが後ろ手に持ったボールペンサイズの起爆ボタンを押すと、ガディアスとブリードのオーガのパーツの隙間から黒煙が噴出。
ユーマのシロガネのコックピットのモニターを真っ黒に染めた。
「煙幕か! 逃がすかよ!」
「追って来るのは構わないが、はたしてお連れさんは無事かな?」
「貴様! マシロに何を!?」
「さあ、何かな?」
ブリードのオーガは最早視認出来ない程に黒煙は辺りに広がっていた。
ユーマはシロガネのライフルのトリガーを引き、先程まで黒いオーガが佇んでいた場所を射撃するが、手応えは無い。
ジャミングでレーダーも効かなくなってしまっては追撃は困難と判断したユーマは、ヒノカの安否確認の為にマップに示したヒノカのハガネの最終位置を頼りにシロガネを移動させる。
心配は杞憂だった。
ヒノカのハガネは無傷で最終位置で盾とライフルを構えて待機していた。
「無事かマシロ!」
「ええ無事よ! 敵は!?」
「すまない逃した。足跡を追う、行けるか」
「行くわ。ハガネは無傷だし、私もまだ戦える」
敵からの攻撃を警戒し、煙が薄くなるのを待って、2人はオーガの足裏が刻んだ地面の履帯跡を追い始める。
その頃、ブリード達は黒煙の中を全速力でもと来た道を戻っている最中だった。
「旦那、予想通りでしたか」
「いや、アレは予想以上の化け物だ。
イーステルが羨ましいな、赤鬼のライダーに一本角のライダー。
この二人が私の駒ならば…………いや、無い物ねだりはいかんか。
しかし当たりではある、アレなら問題ない。
…………よし、作戦終了だ。
各機、予定していた通りに坑道に戻れ。
昨晩言った通り坑道に戻り次第、出入り口から順次爆破する、瓦礫に巻き込まれて死ぬような無様は許さんからな」
「「「了解!」」」
ブリード達はオーガを全速力で進ませて坑道に侵入。
最後尾のブリードは出入り口に入る前に機体を止めて、ユーマが追ってきているであろう方角を見て不敵に笑うと、マニピュレーターから小さなコンテナを落とし、部下のオーガ3機に遅れて坑道に入る。
「手土産だ少年、君なら上手くやるのだろう?」
ブリードはそう呟くと、あらかじめ仕掛けておいた爆弾の起爆スイッチを押して坑道を崩落させながら坑道を突き進み、イーステルの地から姿を消した。
そこに数分遅れてユーマのシロガネが姿を表したが、その頃には坑道は完全に塞がれ、人が通る事すら出来無いほどに崩されていた。
「カザギリ、これは――」
「洞窟? いや、坑道だったのか、足跡は此処で途切れてるな。逃したか。ん?」
崩れた坑道の出入り口をスキャンするシロガネのセンサーがある物を捉えた。
ブリードの黒いオーガがわざと落とした小さな箱、コンテナボックスだ。
ユーマはシロガネのセンサーでそのコンテナボックスをスキャンして、爆発物や毒物で無いことを確認したのでコックピットに近付けると、ハッチを開いてそのコンテナボックスをコックピットに持ち込んだ。
「ちょっと!? 大丈夫なの!?」
「スキャンはした、問題ない。とりあえず押収品として持ち帰って解析に回そう。何か情報が手に入るかも知れない」
「え、ええ分かったわ、分かったけど。気を付けてね」
「……ああ」
この日から北方基地周辺に敵機が確認されることは無くなった。
その事実報告ともう一つの功績を北方基地から軍本部に挙げられ、2人は正式に特務隊への転属が言い渡されるが、それは少し先の話し。
北方基地に持ち帰ったコンテナボックスの中にはデータチップが1枚入っていたのだが、そのデータと言うのがユーマ達の所属していた基地周辺の地形データと、攻撃を仕掛ける場所、タイミングが書かれたテキストデータ。
そして、その地域の初心者狩りを担当する部隊の構成員のデータが数人分と、その部隊が潜伏可能な場所のデータがチップから得られたのだ。
「俺が初めて倒した3機。あれが全部じゃなかったのか。
…………待ってろよアステリア。借りはのし付けて返してやる」




