恋と戦争
自室に戻った二人は新たな軍服を身に纏い、待ち合わせをした後でいつもの様に訓練するために基地内のシミュレータールームへと向かった。
「ネイビー!? お前達が?! あ、いや失礼しました!」
「け、敬礼なんてやめてください先輩。
俺達も今し方受け取ったばかりで実感が無いんですよ」
「ああ、いや、そうかあ。お前達の成績なら確かにネイビーになるわなあ。
訓練機での撃墜記録もあるし」
シミュレータールームに入った途端の出来事だった。
ユーマとヒノカの姿を見たシミュレーターの空きを待っているライダーの先輩諸兄が座っていたベンチから立ち上がり、二人に向かって敬礼してきたのだ。
シミュレータールームに向かう廊下で擦れ違った人と敬礼を交わすのは良くある事なので、特に何も思わなかったが、こうやって改まって先輩達に敬礼されることにユーマもヒノカもむず痒さを感じている。
「この基地からネイビーが出たのって初めてじゃね? スゲェな二人共」
「ありがとうございます先輩。
これも先輩達のご指導ご鞭撻があったお陰です」
「お? なんだぁカザギリ、嫌味かあ? 言うようになったじゃねえか」
「そんなつもりで言ってませんよ。
先輩達から色々教わったのは事実なんですから」
体格の良い先輩に頭をグリグリ乱暴に撫でられながら、ユーマは言うと照れ臭そうに笑う。
そんなユーマを見てか、ヒノカも微笑んだ。
「おお?! カザギリとマシロ、二人共ネイビーじゃん!」
シミュレーターでの訓練を終えた先輩ライダー達も輪に加わり、ユーマとヒノカを祝福し始めた。
これでは訓練どころでは無い。
そう思ったユーマとヒノカだったが、遅れてやってきたこの基地のCF部隊の部隊長が「やかましい! 訓練に戻れ馬鹿共!」と一喝。
先輩ライダー達は火の粉を散らすようにシミュレータールームから出ていったりシミュレーターに飛び込んだりしていった。
「まったく、若い連中はこれだから……まあ騒ぎたい気持ちは分からんではないがな。
おめでとうございますユーマ・カザギリ、ヒノカ・マシロ。
お二人なら間違い無く紺を与えられると思っておりました」
「あの隊長、そんなに畏まらないで欲しいんですが」
「……カザギリ、マシロ。二人共に言っておく。
ネイビーに認定されたからといって浮き足立つなよ?
ネイビーに認定されたと言うことはこれからの作戦はお前達二人を中心に据えた物が立案されることになる。
実際、この基地で一番強いバディだからな。
既に二人は経験した訳だが、本物の戦場と訓練は違うのだ。
それを肝に命じて……うむ、まあなんだ。
要は死ぬなって事だ。
例え最前線に赴くことになっても絶対に死ぬな、死ぬなよ」
部隊長の目の奥に、二人は悲哀と怒りの感情を
感じていた。
だがそれが自分達に向けられた物ではない事など百も承知している。
二人は部隊長から最前線での事を聞いた事がある。
やすやすと討てる敵ばかりの筈なのに物量に押し負ける悔しさ。
同部隊の仲間がその物量に押しつぶされていく悲惨さ。
敵に阻まれ味方を助けられない無力さ。
一重に、赦しておけぬぞアステリア。
そんな感情が部隊長の瞳から、声から感じられた。
「約束します隊長、俺は、俺達は死にません。
生きて、略奪を良しとするアステリアを討ち滅ぼします」
「……私は、私もアステリアは許せません――」
でも、という言葉をヒノカは呑み込んだ。
ヒノカもアステリアは憎い。
そう教育されたし実際にアステリアの蛮行は目にした。
しかし、同じ人だ。
戦争以外の解決策はないのかと考えない日は無い……いや、それは言い過ぎか。
ここ数ヶ月、特に最近ヒノカはユーマの事しか考えていない日がある。
もしかしたら、恋する乙女にとっては戦争なんかよりも意中の少年の事を考える方が大事なのかも知れない。




