帰ってきた二人
大国アステリアは現在より遥かに昔から周辺諸国に戦争を仕掛けては勝利し、敗北した国の土地と民を搾取しその国力を増してきた。
イーステルは科学技術の分野ではアステリアを含めた他国より抜きん出て発展しているが、国力で言えばアステリアの半分以下の小国である。
CFの開発が間に合わなければ、イーステルとて既にアステリアの属国だった筈だ。
現に戦場でCF同士が戦うようになってからというもの、イーステルは徐々に圧され始めている。
カナタ・マシロがいるからこそ、辛うじて拮抗を保てているというのが現状なのだ。
アステリアの国民はこれまでの歴史通り、アステリアが勝利すると信じてやまない。だからだろうか。
勝ち戦で命を捨てるなど愚か者のすること。
ユーマに頭部を破壊されたサイクロプスに搭乗していたアステリアの隊長はそんな事を考え、自爆も自害もすることなくあっさり投降し、ユーマとヒノカに北方基地まで連行された。
「凄まじいな、サイクロプス8機をたったの2機で撃滅せしめるとは、流石はネイビーといったところか」
「恐れ入ります。
運が良かったのです。
初手で半数を撃破出来たのは僥倖でした。」
「謙遜しなくても良いではないか。
君達は事実やってみせたのだから」
基地の尋問官にアステリアの隊長を引き渡し、ユーマとヒノカはタブレットに乗機から抽出した戦闘記録を片手に、司令官に状況報告するために執務室へと足を運んでいた。
実際、ユーマの奇襲で1機撃破した後のヒノカのグレネードランチャー乱れ撃ちで4機のサイクロプスを撃破出来たのは偶然だ。
ヒノカがグレネードランチャーで統率をかき乱し、ユーマが混乱に乗じてサイクロプスを各個撃破していく。
そんな作戦だったのだが、ヒノカの放ったグレネードは見事敵を撃破。
そのおかげでユーマは残りの3機のサイクロプスをあっさり破壊し計8機を全滅させることが出来た。
「楽に済んだのは、マシロのおかげだ。ありがとう」
司令官への報告を終え、夕食のために食堂に向かう廊下を歩きながらユーマが言った。
その言葉にヒノカは隣を歩くユーマに視線を向ける。
「あんなの偶然じゃない? 運が良かっただけよ」
「前も言ったろ? ライダーには運も必要なんだよ」
「なら私はさしずめ勝利の女神ってとこかしら?」
腕を組み、胸を張ってドヤ顔するヒノカ。
そんなヒノカにユーマは「ああ、マシロは女神だよ」と、ヒノカを見もしないで歩みを進める。
一方でヒノカはユーマの言葉に照れたのか、はたまた冗談をスルーされて恥ずかしかったのか顔を真っ赤にしてユーマの後ろを隠れるようについて行った。
その後、食堂で食事を終えた二人は部屋に戻る前にどちらから言うでもなく基地の屋上へと向かう。
そこで二人は夜風に当たりながら今日の初陣について話し始めた。
「初陣はどうだった? 怖かったか?」
「いえ、貴方との訓練のおかげかしらね。恐怖は無かったわ。
特に私は敵を直接見たわけじゃないしね。
カザギリはどうだった? 2回目の近接戦闘は」
「特に何も感じなかった。
そうだな、本当に何も感じなかったよ。
怖いとか、心配とか一切無かった。
戦闘後もそうだ。
人を殺して、もっと、なんていうか罪悪感とか感じるのかと思ったんだけどな。何も感じないよ」
何も感じない、ユーマはそう言って星空を仰いだ。
しかし、ヒノカはユーマの横顔に悲哀を見た気がして、そんなユーマから視線を反らせないでいた。
そしてヒノカはユーマの手にそっと自分の手を添える。
「どうした?」
「あなたが泣きそうだから」
「そうか? マシロも泣きそうな顔してるぞ?」
「そんな事――」
「ありがとうなマシロ、大丈夫、俺は大丈夫だから」
悲しそうにユーマを見つめるヒノカ。
そんなヒノカをユーマも困ったように見つめた。




