派遣要請
ヘイズがユーマのデータを本国に持ち帰ってから数日後の事。
ユーマの所属している基地に、ある要請が別の基地から発信された。
「派遣要請ですか?」
「うむ。北方基地からのな。
どうやらアステリアの初心者狩りが現れたらしい」
「北方基地周辺に、ですか」
司令官の執務室に呼び出されたのは新人ライダーであるユーマとヒノカのバディ。
この二人を呼び、この話をしてくるという事は、司令官はユーマとヒノカ二人を派遣する気なのだ。
そんな事はユーマはもちろんヒノカも理解している。
故に派遣させる事前提でユーマもヒノカも司令官の話を聞いていた。
「北方基地の新人ライダー狙いという事ですか」
「まあ敵の狙いなんぞ分かりたくもないが恐らくそうだろうな。
あの基地は北の国境に北方連山を有しているから侵入し難い。
故に本部はCFの配備数を他の基地より減らしていたらしいんだが、裏目に出たな」
「被害はどうなっているのでしょうか」
「新人ライダー6名のうち死亡3名、重傷3名と聞いた」
「北方基地の新人は全滅みたいなものですね」
ユーマの言葉に司令官は困ったように肩を竦め、ヒノカは拳を握り締め、下を向いてしまった。
ユーマも平気な顔をしているが、ヒノカ同様に拳を握り締めている。
あの日襲撃にあった日の事を思い出していたのだ。
「新人ライダーの初陣には少々荷が重いかも知れんが、行ってくれるかね?」
「ユーマ・カザギリ、派遣要請に応じます」
「同じくヒノカ・マシロ任に就きます」
「うむ。流石に基地から全機出すわけにもいかん。だが、正直この基地で最有のライダーが君達だと思っているのもまた事実だ、実績もあるしな。
故に君達に頼む。
北方基地の指揮下に入り、周辺に現れた初心者狩りを撃滅、あわよくば鹵獲して敵ライダーから侵入経路を聞き出して欲しい。
まあ指揮下に入りとは言ったが、君らはネイビーだ、戦場では好きにやりなさい。
死ぬなよ? 生きて帰ってくるように、分かったな」
「「了解」」
司令官に敬礼をした後、二人は執務室を出た足で格納庫へと向かう。
「北方基地までは輸送機で行きたいところだが、不意遭遇戦もあり得るしCFで直接行くか?」
「そ、それはつまり二人っきりって事!?」
「あ、ああそうだけど、嫌なら輸送車を――」
「ちが! 嫌ってわけじゃないの」
「そうか、それなら良いけど」
格納庫に行くと、司令官から既に指示があったのだろう。
ユーマのシロガネも、ヒノカのハガネも既にエンジンに火が入っている状態で出撃準備が進められていた。
「カザギリ、初陣だな」
「俺の場合どうなんですかね? あの襲撃事件が初陣だった気がするんですけど」
「あんなのが初陣でたまるかよ、今回は戦地に赴く心構えをしてから行くんだ。
お前達の初陣は今回だよ。死ぬなよカザギリ、機体なら何回壊しても修理してやるから、ライダーのお前は絶対に死ぬなよ」
「確約は出来ませんが、あえて言います。
俺もヒノカも絶対に生きて帰ってきますよ」
シロガネに搭乗して計器類の確認をしているユーマに整備長が通信越しに言ってきたが、声に普段の覇気が感じられない。
若いライダーの出撃を憂いているのかも知れない。
そう思ったからこそ、ユーマは微笑みながら「生きて帰ってきます」と言ったのだが、逆効果だったようだ、整備長の顔がみるみる曇っていった。
「カザギリ、こちらマシロ、機体チェック完了、弾薬コンテナと予備の武器も担いだわ」
「了解、ライフル、シールド、ブレード確認よし。
コンテナボックス背部マウントラッチへの接続確認よし。
こっちも大丈夫だ、行こう」
「了解、シロガネに追従するわ。お先にどうぞ」
「分かった。ユーマ・カザギリ、シロガネ発進します」




