もし、専用機が貰えるなら
データ収集はつつがなく進み、ユーマはヘイズの指示を難なく達成していく。
シミュレーターの横に設置されている端末のモニターにCFのデータとライダーのデータが表示されているのだが。
ヘイズはそのデータを見比べ、確認しながら口元に手を当てて不敵な笑みを浮かべていた。
「おいおい、どうなってるんだこりゃ。
遺伝子操作も人体改造もしてないただの人間の少年が、どうしてこうもCFを巧みに操れる?
こんな数値、実戦経験のある熟練ライダーでも出せない…………ユーマ君、次だ。
指定されたルートを通って目標地点に向かってくれ、次は仮想敵も出す、出来るだけ攻撃を回避しながら撃破して進んでくれ。
今回もハガネ、シロガネ、ヒヒイロカネの3パターン分データを取らせてもらうよ」
「了解、データ収集続行します」
その後もユーマはヘイズの指示に淡々と従い、ヘイズの予想を上回る結果を叩き出していく。
ゲームみたいで面白いな。
ユーマはそんな事を思いながら仮想敵の攻撃を回避しながら通り過ぎざまにブレードで撃破。
ハガネ、シロガネ、ヒヒイロカネの性能に合わせて回避方法や攻撃方法は変わるが、結果だけで見れば同じだ。
掠めることはあったが、ユーマは全ての攻撃を回避した上で仮想敵を破壊していく。
「シミュレーションとはいえ、回避率100%……尋常じゃないな。
天才? いや、こんなのは天才なんて言葉に収まらない。
まるでCFに乗るために生まれてきたみたいだ」
「あの、恥ずかしいんですけど」
「あ、すまないインカムのマイクがONのままだったよ。
ユーマ君疲れてないかい? 休憩するか?」
「まだ大丈夫です、続けてください」
「分かった、じゃあ次に行こう」
ユーマとヘイズのデータ収集は昼休憩を挟んで日が傾くまで続いた。
ヘイズとしてはもう少し早く切り上げるつもりだったのだが、ユーマが想定を上回る結果を叩き出していく為、途中からヘイズはユーマがどこまで無茶振りに耐えられるか試したくなってしまった。
ユーマもユーマでその無茶振りをゲーム感覚で楽しんでしまった結果、長丁場となったのだ。
「凄いなユーマ君。開発局の考えたテスト項目全部を想定以上の数値でクリアするなんてなあ」
全てのテストを終え、夕食を食堂で食べた後。
ユーマとヒノカ、ヘイズは食後のコーヒーを片手に今後の話を勧めていた。
「なあ、ユーマ君。もし専用機を与えられるならどんな機体が欲しい?」
「それは俺の専用機を建造して頂けるということですか?」
「もし、もしの話だ。
金は軍のお偉方が出してくれるから問題ないが、専用CFの建造には設計コンセプトによるが開発には時間が掛かるからな」
「でしたら、短時間でも構いません。
飛行可能なCFは建造出来ませんか?
CFが空を飛べるようになれば作戦の幅が拡がると思うのですが」
「俺達が頭を抱えてる問題を突いてくるねえ。
ん〜、今のイーステル軍の開発局や民間企業の技術では理論上はスラスターの出力に物を言わせた短時間の飛翔は可能なんだが。
GFS、グラビティフロートシステムの小型化がどうにもならなくてなあ。
後20年はCFは空を飛べないというのが有識者の見解だ」
「構いません、ヒヒイロカネより出力のある機体をお願いします」
「ふむ、となると関節強度は強化するとして、内部フレームはヒヒイロカネのフレームを改良していた実験機の物が流用出来るか? 一度設計班と話を詰めるか」
ユーマの話を真摯に受け止め、手帳サイズのタブレットにメモを残していくヘイズ。
フレームライダーがCFに興味が無いわけもなく、隣で話を聞いているヒノカも興味しんしんだ。
「武装は何かあるかい? こんな武器が欲しいとか」
「ヒヒイロカネと同様に横方向の移動をスムーズに行いたいので、その辺りを加味していただけると幸いですね。
専用装備は互換性に問題ありそうなんで、既存の装備を満遍なく使えるなら特にはいりません。
欲を言えば既存装備の改良した物が欲しいですね、特にライフルの弾速を上げて装弾数を増やした――」
このユーマとヘイズの話は夜遅くまで続き、ヒノカが眠気から船を漕ぎ始めたあたりでようやく終わりを向かえた。
「あ、そうだ、もう1つ。
パーソナルカラーはどうする?」
「機体の色ですか……シロガネと同じ白が良いですね。
戦場で目立つ色はそれだけで敵の気を引いて味方を守る遠因になると思いますので」
「ハハハ、いつだったか、カナタ・マシロも同じ事を言っていたなあ。
分かった白だな。
紅いヒヒイロカネ、白い新型。
2機が並ぶ光景は壮観だろうなあ」
「ちょっとおめでたい色の組み合わせですかね」
「良いじゃないか、ゲン担ぎは嫌いじゃないぞ?
ありがとうユーマ君。今日はお疲れ様。
俺は明日データを持って本部に帰るよ」
「本日はお疲れ様でした、データ収集楽しかったです」




