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出撃前夜

 部屋に入って直ぐはまだ良かった。


 デスクに紙の様に薄いディスプレイシートを広げて地図を表示し、通信端末からホログラムで出力させた襲撃ポイントを照らし合わせ、次の敵の動向を予測したり、明日の偵察ルートを決めたりしている時はお互い所謂仕事モードだったので気不味さなどは一切無かった。


 問題はこの後だ。

 一応の予定を決めた後遅めの夕食を食堂で食べ終えて部屋に戻ってきた時。

 ユーマが部屋のシャワーを浴びるためにタオルと下着、軍服のパンツ片手に浴室に入った後。

 持て余した時間をヒノカはどうして良いか分からず自分のベッドの上に座って膝を抱えてユーマのシャワーが終わるのを待っていた。


 せっかく仲良くなるチャンス、何か話題はないかしら。

 ……うう、思い付かない。

 

 と、このように。

 ヒノカは意中の少年と仲良くなるにはどうすれば良いか考えていたのだが、男のシャワーなど烏の行水の如き物。

 ヒノカの考えなどが纏るよりも遥かに早く、ユーマはシャワーを終えて浴室から出てきてしまった。


「先に使ってすまなかった。

 どうしたマシロ、顔が赤いぞ」


「な、なんで上、着てないのよ」


「ん、ああすまない。いつもの癖だ直ぐに着替える」


 拭いてはいるが未だに濡れた黒い髪。

 汗が滲む引き締まった筋肉質な体は日頃の訓練の成果が見て取れる。

 健康的な少年の肉体は恋する乙女には刺激が強かったようだ。


「次、私が入るけど、覗かないでよね!」


「………………分かった、善処しよう」


「今の間なに?!」


「冗談だよ。早く入って来い、覗かないから」


「言われなくても、入るわよ」


 膨れっ面をしたヒノカは着替えを持って浴室へ向かっていった。

 自動扉に阻まれてシャワーの音は聞こえないが、逆にそれが少年の妄想力を刺激する。


 前世でもこんな経験したこと無いから、こういう時、どうすれば良いか分からんな。

 まったくこうなるかもと思って別の場所で寝るって言ったんだがなあ。


 しばらくして、ヒノカもシャワーを終えて浴室から出てきた。

 下はユーマと同じく軍服のパンツを穿いていて、上はシャツ一枚。

 まだ所々濡れているのか、長い白髪をマシロはガシガシとタオルで拭いている。


「おい、マシロ。せっかくの綺麗な髪が傷んじまうぞ」


「き、綺麗? 私の髪が? べ、別にカザギリには関係ないじゃない。いつもこの後でちゃんと整えるから良いのよ。

 それとも何? カザギリが髪整えてくれるのかしら?」


「髪触られるの嫌じゃないならやっても良いけど」


 意中の少年に気持ちを悟られたくない少女は強気に「髪整えてくれるのかしら?」と聞いたが、少年は少女に対してクロスカウンターを食らわせた。

 浴室に備え付けられているドライヤーを持ってくると、ユーマはベッドの上に座ると手招きしてヒノカを呼んだのだ。


「っく、負けないわ」


「何にだよ」


 ヒノカは愛用の櫛をユーマに手渡すと、腹を決めてユーマの前に座り、整髪をユーマに委ねた。

 まるで面接官の前に座る就職活動中の学生の様にガチガチである。


「ね、ねえカザギリ」


「どうした?」


「貴方、将来の夢は何?」


 沈黙に耐え兼ねたヒノカに不意に聞かれてユーマは解答に詰まった。

 将来の夢。

 ユーマの夢は、アステリアへ復讐する事だ。

 その後の事など考えたこともない。


 なのでユーマは今考えた、安直で良い。

 戦争が終わったら、どうしようかな、と。


「そうだなあ。

 海の見える街か湖の近くの街で可愛い嫁さんと一緒にのんびり暮らしたいなあ。

 犬と猫飼って、休日には釣りしたりしてボケッとして暮らしたいなあ」


「可愛いお嫁さん……ねえカザギリ――」


「よし、髪終わったぞ。さあ明日は初陣だ、今日はもう寝よう」


「え、ええ。そうね……」

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